徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

漢方が好きな医者、嫌いな医者

2012年09月07日 06時32分40秒 | 小児科診療
私は小児科医には珍しく、10年ほど前から漢方にはまっています。
初めは自分に使用し、よく効いたので身内に処方し、これもよく効いたので患者さんへ処方するようになりました。

それ以前は「漢方は怪しいもの」と漠然と考えておりました。
まあ、学生時代に教わることもありませんでしたし、食わず嫌いといったところでしょうか。

いざその効用を知ってみると・・・漢方薬は約2000年前、検査機器のない時代に完成した医学ですから自分の五感を駆使して診療する医学であり、聴診器一本で勝負する開業医向きとも云えるかもなあ、とさえ感じるようになりました。

しかし、現在でも漢方が嫌いな医者がたくさんいます。
説明しても(以前の私のように)端から疑っているので議論は平行線をたどります。
反対派の主張は「漢方はEBM(エビデンスに基づいた医学)がないから評価できない」というもの。
つまり、漢方医学の概念を理解する気はなく、漢方薬を西洋医学の土俵に強引に乗せている印象なのです。
この現象を、私は以前からプロレスと相撲に例えられると思ってきました。
「プロレス(≒西洋医学)のルールと相撲(≒東洋医学)のルールは異なる。西洋医学的に漢方薬を使うことは、プロレスのリングで相撲を取るのと同じであり、実力が十分発揮できないだろう。」と。

このことに関して、最近読んだ「日本東洋医学会誌」(Vol.58 No.3 407-412, 2007)の浅岡俊之先生の文章がわかりやすく説明していると感じたので、一部を抜粋してみます:

・日本で復活し見直されてきたのは「漢方薬」であり「東洋医学」ではない。

・結局漢方の効果や評価は西洋医学的な表現でなされなければ納得できない。

・東洋医学の発想の元に漢方薬を使えばそれは東洋医学をしていること云うことになるが、西洋医学的にやってくれないと分からないし納得もできないといって漢方薬を使うと云うことは、要するに西洋医学をやっていることになると思う。

・漢方薬はいろいろな生薬を混ぜるという形態を持っており、有効成分だけ絞るという西洋医学のやり方とは正反対である。

・漢方を扱う医者は2種類いる。
①西洋医学として漢方を使う医者・・・これは正式には漢方診療とは云えない
②東洋医学の思想に沿って漢方を使う・・・これこそ真の漢方診療

・いろいろな点で正反対であるのに、東西医学の融合は可能なのか?
 (漢方医学) ↔ (西洋医学) 
  生薬 ↔ 合成薬
  心身一如 ↔ 心身二元論
  証 ↔ 病名
  ヒトを自然界の一部と認識 ↔ 自然界をコントロールする存在としてのヒト

・よく「個の治療」「オーダーメイド治療」という言葉が使われるが、別に漢方薬がオーダーメイドな薬剤であるわけではない。漢方薬(特にエキス剤)は生薬を使った約束処方であり、オーダーメイドの反対のレディメイドな薬剤である。東洋医学が持っている解析の基本的スタンスがオーダーというか、個を見つめるというスタンスを有しているからオーダーメイド治療になり得るのである。

・東西医学の融合という話をするならば、まずその前提として、基本的に双方が全く違うものであるということをはっきりと認識するべきである。私は、東西の医学は融合した方がいいと思うが「混ぜること=融合」とは到底思えない。一人一人の医師が自分の中に二つのものを同じ価値で用意しておくというのが、本当の意味での融合ではないだろうか。


私は浅岡先生の昔からのファンで、ケアネットDVDの漢方シリーズは何回も見て勉強させていただきました。
この教育講演の内容も、さすが浅岡先生、と拍手を送りたくなりますね。
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