胞状奇胎(ほうじょうきたい)とは、胎盤の構成組織である絨毛(じゅうもう)が異常に増殖したもので、小さな袋状の粒がたくさんできて、ぶどうの房のように見えます。日本や東南アジアの胞状奇胎の発生頻度は欧米の2~4倍と推定され、日本では出生339例に1例の発生率と言われています。
正常の妊娠では、一つの卵子と一つの精子が一緒になって受精が起こりますが、受精時に卵子の核が消失して精子の核だけが卵子の細胞質内で分割していった場合(雄核発生)や、一つの卵子が二つの精子を受精した場合(2精子受精)に、胞状奇胎になります。
妊娠初期には、胞状奇胎と正常の妊娠とを明確に区別できるような特徴的な症状はあまりありませんが、近年の超音波診断法の進歩によって、妊娠の非常に初期の段階で胞状奇胎と診断されることも多くなりました。胞状奇胎では、超音波検査で子宮内に無数の袋状の粒が充満している像が観察され、正常妊娠とは容易に区別できます。
胞状奇胎の治療は、まず子宮内容除去術を行って、子宮内の胞状奇胎の細胞を完全に取り除きます。挙児希望のない40歳以上の患者さんでは子宮を摘出する場合もあります。その後は外来での定期検査が必要です。絨毛は絨毛性ゴナドトロピン(hCG)というホルモンを分泌します。胞状奇胎や絨毛癌が存在すると、hCGが尿中に排泄されるので、hCG値を定期的に測定することで異常の早期の診断が可能となります。胞状奇胎後の定期検査中に、hCG値が順調に低下しなかったり、再上昇するような場合は、胞状奇胎の残存(侵入性胞状奇胎)や癌化(絨毛癌)を疑います。
胞状奇胎後の1~2%に絨毛癌が発生すると言われています。絨毛癌は非常に進行が速く、発生後すぐに肺や脳などに転移して全身に広がってしまいますので、できるだけ早期のうちに抗癌剤の治療を開始する必要があります。絨毛癌は適切に抗癌剤の治療を実施すれば、現在ではほぼ100パーセント完全な治癒が期待できる疾患です。絨毛癌の治癒後の患者さんが無事に妊娠出産した例も少なくありません。
しかし、胞状奇胎後の定期検査中に新たに妊娠してしまうと、hCG値が上昇して尿中に排泄されてしまうので、定期検査が全く無意味となり、絨毛癌の早期発見がきわめて困難となってしまいます。そこで、胞状奇胎後の患者さんには、通常6か月から1年間の避妊指導が行われます。胞状奇胎の細胞が完全に消失したと証明する方法はありませんが、hCG値が十分に低下して、一定の基準を満たせば新たな妊娠が許可されます。
以上述べましたように、胞状奇胎は決してそんなに怖い珍しい病気ではなく、一定期間の治療や定期検査の後には妊娠も必ず可能となるはずです。早期診断と術後の定期検査が非常に大切ですから、主治医の先生ともよく相談し、自己判断で管理の途中に受診をやめることなく、きちんと正しい管理を受けるようにしてください。
病名が分かったあと、色々調べるうちに、次またいつ妊娠できるだろうか…と真剣に落ち込んだものです。。
術前hCG値は66000でした。(こんなもんですか?)1週間あけて計2度ほど手術を受け、術後は順調にhCG値が下がっていき、術後3カ月の時点で感度以下にまでなったので妊娠の許可が下りました。
検査通院中に「下がりきってないのに妊娠→胞状奇胎を3回繰り返した人がいるから気をつけるように」と言われたのは今でも覚えています。
最後の手術から5カ月あいて娘を授かり、死にかけで生まれましたが、産科医麻酔医新生児科医また大勢のスタッフの方々のおかげで今では元気に飛び跳ねております。
手術後にhCG値がカットオフ以下になるまでの外来管理が非常に重要です。
胞状奇胎娩出後に絨毛がんが続発する場合が時にあります。絨毛がんは進行が非常に早い癌で、早期に肺転移、脳転移、肝転移などを起こします。胞状奇胎娩出後にhCG値が再上昇し始めた時点で、なるべく早く化学療法を開始する必要があります。
私の経験では、胞状奇胎娩出後30年以上を経て絨毛癌を発症した症例もありました。
また、胞状奇胎後に、自然流産、正常妊娠を経験して、絨毛癌を発症する例もあり、その場合はどの妊娠が絨毛癌の発生に関与していたかは確定し難いです。
胞状奇胎娩出後にhCG値がカットオフ値以下になってから後、二次管理の観察期間については一定の見解はないですが、2~5年の経過観察(血中hCGの検査)は必要と考えられます。
胞状奇胎の手術~娘の出産まで同じ病院の同じ医師にずっと診て貰っていましたが経過観察のことは言われませんでした。
もちろん、つわりが異常にひどい等で診察を求めることは可能です。一般の妊娠の場合に10週目ほどでの初診察が普通ということです。
胞状奇胎後に1~2年経過すれば絨毛癌の発症リスクはほとんどゼロに近くなりますのでそんなに心配しなくてもいいと思いますが、過去に妊娠を経験した人はすべて一生涯にわたり絨毛癌が発症する可能性が全くのゼロにはなりません。
欧米では、日本や東南アジアに比べて、絨毛性疾患(胞状奇胎、絨毛癌など)の発症頻度はかなり低いと言われていて、民族差がかなり大きいようです。
絨毛癌は早期に遠隔転移を起こしますが、化学療法によく反応し、遠隔転移がある場合であっても、およそ87%が完全緩解(癌が全くない状態)に至ります。