発明家で、日本大客員教授の藤村靖之さん(66)が主宰する節電のテーマパーク「非電化工房」(栃木県那須町)には、電気を使わない冷蔵庫などユニークな発明品がある。東日本大震災後、節電意識の高まりもあって、見学会への申し込みが殺到している。六月上旬に開かれた見学会に参加した。
東北新幹線那須塩原駅から車で約三十分。訪れた工房は緑に囲まれ、約一ヘクタールの敷地には、藤村さんの家族らが暮らす母屋や実験用のアトリエ、菜園などもあった。藤村さんが「エネルギーとお金を使わなくても得られる豊かなライフスタイルを見せよう」と、二〇〇七年に建設を開始。現在も改良が続く。
見学会は〇九年春から、ほぼ月二回開かれている。震災後は申込者が一・五倍に増え、「二カ月先でないと空きがない」という。この日の見学会には、親子連れなど約二十人が参加した。
藤村さんの長男で、工房副代表の研介さん(31)が工房を案内する。最も関心が集まったのは、母屋のすぐ外にある非電化冷蔵庫。自然の放射冷却現象を利用するため、屋外に置く必要がある。
冷蔵庫の内壁と外壁の間には大量の水が入っている。「冷蔵庫に入れた物の熱が水に伝わると、自然対流で温かい水は上に向かい、上部の放射板から熱が放出される。放射冷却で水が再び冷やされると下方に向かい、冷蔵庫内が冷やされる」。晴天が三日に一日あれば、真夏でも庫内は七、八度に保たれる。
「非電化といっても、決して電気を否定しているわけではない」と藤村さん。工房では、電気への依存度を少なくする工夫を凝らしながら、電化製品を使っている。例えば、非電化冷蔵庫には野菜や缶瓶などを入れ、残りを小さな電化冷蔵庫に入れ、消費電力を抑えている。「電気を省けるところは省いても、ほどほど快適に過ごせる。そんなライフスタイルを知ってほしい」
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エアコン不要の家として紹介されたのが、「非電化もみ殻ハウス」。屋根と壁、床の断熱材に、もみ殻を使い、風車を利用した非電化換気扇が設けられている。
屋根には直射日光の熱を緩和するため、ススキが敷き詰められ、床には室外が乾燥している時だけ開ける換気孔がある。「床下の涼しい空気が室内に流れ、夏場は冷房がなくても快適。保温に優れているため、冬場も小型のまきストーブでまきを三、四本も燃やせば、一日過ごせる」
現在、工房では「非電化エアコン」の開発が進む。外気を乾燥させて、水を含ませたフィルターで気化熱を奪い、室内を冷やすという構想だ。
藤村さんを囲んでのセミナーでは、参加者同士の意見交換も。「震災後、生き方や価値観の転換を迫られた」「原発や電力の情報をインターネットなどで調べ、この工房にたどり着いた」という意見が多かった。
自然食を提供するカフェのパティシエ安生(あんじょう)知子さん(37)=東京都北区=は「電気は当たり前にあるものではないということを、震災で思い知ったのに、数カ月が過ぎ、危機感が薄れていた。見学会は、自分の生活スタイルを見つめ直すいい機会になった」と感想を語った。
藤村さんは「今までの社会は『快適、便利、スピード』を豊かさの指標に、電気を大量に消費してきた。でも、ぬくもりのある人間関係や、手足を使って技を磨く喜びなど、本当の幸せや豊かさは、電力消費を少なくしても得られるのではないか」と問い掛ける。
見学会の情報は、HP(「非電化工房」で検索)で。http://www.hidenka.net/jtop.htm
(宮本直子)2011年6月27日東京新聞