かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠280(トルコ)

2016年03月31日 | 短歌一首鑑賞

   馬場あき子の外国詠37(2011年3月) 【遊光】『飛種』(1996年刊)P123
     参加者:N・I、井上久美子、崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:曽我 亮子
     司会とまとめ:鹿取 未放

280 寒いほどのひとりぼつちにあくがれきうすきゆだるにまた船が入る午後

     (まとめ)
 「寒いほどのひとりぼっち」は井伏鱒二の「山椒魚」の主人公である山椒魚が岩屋から出られなくなって吐く言葉からきているのだろう。「うすきゆだる」の言葉が分からないが、狭い運河にある船着場のことではなかろうか?生暖かい空気感が伝わってくるようだ。船着場にまた新しい舟が入ってくるのを旅の途上の少しアンニュイな気分で見ているのだろう。そして景の類似から谷川の岩屋に閉じこめられた山椒魚のことを思ったのではなかろうか。「寒いほどのひとりぼっち」にあこがれた若い日の厳しい精神の在りようを懐かしんだのかも知れない。「うすきゆだる」という名詞のせいもあるが、6・7・5・7・9と少し字余りだ。「また」が無ければ結句は7音で収まるが、「また」はどうしても言いたかったのだろう。何度も船が入ってくるのを目撃しているのだ。
※ 「うすきゆだる」は地名「ウシュキュダル」。まとめを発表した後、石井照子氏のエッセー 「旅行随行記」(「短歌」2002年1月号)にて教えられた。(鹿取)


     (レポート)
 きりりと身の引き締まるような孤独にあこがれてきたのに、何とはなしほの暖かい空気があたりに漂い船も思いなしかゆっくりと入港してくるような気怠い午後である。もっとしゃっきりと過ごしたいと思うのに。どこにあっても凛き心を求めてやまない作者に頭が下がる私です。(曽我)
   うすきゆだる(茹だる)=軽いけだるさ