ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

深刻さ増す「お産状況」

2007年02月25日 | 地域周産期医療

今、全国的に産科空白地域がどんどん広がりつつあります。地域内のすべての産科施設が分娩取り扱いを止めてしまった場合は、地域の妊婦さん全員が他の医療圏で分娩しなければならない事態となります。

居住する県では分娩場所が全く見つからず、仕方なく遠路はるばる何時間もかけて(県境を越えて)当科までお産のためにやって来る妊婦さんの数も、最近ではずいぶんと増えてきました。

地域内のどこにも産むところがないという状況になってしまえば、地域の誰もが事の重大性に初めて気が付くことでしょう。しかし、そうなってしまってからでは時すでに遅しで、全く手の打ちようがありません。困り果てた末に、地域住民の多数の署名や嘆願書を、県や大学に持って行っても、もうその時は誰も何もできません。

県内各医療圏の産科医療の状況が、今後も、ますます厳しくなってゆくことは確実です。まだ何とかなる可能性が少しでも残っている地域においては、手遅れにならないうちに、断固として、医療崩壊を阻止する対策を講じてゆく必要があります。

****** 信濃毎日新聞、2007年2月24日

深刻さ増す「お産状況」

 深刻な産科医不足で、県内で今年に入り、分娩(ぶんべん)の取り扱いをやめたか、やめる方針の医療機関が少なくとも四カ所あることが二十三日、分かった。年間約三百の出産例があった茅野市の諏訪中央病院が四月から分娩の取り扱いを一時中止する予定など、地域の中核病院も含まれている。関係者からは「今後も減る可能性がある。お産をめぐる状況はさらに深刻になりそうだ」との声が強まっている。

諏訪中央病院 分娩中止へ 産科医 確保できず 

 諏訪中央病院産婦人科が分娩の取り扱いを一時中止する予定なのは、現在二人いる担当医が三月末で不在になり、後任がみつからないため。病院は現在も医師確保を模索するが、全国的な産婦人科医不足の中で状況は厳しく、四月以降の分娩の予約受け付けは既に中止した。

(中略)

県内他の3医療機関も

 長野市のNTT東日本長野病院は、昨年末で分娩の取り扱いをやめ、一月から「産婦人科」を「婦人科」に改称した。医師二人の態勢で産婦人科を続けてきたが、「態勢的にきつくなった」などとし、現在、常勤医一人が検診などを行っている。

 このほか、茅野市内で年間二百例ほどの分娩を扱っていた開業医も一月から取り扱っておらず、長野市内の開業医も三月末で分娩をやめる方針で受診者に他の施設への紹介を始めている。

 県医療政策課によると、県内で分娩を取り扱う施設は、二〇〇一年に六十八カ所あったが、昨年五月時点の調査は五十三カ所。さらに分娩を扱う医療機関の中には、医師不足で四月から「一カ月二十四人」と受け入れを制限する病院や、「勤務医の疲弊が激しい」と言う病院もある。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2007年2月24日)


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26 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
地域内のどこにも産むところがないという状況にな... ()
2007-02-25 07:12:37
地域内のどこにも産むところがないという状況になってしまえば、地域の誰もが事の重大性に初めて気が付くことでしょう。>お言葉ですが、そうならないと地区の住民は危機感を持たず、産科バッシングを意のままに続けるでしょう。完全に崩壊させて「さあどうする」ということを突きつけないといけないのではありませんか?
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 今後はもう無理して地方に産科医を派遣する必要... (東京メガテリウム)
2007-02-25 07:38:17
 別に産科医がいなくなっても一向にこまることはありません。お産は警察で取り扱うようにすればいいだけです。日本の警察は産婦人科医より産科学に詳しいらしいので、安心してまかせればいいんじゃないですか。
 ついでに救急医療崩壊を阻止する妙案もあります。全国の救急センターに裁判官を常駐させて治療方針の妥当性について判決を出してもらってから救急医が実際の診療に着手するようにすれば、医師も少しは安心して働けるようになるでしょう。
 医療事故訴訟の判決を見ると、どうも裁判官にはそれだけの見識があると自負している方がおられるようなので、是非のその能力を医療現場の最前線で発揮していただきたいものです。
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鬼・さま (管理人)
2007-02-25 09:24:58
確かに、わからない人たちには何度言っても全くわかってはもらえません。全く聞く耳を持たない人たちに事態をわかってもらうことは、もうとうの昔にあきらめました。しかし、ここまで事態がはっきりしてくれば、いくらなんでも、大多数の良識ある人たちには事の重大性をわかってもらえることと信じています。

また、我々とて、沈没船とともに最後の最後まで運命をともにして果てる気はさらさらありません。沈没することが確実な情勢になれば、当然、沈没前には一斉に逃げ出します。

今は、沈没回避に向けて、気の合う仲間たちと頑張っているところです。まあ、何かの縁で、乗りかかった船だし、とりあえずは、やれるところまでは試しにやってみようかと思っています。
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お言葉ですが、理解していただける方は大多数とい... ()
2007-02-25 09:38:22
お言葉ですが、理解していただける方は大多数というのは理想論過ぎませんか?少数だと思いますよ。
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しかし不思議なのは、いつまでたっても給与面の改... (ある勤務産科医)
2007-02-25 09:47:18
しかし不思議なのは、いつまでたっても給与面の改善が無い事です。求人広告で、3000万、4000万、5000万などの年収が出てきません。産科医は他の勤務医より、リスクが高いが収入も多い、というイメージがあれば、もう少し応募者も出て来ると思います。
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本当ですね。。。全然。給与どころか時間外手当が... (僻地の産科医)
2007-02-25 10:25:52
このおめでたさには、ちょっと笑いがこみ上げてくるくらいです。

とはいえ、私も管理人さんと同じ感想を持っています。
癌手術の時とおなじように、がんばれるだけ頑張るけれど、もうこの先はムリだね、となれば勿論撤退すべきでしょう。
今年の日産婦はたぶんグチグチ集会になるでしょうね。みなさん危機感はきちんと感じていらっしゃいますから。(上のほうがどうかはわかりませんが。。。)
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今回、彦根市立病院への応援を考えていますが、ネ... (ある変わった産婦人科医)
2007-02-25 11:40:01
今回、彦根市立病院への応援を考えていますが、ネット上に彦根市民と名乗る方々から、産科医に敵意ある投稿が数多く寄せられています。地域からお産をする施設が無くなろうとしているのに、彦根市民は産科医を攻撃して自分の首を絞めるような考えを本当に持っているのでしょうか。一度産科を閉鎖し、地域医療がどうなるかを体験していただく方が将来的には良いのではないかとも思っています。
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ある変わった産婦人科医・さま (管理人)
2007-02-25 12:55:46
コメントありがとうございます。

そちらの状況はよくわかりませんが、先生の状況判断で、その病院で、産婦人科医を7~8人集められて、小児科医、麻酔科医も今後充実する見込みが十分にあれば、そこで精一杯頑張ってみる価値もあるのかもしれません。

しかし、そのような体制が整えられない状況であれば、ここは、ひとまず完全撤退して、十分に御自分の体力を温存され、まずは英気を養って、今後の医療崩壊後の再構築に貢献された方が、結局は、世のため人のためになるのかもしれません。

神風特攻隊精神で、一人だけで頑張り抜いて、最後は見事桜の花と散る、というパターンだけはお避けになった方が無難と思われます。

その病院が、今後、体制強化すべき病院なのか? 完全撤退すべき病院なのか? は、他県の者には全く判断ができません。県の産科関係者であれば、今までの状況や地理的条件などから、暗黙の了解で、自ずと分かっているのではないでしょうか?
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このコメント欄を拝見していると、ほとんどの方々... (暇人28号)
2007-02-25 13:22:41
今後は国民に我慢してもらう番です。
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管理人さんもあきらめモードですね。私も何とかし... (山口(産婦人科))
2007-02-25 15:07:33
 少しでも理解者を増やしたく、「助産院は安全?」というブログで論議を挑みましたが、助産師の方から揚げ足を取られてうんざりしています。向こうが資料取り上げ論理的に反論してくるので、再反論が面倒くさいったら。どなたかもっと論理的に反論できる方に交替をお願いしたいところです。
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