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思索 電子回路 論評等 byホロン commux@mail.goo.ne.jp

人は何故ミスをするのか

2009-09-26 05:16:08 | 安全・品質
標題の問いに対して、「人の定義は“間違える”ということだ」という普遍的「解」があります。つまり「人」の概念から「間違える」という要素を取り除いたとき、もはやそれを人と見なすことはできなくなるのです。一般的に、これに異論を唱える人はいないでしょう。

(しかるに今なお、夢想を追うかのように「ミスをゼロにしよう」「ミスはゼロにできる」と本気で考え、それに労力を費やそうとする、あるいは費やしている人、集団が存在します。これは彼らの信念と考えられますが、つじつまの合わない信念はもはや妄想あるいは信仰ですから、訂正は不可能です。よって不可能なことはほどほどにして、ただ一言「人がミスをすることは問題ではない。事故を起こさないことが問題だ」とだけ言っておきましょう。)

さて、人が人である故のミスですが、それにしてもこれは何故なのでしょう?ここからは、人が「必ずミスをする」メカニズムについて考えてみます。

まず、09/06/10付の記事「練習しよう」を転記します。

「練習というのは非常に大きな意味があります。脳の中にはCPUに相当するプロッセッシングユニットがありますが、すべての思考をCPUがやってるわけではありません。CPUの周囲には、論理ブロック、計算ブロック、運動ブロックなど、非常に多くのサブルーチンが存在します。ある計算をするとき、CPUは必要な計算ブロックを呼び出すだけなので、非常に速く回答が得られるのです。だから何度も経験したことのある計算(思考)および運動はスムーズに運ぶわけです。10年以上の自動車運転歴をお持ちの皆様、一度”運転サブルーチン”を呼び出さずにCPUを使って運転してみてください。とてもギクシャクすると思いますよ。”自意識過剰のムカデの苦悩”もこれと同じ話です。練習する、あるいは稽古するという行為は、頭の中に必要なサブルーチンを作るということなのですね。」

この記事は人が何故ミスをするかについて逆説的に説明しています。つまり私たちが普段スムーズに物を考え行動しているのは、サブルーチンをコールするだけで済むからですが、このメカニズムにこそ人がミスをする根源が裏腹のように存在するのです。

かなり昔の話ですが、旅行でグァムに行った折にレンタカーを借りて各所を回りましたが、当地はアメリカなので自動車は右側通行です。走り始めは何度となく左側を走ってしまい怖い目にあいました。何故このようなことが起こったのでしょう。つまり私の「車を運転する」サブルーチンには左側通行が書かれていたわけです。これも1日目、2日目、3日目と次第に間違えることは少なくなりました。つまり役に立たないサブルーチンの1部を削除して新しいサブルーチンを作ったということですね。

また、数学であれ何であれ、ある問題が解けるということは多くの場合、以前にその問題を解いたことがあるということです。しかし問題に少し仕掛けを入れられると、簡単に引っ掛かって間違えてしまう。もっと端的な例は、トリックやマジックに人は驚き、あたかもそれが事実であるかのように錯覚しますね。(余談ですが、3~4才くらいの幼児がマジックを見ても、さほど驚かないというのは面白いと思いませんか?)

これらのことを要約すると、慣れている行動や思考パターンの対象が一部変化するとミスが容易に発生するということです。サブルーチンは基本的に無意識に行われます。パターンの変化に対しては意識(頭の中枢部)が対応しようとしますが、無意識は意識よりも遥かに強力ですから変化に十分対応することはできません。また逆にここで意識を過剰にし過ぎるとサブルーチンそのものを止めてしまうことになります。つまり動けなくなるということですね。

人は慣れや練習を重ねてサブルーチンを作らなければ、まったく行動し思考することができません。だからサブルーチンを作ることが人本来の営みと言えます。しかしそのサブルーチンによってミスを招くという宿命にあるのです。人はこのジレンマからは逃れることはできません。(本質的には、このサブルーチンが既成概念です)

以上が人が必ずミスをするメカニズムの一つの理論です。次回は、パターン変化が無いにも関わらず、サブルーチンの中で発生するミスについて考えてみたいと思います。

*「自意識過剰のムカデの苦悩」は、正確にはどういう順番で足を動かしてるのか?と聞かれて、ムカデはまったく動けなくなったというお話です。

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