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◇クラシック音楽◇NHK‐FM 「ベストオブクラシック」 レビュー

2013-12-24 10:48:23 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

 

<NHK‐FM 「ベストオブクラシック」 レビュー>

 

~スペインが誇るカサルス弦楽四重奏団のコンサート~

モーツァルト:弦楽四重奏曲第14番「春」
クルターク:ミハーイ・アンドラーシュへのオマージュOp.13
シューマン:弦楽四重奏曲第1番
シューベルト:弦楽四重奏曲“四重奏断章”(アンコール)
バッハ:フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥス1、4、6、9

弦楽四重奏:カサルス弦楽四重奏団

収録:2013年5月9日/2月7日(バッハ)、スペイン・バルセロナ、オリオール・マルトレル・ホール

提供:カタルーニャ・ムジカ

放送:2013年11月27日(水) 午後7:30~午後9:10

 カザルス弦楽四重奏団は、1997年にスペインのマドリッドで結成され、2000年ロンドン国際弦楽四重奏コンクール優勝(ユーディ・メニューイン賞)、2002年ハンブルグのブラームス国際弦楽四重奏コンクール優勝などこれまで数々の国際コンクールで入賞している。2005年にはバルセロナ市賞を受賞、さらに2006年には国民音楽賞を受賞するなど、現在では、スペインのクラシック音楽界に欠かせない存在となっている。近年では、同カルテットはスペインを代表するバルセロナとサラゴサの音楽院のレジデント・カルテットとしても活動している。デビューCDを2003年にリリースしたのを皮切りに、現在まで数多くの録音の実績を持つ。そしてヨーロッパの現代作曲家たちの作品も積極的に取り上げているのも同カルテットの特徴の一つとなっている。メンバーは、第1ヴァイオリン:ヴェラ・マルティネス・メーナー、第2ヴァイオリン:アベル・トーマス・レアルプ、ヴィオラ:ジョナサン・ブラウン、チェロ:アルナウ・ト-マス・レアルプ。

 この日のカザルス弦楽四重奏団のコンサートの1曲目は、モーツァルトの弦楽四重奏曲第14番「春」。これは1782年の暮にウィーンにおいて完成された作品でハイドン・セット全6曲中の第1作目に当たる曲。ハイドン・セット(ハイドン四重奏曲)は、6曲まとめてハイドンに献呈されたためにこの名が付いた。ハイドンは、当時弦楽四重奏曲の先達としての位置づけにあり、モーツァルトは何とかしてハイドンの弦楽四重奏曲に並び立つ曲をつくりたいとの思いから2年の年月を掛け、6曲の弦楽四重奏曲を作曲し、ハイドンに献呈した。1785年にモーツァルトは、ハイドンを自宅に招き、ハイドンセットを披露している。モーツァルトは、弦楽四重奏曲を全部で23曲残している。それらは、ミラノ四重奏曲(第1番~第7番)で始まり、ウィーン四重奏曲(第8番~第13番)、そしてハイドンセット(第14番~第19番)、20番を挟み、最後のプロシャ王セット(第21番~第23番)へと続く。今夜の第1曲目の第14番は、「春」という名で呼ばれることがある。これは、多分内容が浮き立つような曲想であるから付けられたのではなかろうか。この日のモーツァルトの弦楽四重奏曲第14番「春」のカザルス弦楽四重奏団演奏は、実に明瞭な表現力を駆使し、若き日のモーツァルトの明るく弾むような気分を再現し尽くす。しかし、ただの軽快さという表面的な表現では終わらずに、モーツァルトの音楽に深いところで共感した演奏となっており、演奏内容の充実感が際立つ。いい意味での中庸感を心得た演奏とでも言ったいいだろうか。この演奏を聴くと、久しぶりの正統派カルテットの登場といった感を深くする。

 2曲目のクルターク:ミハーイ・アンドラーシュへのオマージュは、ハンガリー出身の現代作曲家であるジェルジュ・クルターク(1926年生まれ)の作品。クルタークは現代のハンガリーを代表する作曲家の一人で、バルトークらの影響を受け、ウェーベルンの後継者とも言われている。1967年フランツ・リスト音楽院の教授となり、1985年フランス政府から芸術文化勲章を授与されるなど、現代音楽作曲家の重鎮の一人。ミハーイ・アンドラーシュへのオマージュは、同じハンガー出身の作曲家のミハーイ・アンドラーシュ60歳の誕生日に際して作曲された、性格の異なる12の曲からなる弦楽四重奏曲。ここでのカザルス弦楽四重奏団の演奏は、これまでしばしばコンサートで現代音楽を演奏曲目に取り上げてきたことを裏付けるように、モーツァルトの弦楽四重奏曲を演奏した時とは一変し、感覚が極限まで研ぎ澄まされ表現力は、カザルス弦楽四重奏団が現代のカルテットであることを自己主張しているかのようにも聴こえた。言ってみればカザルス弦楽四重奏団は、“文武両立のカルテット”であることを証明したようなもの。

 最後の曲は、シューマン:弦楽四重奏曲第1番。シューマンの室内楽曲は、ピアノ四重奏曲やピアノ五重奏曲がしばしばコンサートでも取り上げられるが、弦楽四重奏曲は、そう目立った存在ではない。しかし、このことが曲の内容の充実さとは必ずしも一致しない。言ってみれば3曲あるシューマンの弦楽四重奏曲は、玄人好みの曲であり、その分、一旦魅力に憑りつかれるとなかなか忘れることのできない曲となる。3曲の弦楽四重奏曲は、シューマンの室内楽の年と言われる、1842年の6月から7月の2か月間に一気に書き上げられた。これら3曲は、ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲に影響を受けていると言われており、シューマンの自信作でもあったのだ。3曲の中でもこの第1番が最もロマン情緒濃厚な曲と言える。ウィーン古典派のモーツアルトの曲の後に、クルタークのウェーベルン張りの現代音楽を弾き分けたカザルス弦楽四重奏団が、今度は、シューマンの弦楽四重奏曲をどう表現するか、興味津々であった。そして、聴き終えて、カザルス弦楽四重奏団は、靄のかかったシューマン独特のロマンの香りも巧みに表現できるカルテットであることを実感させられた。少し前にロータス・カルテットの激しいシューマンの弦楽四重奏曲全集のCDを聴いていたので、よけいにカザルス弦楽四重奏団のロマン情緒たっぷりのシューマンの弦楽四重奏曲の演奏が強く印象に残った。アンコールのシューベルト:弦楽四重奏曲“四重奏断章”は、この日のコンサートの総仕上げみたいに、その表現能力の幅の広さを全て出し切ったような演奏内容であった。聴衆の喜ぶ拍手の音が印象的。バッハ:フーガの技法 BWV1080 コントラプンクトゥス1、4、6、9は、この日のコンサートの前に行われたコンサートの模様を収録したもので、定規を引いたような正確無比の演奏内容を披露した。(蔵 志津久)


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