フォーレ:バイオリンソナタ第1番/同第2番
こもり歌op16/アンダンテop75
ヴァイオリン:ローラ・ボベスコ
ピアノ:ジャック・ジャンティ
CD:日本フォノグラム(PHILIPS) 30CD-3032
フォーレのバイオリンソナタと聞いて思い出すのは通常は第1番である。この第1番のバイオリンソナタは、1875年、フォーレ31歳という比較的初期の作品である。それだけに曲全体に若々しさが漲り、親しみやすい旋律とともに聴くものを引き付けて止まない。フォーレの曲はどちらかというと曖昧模糊として、霧の中を歩いているような夢想的な曲想が多いが、この第1番のバイオリンソナタは、そんなフォーレにしては珍しくはっきりとした自己主張に貫かれ、青春の甘酸っぱい思い出みたいものが全曲に散りばめられている。そんなわけでコンサートなどでも取り上げられる機会も多い名曲ではある。
一方、第2番のバイオリンソナタは、コンサートなどでもあまり取り上げられず、FM放送などでも、フォーレのバイオリンソナタというと第1番が放送されるケースがほとんどだ。これまであまり強い印象のなかったバイオリンソナタ第2番を今回聴いてみて、これまでの認識が大きく覆ってしまった。第2番も第1番に劣らずなかなか優れた曲で、バイオリンソナタの名曲の一つに挙げられてもいい。
第2番は1916-17年に作曲され、第1番から実に41年の歳月が経過した作品である。それだけに内容が充実している点では第1番を大きく引き離した位置にある作品といってもよいだろう。特に第2楽章のアンダンテは、聴き続けるうちにその優雅な清々しさに心が奪われる思いにとらわれる。これを挟んだ第1、第3楽章は起伏にとんだ曲で聴き応え十分という感がする。第1番が“青春の賛歌”であるとしたら、差し詰め第2番は“人生の回顧”といったところであろうか。
フォーレのバイオリンソナタは、ティボーとコルトーの録音など昔から名盤が多い。今回のCDはボベスコとジャンティによるものだが、これもまた名盤の1枚ということができよう。ジャンティのピアノもボベスコとの息がぴたりと合っている。私はこれまでボベスコというとどちらかというと女性的なバイオリニストという印象が強かったが、このCDでのボベスコは実に力強く、むしろ男性的な感じがするほどだ。そうはいっても、ボベスコならではの極上の美しさに彩られた響きはここでも健在である。ボベスコはルーマニア出身で、フランコ・ベルギー派のバイオリンニストとしてベルギーを拠点に活躍した。最初の来日は1980年1月であるが、このときはファンが奔走して実現させたことをみても当時の人気のほどが偲ばれる。そのボベスコも悲しいことに03年9月4日に他界してしまった。
(蔵 志津久)