地球から120億光年離れた銀河の中に、これまで見つかっている中で最も遠くにある、最も大量の水の雲が確認されたと天文学者が発表した。
地球の質量の400億倍に達するこの巨大な水蒸気雲は、クエーサーと呼ばれるタイプの活発に物質を飲み込む超大質量ブラックホールの周囲を取り囲んでいる。
クエーサーというのは、宇宙の中でも特に明るくエネルギー放出の大きな天体だが、実体は銀河の中心に存在するブラックホールであり、周囲の降着円盤の重力エネルギーを消費し、同時に強力なエネルギージェットを逆に放出している。
研究の共著者でカリフォルニア州パサデナにあるカーネギー天文台の天文学者エリック・マーフィー氏は、「ブラックホールは、この円盤の物質を飲み込み、そのときにX線や赤外線の放射の形でエネルギーを放出する。そのエネルギーが今度は周囲の物質を熱することがあり、観測されたような水蒸気が生じている」と説明する。
このクエーサーを取り囲む水蒸気は、「地球の全海水の140兆倍に相当する。きわめて大量の水だ」。
◆原初の水が宇宙を冷やした?
マーフィー氏らは、ハワイのマウナケア山頂にあるカリフォルニア工科大学サブミリ波天文台の口径10メートルの電波望遠鏡に取り付けられた分光器を使い、この湿ったブラックホールを発見した。また、異常に温かいこの水蒸気の雲の中に、ブラックホールを取り囲むほかのガスや塵が混じっていることも明らかにした。
実際、ガスや塵の量が十分にあるため、このブラックホールは現在の6倍、太陽の質量の1200億倍以上にまで成長しうるとマーフィー氏は言う。
そしておそらくそれ以上に驚くべき発見は、この巨大な宇宙の貯水池が形成されたのが、宇宙が生まれてまだ16億年しか経っていないころだったということだ。
「この発見で私が何より興奮するのは、宇宙の年齢が現在の10分の1でしかなかったころでさえ、水がどれほど普遍的だったかということを証明している点なのだ」とマーフィー氏は語る。
「宇宙がこのように若かった段階の天体でこれほど大量(の水)が見つかったという事実は、ビッグバン後、銀河において分子形成と化学進化が非常に急速に進み得たということを示す新たな根拠となる」。
天文学者は、今回の発見をもとに、若い宇宙に大量に存在した水が星間物質(恒星間の宇宙空間に存在するガスや塵)の効率的な冷却剤としてどう働いたかを研究できるものと期待している。
その冷却が、恒星の形成と銀河系のような銀河の進化に影響を及ぼしたと考えられるのだ。
水蒸気を伴うクエーサーに関するこの研究論文は、「Astrophysical Journal Letters」誌に受理されている。