明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



酒場にはなかなか家に帰ろうとしない男達であふれている。それには様々な理由があろうが、仕事の同僚はいないし、家庭内の二等兵物語に同情、共感してくれる人はいくらでもいる。様々な人の心情に触れる機会の多い酒場は、実に興味深い場所であるが、ここ数日某氏の様子がなんとなくヘンである。ただでさえ多い酒量が2割増の感じである。ちょっとした表情の変化に気がつかないようでは、私のような仕事はやっていけない。聞くと、立場上私には理解できない話であったが、こういう場合は、こう対処するだけのことである、と二日にわたって繰り返し聞かされた。よほど一人で脳内シュミレーションを重ねた様子が伺えるが、本人がこうすれば良い話で、どうということはない、というのだから、はたから見ると動揺しているように見えても、そんなことは口に出していってはならない。見れば判る事を口にするのは野暮というものであろう。立場違えど男同士。ここは一つ成る程、それはそれは、とうなずい訊いているのが良さそうである。もともと私は相づちのタイミングが良すぎて、どうしても聞き役に回ることが多いのである。 日々酒場で様々な顔を眺めるうちに、あげくに今年はついに顔なじみに作品の中に登場いただき、書籍として印刷されることとなった。作品といえばある意味、子供のような物であるが、リアルな子供と違って「お父様お話があるので日曜日にお時間いただけますか?」といって彼氏を連れてくるような厄介なことはなく、そのせいで酒量が2割増えることもない。

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