デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ニカの夢をホレス・シルヴァーが音で描いた

2008-03-02 08:12:50 | Weblog
 テストだと言い、大学の受講生をグラウンドに集合させ、問題が書いていない白紙をバラまく。白紙の答案に批判や罵声を書いたものだけに単位を与えたのは、現東京経済大学教授の粉川哲夫さんだった。粉川さんが81年に書いた「ニューヨーク街路劇場」にパノニカ夫人が登場する。とはいっても彼女自身ではなく、パノニカ夫人似の女性が、ニューヨーク大学のゼミで足をテーブルのうえになげだす例を挙げ、当時日常的に使われ、大統領までもが会議中に使った「ファック」という言葉にも言及したアメリカの「時代の行儀」を読んだものだった。

 パノニカ夫人とはバップ時代にジャズミュージシャンの後援者であったニカ男爵夫人である。パーカーとモンクの最期を看取った人であり、その尽力がなければ世に出るとことがなかったプレイヤーもいたであろう。多くのジャズメンに慕われていた彼女だけあって、モンクの「パノニカ」、ジジ・クライスの「ニカズ・テンポ」、ソニー・クラークの「ニカ」等、捧げられた曲も多い。その中にホレス・シルヴァーの「ニカズ・ドリーム」がある。ニカのジャズへの愛情を理解していたシルヴァーは、じっくり曲を練ったのだろう。太く優しいメロディラインはニカの大きさを感じさせ、ジャズを愛する全ての人を包み込む名曲が出来上がった。

 この曲の初演は56年のジャズメッセンジャーズ名義のアルバムに収められており、60年の「Horace-Scope」は再演になるが、フロントにブルー・ミッチェルとジュニア・クックを配したシルヴァー・バンドの黄金期だけあって初演を上回った内容だ。ファンキー名盤として名高い「Blowin'The Blues Away」や、ライブはこうあるべきの手本ともいえるヴィレッジゲートの「Doin'The Thing」を生み出したメンバーだけのことはある。ミッチェルは線が細いながらもブラウン直系でよく歌う。クックは生で聴いたことがあるが、息継ぎもせず延々と吹く長いフレーズは、レコードでは聴きことができない迫力があった。派手さはないが確かな実力を持ったメンバーは、シルヴァーの「時代のファンキー」を如実に音で描いている。

 ビ・バップ男爵夫人とも呼ばれたニカの夢は、人種的な差別がなくなりジャズが「時代の音楽」になることだった。ビ・バップがジャズの一時代を築き、広く認められたことで夢の一つは叶ったのだろうが、黒人が大統領に就任した場合、暗殺の懸念があるという今のアメリカを見る限り、ニカの夢が実現されるのはまだ先のような気がしてならない。
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27 コメント

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ホレス・シルヴァー・ベスト3 (duke)
2008-03-02 08:16:35
皆さん、いつもご覧頂きありがとうございます。
ファンキー・スタイルを確立したシルヴァーのアルバムは、サイド作品を含めると80枚近くあります。リーダー作は甲乙付けがたい秀作揃いですので、何が挙げられるのか楽しみです。お気に入りのアルバムをお寄せください。

管理人 Horace Silver Best 3

Stylings Of Silver (Blue Note)
Blowin'The Blues Away (Blue Note)
Doin'The Thing At The Villagegate (Blue Note)

粉川哲夫さんの授業を受けたかたもエピソードをお聞かせください。
今週もたくさんのコメントお待ちしております。
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今夜決定?シルバー・ベスト3 (KAMI)
2008-03-02 21:32:19
duke様、皆様、こんばんは。
シルバー・ベスト3・・duke様に大賛成です!!!

「スタイリングス・オブ・シルバー」と「ブローイン・ザ・ブルース・アウェイ」は、昨年11月に私が主催した「ジャズ鑑賞会」の時に、手持ちのシルバーのアルバムを聴きなおして選んだ2枚なのです。
そして「ドゥーイン・ザ・シング」は最後まで悩んだアルバムなのです。
いま誰かにシルバーのお奨めのアルバムを尋ねられれば迷わずこの3枚をあげます。
そしてmiles御大も大賛成のはずです。(笑)
と言うわけで、シルバー・ベスト3は決定ではないでしょうか?
後は、楽しい場外乱闘ですね。ヱビスと木刀を持って臨戦態勢です。(笑)

それにしても、duke様のベスト3と全く同じとは・・赤い糸で結ばれているのでしょうか?(笑)
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ファンキーの伝道者 (duke)
2008-03-02 23:07:50
KAMI さん、こんばんは。

初日から決定ですか。挙げた3枚はジャズ喫茶でリクエストが多い順番に近いでしょう。「ジャズ鑑賞会」で紹介したのでしたら、それはシルヴァーの魅力を十分に伝えたものと思います。ファンキーの伝道者を KAMI さんが、伝道したことになりますね。

miles御大はライブ優先で、「Doin'The Thing」がトップで、ジャケ買いの「Blowin'The Blues Away」が次にくるでしょう。3枚目の屁理屈派選択が楽しみなところです。

いやぁ、赤い糸ですか。女性とはそう願いたいですが、KAMI さんとはシルヴァーだけに銀の糸にしておきましょうか。(笑)
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やり残した仕事 (25-25)
2008-03-03 02:14:59
ホレスのベスト3は、以前の私のBBSでは
扱っていませんでした。
前にそのことに触れたのを、覚えていて下さってのかな?

リーダー作の手持ちはLPで5枚、CDで5枚の計10枚。
ベスト3を語るには、ぎりぎり合格でしょうか?
最近、とんと聴いていないので、ちょっと聴き直して
みますので、選出結果はしばしお待ちを。

只今のBGM・・・・
「The Cape Verdean Blues」
Woody shaw, JJ, Joe Henderson という超豪華な
3菅をフロントに配したブルージーな作品。

今、気が付いたんですが、ホレスは殆どの作品において、
オリジナル曲以外に1曲だけスタンダード若しくは
他のジャズメンのオリジナルを入れる、というアルバム構成を
取っていますね。

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ファンキー (miyujki)
2008-03-03 13:01:51
ホレス・シルヴァーは、一時はまりました。
ファンキーといっても、翳りのあるファンキーといったら良いでしょうか、そんな感じを受けます。

Stylings Of Silver (Blue Note)
Blowin'The Blues Away (Blue Note)
Paris Blues (Pablo)

余談ですが、ニカ夫人がタイトルになっている曲を調べたら、ずいぶんたくさんありました。

セロニアス・モンク 「パノニカ」
ホレス・シルヴァー 「ニカズ・ドリーム」
ソニー・クラーク 「ニカ」
ジジ・グライス 「ニカズ・テンポ」
ケニー・ドーハム 「トニカ」
ケニー・ドリュー 「ブルース・フォー・ニカ」
バリー・ハリス 「インカ」
フレディ・レッド 「ニカ・ステップス・アウト」
トミー・フラナガン 「セロニカ」
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残した仕事の引継ぎ (duke)
2008-03-03 19:09:52
25-25 さん、ホレスも取り上げていませんでしたか。やり残された仕事の一部は覚えておりますが、確かピアニストではシアリング、ジャレット、スティーヴ・キューンで、ホレスは紹介済みと思っておりました。ホレスは何度でも話題にしたいプレイヤーですね。

「The Cape Verdean Blues」のタイトル曲は威勢がよくて好きですよ。JJ参加はB面3曲で物足りなさがありますが、JMの3管を思わせる厚いハーモニーが聴きものです。ジャケの女性は「African Queen」で、「Pretty Eyes」です。(笑)

オリジナル曲以外に1曲だけ他のオリジナルを入れるとは鋭い指摘ですね。私も今気付きましたよ。「The Cape Verdean Blues」はジョーヘンのMo' Joeを入れていますね。「Song for My Father」もジョーヘンの曲を入れていました。曲作りの上手い人ですので、全曲オリジナルでも通せると思いますが、アクセントなのでしょうか。
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夫人 (duke)
2008-03-03 19:23:06
miyujki さん、こんばんは。

上位2曲が同じでしたね。週初めで決定でしょうか。
Paris Blues (Pablo)は残念ながら聴いておりません。「Tokyo Blues」や、「Filthy McNasty」が収録されておりますので、Emerald から出ていた64年のライブかと思いましたが、こちらは62年のライブのようですね。ライブ盤が少ないので貴重です。

記事を補足するニカ夫人のタイトル曲を調べていただき、ありがとうございます。随分ありますねぇ。メロディが直ぐに出てくるのは数曲です。やはり夫人ともなればあれこれ想うのでしょうか・・・エマニエル夫人とか、軽井沢夫人とか。(笑)
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Paris Blues (miyuki)
2008-03-04 11:44:34
Paris Blues (Pablo)は、ブルー・ミッチェルがいいソロをとっています。
テナーのジュニア・クックはモードっぽい演奏をしていて、ブルーノートの、いかにもバップ、という雰囲気とは、少し違いますが、これがまた魅力ではないかと思います。

>エマニエル夫人とか、軽井沢夫人とか。
カマキリ婦人というのもあったような・・・。
なんて、私ったら、何を言っているのでしょう(汗)
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かまきり (duke)
2008-03-04 19:31:12
miyuki さん、Paris Blues のご紹介ありがとうございます。ジュニア・クックはハバードと来日したときに聴きましたが、モードも取り入れておりました。ライブでは自由に吹きまくるようですね。

miyuki さんからキューリ夫人ではなく、かまきり夫人が出てくるとは驚きました。五月みどりさん主演でして、ナニの後にオスを食い殺すメスかまきりのような熟女を演じておりました。何故か観ている私です。(笑)
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あれ・・・ (KAMI)
2008-03-04 22:28:45
duke様、皆様、こんばんは。
今回は、シルバーなのにmiles御大がまだあらわれない・・・。おかしい・・・不思議だ!
屁理屈派だけに、シルバーの全アルバムを聴きながら秘策を練っているのでしょうか?
そして隙を見て、あっと驚く曲球を投げてくる・・・かもしれませんね。

はーやくこいこいmiles様!!!
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