徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

ゾコーバ® はタミフル® になり得るのか?

2022年11月27日 14時26分38秒 | 小児科診療
2022/11/22にゾコーバ®(一般名:エンシトレルビル )が緊急承認されました。
対象は「12歳以上のリスク因子のない新型コロナ患者」です。

今までも新型コロナ用内服薬は
・ラゲブリオ
・パキロビッド
の2種類がありましたが、
これらは「重症化リスク因子のある新型コロナ患者」が対象でしたので、
持病がなく健康体の人が新型コロナ陽性になっても使えませんでした。
こちらのサイトにわかりやすい一覧表がありましたので引用させていただきます;



ですから重症化リスク因子のない患者に使える“画期的”な薬が登場したわけです。

では季節性インフルエンザに対するタミフルのように使えるか、
手に入るかというと、
そういうわけではなさそうです。

発売後2週間は、登録された医療機関と薬局経由でないと処方・入手できません。
同サイトよりフロー図を引用します;



当院は小児科であり、
パキロビッド処方医療機関に登録してきませんでしたので、
今回の措置から外れてしまい、
今のところ処方できません。

また、併用禁忌薬がたくさんたくさんあり(後述)、
それをチェックリストで確認し、
かつ同意書を作成する必要があり、
なんだかハードルが高いのです。

つまり、まだまだタミフルのように普及するレベルではないということ。

このゾコーバという薬、
記憶されている方もいると思われます。

そして内容を書き換えて再申請した結果、
今回は承認されたのです。

その中身は、
有効性を評価する症状を12項目から5項目へ減らしたもの。
つまり、
「12項目では内服群と非内服群で症状改善に差がなかった」
けど、
「5項目に減らしたら差が出た」
とのこと。
かつ評価するのは「症状改善」ではなく「症状消失までの時間」に変更。

なんだかなあ・・・これって“ずる”じゃないんですか?
まあ、有効性は微妙なんですね。

その5項目とは・・・
1.鼻水または鼻づまり
2.喉の痛み
3.咳の呼吸器症状
4.熱っぽさまたは発熱
5.けん怠感 (疲労感)
※ 「快復」の定義は、5 症状のすべてが軽減か、もしくはそれ以上悪くならなかった状態。

開発側の言い分は、
・従来の抗ウイルス薬はデルタ株流行期に治験された。
・今回の治験はオミクロン株流行期に行われたため、症状が変化したためアレンジが必要だった。
とのことです。

あれ?
「入院」とか「死亡」とかは入ってない・・・、
つまり「重症化予防」のデータがありません。

開発側の言い分は、
・重症化リスク因子のある患者が対象ではない
・重症化リスク因子のない患者用に開発した薬
とのこと。

タミフルも発熱期間を1日短くする薬効ですが、
ゾコーバは症状が消える期間が8日 → 7日に短くなる薬効。
この臨床試験は日本・韓国・ベトナムで行われました。
さらに日本人に限定すると症状短縮が1日ではなく6時間のみ、というデータだそうです。

突っ込み処がいくつもあり、
タミフルが登場したときよりインパクトがないですねえ。

また、こちらのサイトによると併用禁忌薬(36種類)は以下の通り;

▼ ピモジド、キニジン硫酸塩水和物(統合失調症等治療薬のオーラップ錠)
▼ ベプリジル塩酸塩水和物(狭心症等治療薬のベプリコール錠)
▼ チカグレロル、エプレレノン(心筋梗塞等治療薬のブリリンタ錠)
▼ エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン・イソプロピルアンチピリン(頭痛治療薬のクリアミン配合錠)
▼ エルゴメトリンマレイン酸塩(子宮収縮止血剤のメテルギン錠ほか)
▼ メチルエルゴメトリンマレイン酸塩(子宮収縮止血剤のパルタンM錠ほか)
▼ ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩(頭痛等治療薬のヒポラール錠)
▼ シンバスタチン(高脂血症治療薬のリポバス錠ほか)
▼ トリアゾラム(睡眠導入剤のハルシオン錠ほか)
▼ アナモレリン塩酸塩(抗がん剤のエドルミズ錠)
▼ イバブラジン塩酸塩(心不全治療薬のコララン錠)
▼ ベネトクラクス〔再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の用量漸増期〕(抗がん剤のベネクレクスタ錠)
▼ イブルチニブ(白血病等治療薬のイムブルビカカプセル)
▼ ブロナンセリン(統合失調症治療薬のロナセン錠ほか)
▼ ルラシドン塩酸塩(統合失調症等治療薬のラツーダ錠ほか)
▼ アゼルニジピン(高血圧症治療薬のカルブロック錠)
▼ アゼルニジピン・オルメサルタンメドキソミル(高血圧症治療薬のレザルタス配合錠)
▼ スボレキサント(不眠症治療薬のベルソムラ錠)
▼ タダラフィル(肺動脈性肺高血圧症治療薬のアドシルカ錠)
▼ バルデナフィル塩酸塩水和物(勃起不全症治療薬のレビトラ錠ほか)
▼ ロミタピドメシル酸塩(高コレステロール血症治療薬のジャクスタピッドカプセル)
▼ リファブチン(抗菌剤のミコブティンカプセル)
▼ フィネレノン(腎臓病治療薬のケレンディア錠)
▼ リバーロキサバン(血栓塞栓症治療薬のイグザレルト錠)
▼ リオシグアト(血栓塞栓症治療薬のアデムパス錠)
▼ アパルタミド(前立腺がん治療薬のアーリーダ錠)
▼ カルバマゼピン(統合失調症等治療薬のテグレトール錠)
▼ エンザルタミド(前立腺癌治療薬のイクスタンジ錠)
▼ ミトタン(副腎がん治療薬のオペプリム)
▼ フェニトイン(抗てんかん薬のアレビアチン錠ほか)
▼ ホスフェニトインナトリウム水和物(抗けいれん剤のホストイン静注)
▼ リファンピシン(抗菌剤のリファジンカプセル)
▼ セイヨウオトギリソウ(St.John’sWort、セント・ジョーンズ・ワート)含有食品(各種ハーブなど)

・・・とても覚えきれません。

現在は新型コロナ関連の医療費は公費負担ですが、
来年4月には2類から5類へ変更されて保険診療になると噂され、
つまり3割負担になると思われます。
ゾコーバの薬価は、他の新型コロナ薬と同等であれば1クール10万円位でしょうから、3割負担でも3万円・・・。
「症状が消える期間が8日 → 7日に短くなる」
薬に3万円払うかというと、希望者は少ないと思われます。

以上、新薬ゾコーバについて、概観してみました。
「軽症者でリスク因子がない患者に使える!」
と鳴り物入りで承認されましたが、その内容は、

・症状がほんのちょっと短くなるだけ
・重症化は防げない?
・72時間以内に開始しないと無効
・飲み合わせが悪い薬がたくさん(31種類)
・まだ手に入りにくい
・高い

等々、問題点が山積み状態であることが判明しました。
皆さんはどう感じましたか?


<参考>
■ 誤解しないで 新型コロナ新承認薬「ゾコーバ」は簡単に処方できない
倉原優(呼吸器内科医)
■ 国産初の抗ウイルス薬の飲み薬「ゾコーバ」審議会で承認を了承 診療現場での意義や承認プロセスに疑問も
■ コロナ感染症の新たな経口治療薬「ゾコーバ錠」を緊急承認、多数薬剤と併用禁忌・注意ある点に留意を―厚労省
■ 塩野義の“コロナ飲み薬”、承認の可否判断が先送りされたわけ
■ 塩野義コロナ薬「承認見送り」の審議に残る違和感目立った「緊急承認」の制度趣旨との隔たり

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