脱ケミカルデイズ

身の周りの化学物質を減らそうというブログです。 

魚介類の水銀・ダイオキシン・放射能の汚染度

2013年06月01日 | 食品

週刊朝日2013年5月31日
安全・安心が食べたい 魚介類40種類の汚染度 水銀増えた魚減った魚 ダイオキシン 放射能

水銀 メバチマグロは10年で6倍 キンメダイは高い値で推移

日本全国どころか、世界各国から魚介類が集まり、取引金額では世界最大の東京・築地の中央卸売市場。東京都では、1973年から毎年、築地の中央卸売市場の魚介類を中心に、水銀濃度を調査している。

 73年はどういう年かというと、メチル水銀に汚染された魚介類が原因となった水俣病が問題となっていたため、国が魚介類中の水銀の暫定的規制値を「総水銀0.4ppm、かつメチル水銀0.3ppm」と定めた画期的な年だ。自治体に検査の強化などを通知し、規制値を超えるものは販売をやめるなどの自主的規制等を行うこととした。

む 東京都の調査は、東京都福祉保健局健康安全部食品監視課が担当している。本誌では、2001年度から集計が出ている最新10年間の東京都の調査結果を読み解き、水銀濃度の経年変化をみることにした。総水銀の検出量の最大、最小、平均の値を公表しているが、本誌では、平均値で表を作成した。多い年では175種、少ない年でも95種について調べている。読者が興味ある、なじみのある40種類を選び、調べてみた。

 水銀の値が高いのが、刺し身で食べることの多いメカジキやメバチマグロである。漁獲地が千葉、青森、タヒチ、オーストラリアなどのメカジキは06年度からの数値しかないが、01年度から数値のあるメバチマグロをみてみると、実に6倍以上に増えている。メバチマグロの漁獲地はニュージーランド、宮城などだ。このほかに、水銀の値が高い値で推移しているのが、キンメダイ(東京、千葉、静岡、高知、ニュージーランドなど)とクロムツ(東京、大分、長崎など)である。

 濃度が高い魚として、高級魚の名前が並ぶが、では、どんな魚の水銀濃度が高くなるのだろうか。有害重金属の害とデトックス(体内の有毒物質・老廃物を排出すること)に詳しい、銀座上符(うわぶ)メディカルクリニック院長の上符正志氏はこう語る。

「マグロ、メカジキ、イルカなどの大型魚に水銀が蓄積しやすい。食物連鎖の上位に位置するため、水銀を含んだ小魚を食べることによって、水銀が体内にたまっていくのです」

 東京都は、規制対象魚のうち国の暫定的規制値を超えた魚介類についても公表している。ただし、マグロ類やメカジキ、キンメダイなどは日本人の食生活を尊重してこの規制対象魚に含まれていないため、公表されていない。10年度ではキチジ、クロムツ、ハチジョウアカムツとなっている。クロムツは近年では「常連組」である。規制値を超えた魚が見つかった場合には、漁獲地を管轄する自治体に情報提供を行い、汚染魚の流通を防止している。

 

ダイオキシン 11年前からは大幅に減少 魚離れで摂取量も減

十数年前から問題視されているのが、ゴミの焼却などで出てくる環境汚染物質、ダイオキシン類だ。発がん性が危惧され、最近ではマウスなどの実験で、脳への影響も認められている。ダイオキシン類などの環境毒性学に詳しい東京大学医学系研究科・健康環境医工学部門教授の遠山千春氏は、「ダイオキシン類は微量でも何らかの影響を心や体に及ぼす。そこが問題」と、自らおこなった最新の研究について話す。

「妊娠中にダイオキシン類に曝露されたマウスから生まれた子マウスは、成熟後、自分の置かれている環境に適応しにくく、不安やうつ傾向があるときに見られる行動をとることがわかりました」。こうした子マウスの脳の一部には、神経活動の異常が生じていることも判明。これはあくまでも動物実験だが、人間にもこうした現象をもたらす可能性があることを知っておくことは大切だ。

 ダイオキシン類に関しては、国は2000年に「ダイオキシン類対策特別措置法」を施行。安全性の指標となる「耐容一日摂取量(TDI:人が生涯取り続けても健康に害を与えない、1日あたりの摂取量)」を設けた。その量は4pg-TEQ/kg体重/日(pgはピコグラム。1兆分の1g。以下単位略)だ。

 また、ダイオキシン対策推進基本指針により、海洋や土壌などの汚染状況の調査も始まった。その結果を見ると、環境省の報告では、大気中の濃度は減少傾向にあり、厚生労働省が実施している国民健康・栄養調査でも、日本人が食事で摂取するダイオキシン類の量は年々、減っていることがわかった。農林水産省の報告も、調査対象となっているスズキやタチウオ、ホッケに含まれるダイオキシン類の量は、99年度の調査初回から見ると減っている。しかし、06年度からの値を個別に比較すると、統計学的にみてスズキとタチウオは低下して横ばいだった。ホッケは10年度に増えており、「経年変化を調査していく予定」(同報告から)としている。

 大気汚染は改善され、われわれの摂取量も減ったが、魚介類に含まれるダイオキシン類の量はほとんど変わらない。これはいったいどういうことだろう。海洋汚染に伴う魚介類などへの影響について調査・研究する海洋生物環境研究所の研究調査グループ研究参与の柴崎道廣氏は解説する。

「現在でも新しい発生源が見つかっています。それらも含め、過去に排出されて海底に残留しているダイオキシン類の影響ではないでしょうか」

 一方、魚介類のダイオキシン類の量が変わらないのにもかかわらず、われわれ日本人のダイオキシン類の摂取量が減ったのはなぜかも気になる。その答えの一つが昨今の「魚離れ」にある。一般に、ダイオキシン類は空気中や食品(肉や魚、野菜など)、さらに水から摂取される。厚生労働省と環境省が出す報告をまとめると、11年度のダイオキシン類の総摂取量は、約0.69。そのうち魚介類から摂取するものは0.63だ。ほぼ魚介類から取っているといってもいい。つまり、日本人が魚を食べなくなったことで、ダイオキシン類の摂取量が減ったということが考えられるわけだ。

 

放射能 福島では事故前の200倍 魚によっては減り方に特徴あり

 実は、2011年3月の福島第一原発事故が起こる前から、海洋汚染に伴う魚介類などへの影響について調査・研究する海洋生物環境研究所では国内にある原発の周辺海域の海水、海底土、海産生物の放射線量を測定している。当然ながら、そこには福島海域も含まれている。

 その資料を見ると、事故前(1983~2010年度)の海産生物(スズキ、メバル、ミズダコなど)の放射能濃度は1Bq(ベクレル)/kg以下を維持。チェルノブイリ原発事故があった86年度には一時的に濃度が高まったが、それでも1Bq/kgには達しなかった。

 今回の事故を受けて、どう変わったのか。同研究所では11年度以降も測定を継続しているが、今回は数値を載せたパンフレットの作成が見送られたという。

 そうであれば、同じ資料ではないが、研究所の測定の対象となっているスズキについて、水産庁が公表している報告から推測してみたい。測定値を見ると放射能濃度は今年3月1日のもので、検出限界未満~200Bq/kg。いちばん高い濃度で考えた場合、その差は200倍にもなっている。

 この水産庁の報告では、複数の魚種について、事故から今年3月1日までの測定値の経過が記載されている。これを見ると、海面に近い部分(表層)の魚(イカナゴ・カタクチイワシ稚魚)の放射能濃度は事故直後には高く、その後、大幅に低下している。これに対し、海底に近い部分(底層)の魚(マアナゴ)は依然、高いままだ。もちろん各地の水産試験場で検査をおこない、一般食品の基準値(100Bq/kg)を超えたものについては、出荷規制している。市場に出回ることは原則ないが、今後、どう値が変わっていくのか注意深く見守りたいところだ。

 魚介類の種類による放射能濃度の違いについて、いまわかっているのは、「表層の魚より底層の魚のほうが高い」「マグロなどの回遊魚には影響が少ない」「魚よりエビ・カニ、さらにイカ・タコのほうが低い」ことなどである。放射線防護学の第一人者、日本大学歯学部総合歯学研究所准教授の野口邦和氏は、こう分析する。

「現在、海水中の放射性セシウムは希釈、拡散が進んで検出限界値まできています。ただ、セシウムは泥などに吸着して海底に沈んで存在しているので、海底の魚介類には注意が必要。イカなどで濃度が低い理由ははっきりとはわかりませんが、摂取するエサなどが関係していると考えられます。回遊魚は福島沖の海域にいる時期が短いため、汚染されにくいといえます」

 セシウムの半減期(原子核が壊れて半分になるまでの期間。セシウム137の場合)は約30年。しかし、実際はそれよりも早いスピードで壊れていることが、いくつかの調査で確かめられている。

 現在、国が設けている基準値100Bq/kgは健康への影響がないと一般的に評価されている数字だ。とはいえ、できるだけとらないに越したことはない。野口氏は、「放射能の影響が消えるには時間はかかると思いますが、むやみに不安がらないこと。正しい知識をもって対応してほしい」と冷静に対応することを勧めている。

 今回用いた数字のほとんどは、省庁や自治体がホームページで公開しているものだ。数字の読み方などは難しい面もあるが、定期的にチェックしておくことは必要だろう。また、魚介類を食べる限り、有害物質をゼロにするのは現実的ではない。だとしたら、下ごしらえや調理法などで食品に含まれる有害物質を減らす工夫も必要だ。

 

詳しいことは週刊朝日2013年5月31日号をご覧ください。