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★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇ボベスコのフォーレ:バイオリンソナタ第1番/第2番

2009-05-26 10:05:41 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

フォーレ:バイオリンソナタ第1番/同第2番
     こもり歌op16/アンダンテop75

ヴァイオリン:ローラ・ボベスコ

ピアノ:ジャック・ジャンティ

CD:日本フォノグラム(PHILIPS) 30CD-3032

 フォーレのバイオリンソナタと聞いて思い出すのは通常は第1番である。この第1番のバイオリンソナタは、1875年、フォーレ31歳という比較的初期の作品である。それだけに曲全体に若々しさが漲り、親しみやすい旋律とともに聴くものを引き付けて止まない。フォーレの曲はどちらかというと曖昧模糊として、霧の中を歩いているような夢想的な曲想が多いが、この第1番のバイオリンソナタは、そんなフォーレにしては珍しくはっきりとした自己主張に貫かれ、青春の甘酸っぱい思い出みたいものが全曲に散りばめられている。そんなわけでコンサートなどでも取り上げられる機会も多い名曲ではある。

 一方、第2番のバイオリンソナタは、コンサートなどでもあまり取り上げられず、FM放送などでも、フォーレのバイオリンソナタというと第1番が放送されるケースがほとんどだ。これまであまり強い印象のなかったバイオリンソナタ第2番を今回聴いてみて、これまでの認識が大きく覆ってしまった。第2番も第1番に劣らずなかなか優れた曲で、バイオリンソナタの名曲の一つに挙げられてもいい。

 第2番は1916-17年に作曲され、第1番から実に41年の歳月が経過した作品である。それだけに内容が充実している点では第1番を大きく引き離した位置にある作品といってもよいだろう。特に第2楽章のアンダンテは、聴き続けるうちにその優雅な清々しさに心が奪われる思いにとらわれる。これを挟んだ第1、第3楽章は起伏にとんだ曲で聴き応え十分という感がする。第1番が“青春の賛歌”であるとしたら、差し詰め第2番は“人生の回顧”といったところであろうか。

 フォーレのバイオリンソナタは、ティボーとコルトーの録音など昔から名盤が多い。今回のCDはボベスコとジャンティによるものだが、これもまた名盤の1枚ということができよう。ジャンティのピアノもボベスコとの息がぴたりと合っている。私はこれまでボベスコというとどちらかというと女性的なバイオリニストという印象が強かったが、このCDでのボベスコは実に力強く、むしろ男性的な感じがするほどだ。そうはいっても、ボベスコならではの極上の美しさに彩られた響きはここでも健在である。ボベスコはルーマニア出身で、フランコ・ベルギー派のバイオリンニストとしてベルギーを拠点に活躍した。最初の来日は1980年1月であるが、このときはファンが奔走して実現させたことをみても当時の人気のほどが偲ばれる。そのボベスコも悲しいことに03年9月4日に他界してしまった。
(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽CD◇シューマンのバイオリンソナタ第1番/第2番他

2009-05-12 09:25:41 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

シューマン;バイオリンソナタ第1番/第2番
      バイオリンとピアノのロマンスOp.94

バイオリン:イヴァン・ジェナティー

ピアノ:イヴァン・クランスキー

CD:SUPRAPHON 11 1517-2

 シューマンのバイオリンソナタは、一般には2曲が知られているが、実際には第3番があり、全部で3曲があるのが正解だそうである。第3番は、シューマン、ブラームスそれにアルベルト・ディートリヒの3人が作曲したバイオリンとピアノのためのF.A.E.ソナタを、シューマンが改作して完成させたもので、出版されずにパリの国立図書館に草稿のまま保管されているという。

 というわけで現在我々が聴くことができるシューマンのバイオリンソナタは2曲であるが、この2曲はコンサートであまり演奏されることはない。このため、シューマンのバイオリンソナタはというとポピュラーなバイオリンソナタとはいい難いようだ。しかし、一度聴くとなかなか離れられなくなる独特な魅力を持った曲であり、もっと広く聴いてほしい曲の一つだ。

 あまりコンサートで取り上げられない理由の一つは、2曲ともバイオリンとピアノの間の親密さに主眼が置かれた曲で、演奏効果という点ではいまいちという側面を持ち合わせているからなのであろうか。しかし、私個人にとっては、数多くあるバイオリン曲の中でも最も身近に感じることができる曲の一つなのである。まったく身構えなくても曲の流れが自然に体の隅々に染み渡る感覚がなんともいい。この感覚は第1番に特に顕著に出ている。第2番は比較的演奏効果が出る曲なので演奏される機会は1番よりも多いようだ。ただ、このような曲は、やはりCDで自宅で聴くのが一番いいように思うし、その意味でCDのリスナー向けの曲だと思うのだが。

 このような、しみじみとした曲はなんといっても演奏家の質が問われる。私にとってはバイオリンがイヴァン・ジェナティー、ピアノがイヴァン・クランスキーのこのCDがなんといっても決定盤なのである。2人の息の合った演奏は少しの違和感がなく、2つの曲が持っている魅力を存分に堪能することができる。ジェナティーが奏でるバイオリンは、渋くもなく、さりとて派手でもなく、中庸を得ていて、弦楽器の本場チェコ出身でプラハの春国際コンクール優勝者という実力者らしく、バイオリンの魅力を存分に味わせてくれる。また、ピアノのクランスキーは、1967年第19回ブゾーニ国際ピアノコンクール第2位の実力者であるだけに、バイオリンとの掛け合いが見事だ。
(蔵 志津久) 

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◇クラシック音楽CD◇ジネット・ヌヴーのショーソン/ドビュッシー/ラヴェル/R.シュトラウス

2009-04-28 09:10:14 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

ショーソン:詩曲
ドビュッシー:バイオリンソナタ
ラヴェル:ツィガーヌ/ハバネラ形式の小品
R.シュトラウス:バイオリンソナタ

ヴァイオリン:ジネット・ヌヴー

指揮:イサイ・ドヴロヴェーン
管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

ピアノ:ジャン・ヌヴー/グスターフ・ベック

CD:独EMI CDH 7 63493 2

 1949年10月、飛行機事故で僅か30歳で命を絶たねばならなかった天才女流バイオリニスト ジネット・ヌヴー(1919年―1949年)。今僅か7回のスタジオ録音と3回の放送ライブ録音が残されているのみだが、そのすべてがそれぞれの曲の決定版と言っても過言でないほどの至高の内容をもっている。ショパンの直ぐ側の墓にヌヴーは眠っているそうであるが、死後にフランス政府からレジョン・ドヌール十字章が贈られたことでも、生前その存在がいかに大きかったかが分かる。

 このCDに収められたショーソン、ドビュッシー、ラヴェル、R.シュトラウスの曲はいずれも名演中の名演で、現在でもこれらの演奏を越えた演奏は見あたらない。ジネット・ヌヴーはフランコ・ベルギー楽派に属するバイオリニストであると言われていたように、音色はすこぶる美しいが、その美しさが単なる美しさでなく、力強さを内に秘め、聴くものを思わず誘い込むような魅惑的な美しさだから、何回聴いても少しも飽きることがない。CDを何回聴いても新しい発見があるような、そんな演奏なんてめったにあるものではない。

 このCDのショーソン、ドビュッシー、ラヴェルは、極限の集中力で弾き込まれており、それぞれの曲が持つ内容をすべて、聴き手の目の前に提示したような名人芸に圧倒されてしまう。ジネット・ヌブーが他のバイオリニストと違うとしたら、自分勝手な演奏ではなく、リスナーが聴きやすいように先回りをして、丁寧にその曲の本質を描き切ってくれていることであろう。R.シュトラウスのバイオリンソナタは、これらの曲の演奏とは少々異なり、非常にリラックスして自ら楽しんで演奏していることが手に取るように分かり、聴いていて何かうれしくなってくるほどだ。

 ジネット・ヌヴーがもし1949年のアメリカ旅行から無事に戻っていたとしたら、ベートーベンとチャイコフスキーのバイオリン協奏曲さらにブラームスのバイオリンソナタの録音が予定されていたそうである。さらにその後バッハの無伴奏バイオリンソナタなど古今のバイオリンの名曲がヌヴーの手で必ず録音されたに違いないと思うと、残念無念を通り越して、何か空しさの気持ちでいっぱいになってしまう。 (蔵 志津久) 

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◇クラシック音楽CD◇久保田巧のブラームス:バイオリンソナタ全曲

2008-10-21 08:29:25 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

ブラームス:バイオリンソナタ全曲/バイオリンソナタ「F.A.E」よりスケルッツォ

バイオリン:久保田巧

ピアノ:パウル・グルダ

CD:Octavia Records Inc. OVCL-00343

 バイオリンの久保田巧とピアノのパウル・グルダとのブラームスバイオリンソナタ全曲演奏は、最初トッパンホールでの実演を聴いた後、このCDがあることを知り、早速購入したという、従来とは異なるパターンとなった。結論からいうと、このCDは、これまで日本のクラシック音楽界が必死に追い求めてきた一つの成果が結実したCDになっていると私は確信している。それほど高いレベルに達したCDとなっている。ブラームスのバイオリンソナタは、なかなか味わいの深い、ブラームス独特の曖昧模糊とした世界へと我々を誘う、西洋音楽の中でもとりわけロマンの香を内に込めた室内楽曲である。とっつきのよい音楽ではないが、一度その世界に嵌るとなかなかその魅力から離れられない、何かを持ったバイオリンソナタではある。久保田巧とパウル・グルダはこれを巧みに描ききっている。このCDの第1番のバイオリンの出だしからブラームスの世界がぱっと開ける。これはなかなか出来ることではない。ブラームスのバイオリンソナタ全曲のレコード/CDのこれまでの決定盤はジョコンダ・デ・ヴィトー盤を置いて他にはないが、今回の久保田巧盤はこれに肉薄したといっていいのではないか。

 バイオリンの久保田巧は4歳でバイオリンを始め、桐朋女子高等学校音楽科を経て、ウイーン・フィルの名コンサートマスターで、我々にも馴染み深いヴォルフガング・シュナイダーハンに師事。1983年第2回フリッツ・クライスラー国際コンクール第2位、そして1984年、1位を出さないことで有名なミュンヘン国際音楽コンクール・バイオリン部門で日本人として初めて優勝した。1988年にはウィーン・ピアノ四重奏団を結成している。07年からは新しいパートナーとしてピアニストのパウル・グルダとの共演をスタート。このピアニストのパウル・グルダは、あの名ピアニストのフリードリッヒ・グルダの息子である。彼は1961年、ウィーンに生まれ、最初のピアノの先生がジャズピアニストというのが面白い。父親のフリードリッヒ・グルダがジャズに凝っていたので、この影響もあるのかも。実演を聴いてみるとこの経歴がなんとなくうかがえ、愉快だ。何しろ型に嵌らない自由奔放な弾きっぷりで、その存在感を際立たせる。今やウィーンの中堅ピアニストとして活躍しているという。久保田巧がパートナーにパウル・グルダを選んだことは、なかなかの選択眼と感服する。

 コンサート会場で配られたパンフレットの中で中村孝義大阪音楽大学学長が久保田巧のこんな言葉を紹介している。「自分にとっては(ブラームスは)分かりにくい作曲者であった」「何を言いたいのか明確に理解しにくかった。だからこそ長くかかわり続けてきた」と。久保田巧はわが国のクラシック音楽界の中において、決して華やかな存在とはいえない。彼女より有名でスター性を持ったバイオリニストはたくさんいる。しかしである。いま技・体・心の3つとも充実した、わが国バイオリニストのトップに位置するのが久保田巧だと私は言いたい。それはブラームスの第2番のバイオリンソナタを聴いてみれば明白だ。この曲をリスナーが聴いて“分かる”ように弾きこなすのは容易なことではない。バイオリニストとして本当の力量が試される曲である。つまりこんな効果の出ない、厄介な曲を普通のバイオリニストは避けるのであるが、久保田巧は「長くかかわり続けて」、これを見事弾きこなしている。今回、ブラームスのバイオリンソナタ全集のCDは発売されたばかりだが、あと何年か後に再録音をしてほしいものだ。その時は、ジョコンダ・デ・ヴィトー盤を抜いて、久保田巧盤がブラームスのバイオリンソナタ全集の決定盤となると思う。

 ところで、このCDはSACDということがあってか、なかなか高音質な録音に仕上がっている。これまでCDは音質が何かきんきんしたところがあって、レコードに比べて自然さに欠けるところがあった。ところが最近のCDは音質が改善され、かなり聴きやすくなっている。このCDを聴くと、実演と比べても遜色ない仕上がりとなっている(ただ、パウル・グルダのピアノは実演に比べおとなしく聴こえる)。いずれにしても、録音のレベルが向上すると、実演とは何かということが問われることになりかねない。昔、グレン・グールドが実演を止め、録音だけに音楽活動を絞り込んだことが思い出される。
(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇グリュミオーとハスキルのベートーベン/モーツアルトのライブ録音

2008-08-25 10:49:40 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

ベートーベン:バイオリンソナタ第4番/第10番
モーツアルト:バイオリンソナタKV378

バイオリン:アルテュール・グリュミオー
ピアノ:クララ・ハスキル

CD:Radiotelevisione della Svizzera italiana/Rete 2  ERMITAGE

 グリュミオーハスキルの名コンビの録音は有名だが、それらはスタジオ録音だと思う。このCDはライブ録音であるところに価値がある。ただ、聴衆の大きな咳声が入っていて、プライベートに聴くならいいが、一般のCDと同列には置けない。しかし、二人の演奏が実際にどんなものだったかが窺えて、大変興味深いCDではある。基本的に演奏スタイルはスタジオ録音と変わりはないが、モーツアルトのソナタの後半から両者の演奏に熱がこもり、最後のベートーベンの第10番のソナタではスタジオ録音では聴くことができない熱気ある演奏に引き込まれる。データには1960年の録音と記されている。ハスキルは1960年に亡くなっているので、このCDは死の直前の演奏会の録音ということになる。

 グリュミオーの演奏スタイルはあくまで丹精で優美なバイオリンを奏でる。一方、ハスキルの演奏スタイルもグリュミオーに似て非常に整った優雅なピアノ演奏を特徴とする。この二人がコンビを組んだのは、ある意味で必然性があったということが理解できる。“典雅”という言葉があるが、二人の組み合わせは正に典雅そのものといって過言はない。これからグリュミオーとハスキルを上回るバイオリンとピアノのデュオーはそう簡単には出てはきまい。こんなコンビの奏でるベートーベンのバイオリンソナタは、普通我々が聴くベートーベンとは一線を画し、バイオリンとピアノが格闘するのではなく、あくまでバイオリンとピアノが縺れ合いながら、穏やかな会話を繰り広げる。モーツアルトの場合は、曲そのものが二人の特徴とぴたりと合い、まるで二人のためにモーツアルトが作曲したかのような錯覚に陥るほどだ。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇シューベルト:バイオリンとピアノのためのソナチネ集

2008-08-06 11:23:02 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

シューベルト:バイオリンとピアノのためのソナチネ集

バイオリン:ウェルナー・ヒンク
ピアノ:遠山慶子

CD:カメラータ・トウキョウ 32CM-42

 シューベルトのバイオリンとピアノのためのソナチネ3曲(ト短調、イ短調、ニ長調)が収められたこのCDは“珠玉のCD”といった表現がぴったりとする。この3曲が作曲されたのはシューベルト19歳のときというから、その才能の凄さに目を瞠ってしまう。3曲とも珠玉の名曲であり、しかも作曲されたのが家族や友人たちを対象にしていたようで、なんとも親しみやすく、和やかな雰囲気に包まれてしまう。クラシック音楽というと、どうもしかめっ面した曲が幅を利かせがちだが、このシューベルトの3曲のソナチネはその逆で、聴くと思わず微笑んでしまう。で、内容はというと、これがなかなかのもので、日常われわれが心の奥底で思い抱く感情が巧みに表現されており、ソナチネという語感からはとても想像できないほどの深い精神世界を表現している。

 “珠玉のCD”のもう一つの理由は、演奏自体が“珠玉の名演”だからである。録音は「1986年、1988年ウィーン/他」となっている。ヒンクはウィーン・フィルのコンサートマスターおよびウィーン弦楽四重奏団のメンバーで、遠山慶子はわが国を代表する名ピアニスト。名演奏家同士の演奏は個性がぶつかり合うことが多く、なかなか息が合う演奏にお目にかかれないが、この二人の名手は違う。息がぴたりと合った名コンビなのだ。そして、ウィーンという土地が醸し出すなんともいえない音楽性に満ち満ちた雰囲気を抜きに、このCDは語れないのであろう。とにかく、いつも傍に置いて、何気なく聴いてみたくなる魅力的なCDではある。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇漆原啓子のバイオリン小品集

2008-05-10 08:19:23 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

ホームページ「クラシック音楽リスナーネット(CMN)」

 ウィニアフスキー/チャイコフスキー バイオリン小品集

 演奏:バイオリン=漆原啓子   
     ピアノ=林 裕子

 CD:FONTEC RECORDS FOCD3201

 漆原啓子は1981年、日本人として初めてウィニアフスキー国際コンクールで第1位優勝に輝いた。その得意としたウィニアフスキーとチャイコフスキーのバイオリン小品集を集めたのが、この“ケイコ・ブリランテ”と題されたCDである。その出来栄えは当然のことながら、凄いの一言に尽きる。単に曲の表面をなぞるのではなく、内面からこみ上げてくるようなその曲への愛着感が、聴くものを感動させる。味覚でいえばコクのある味とでもいえようか、何度でも聴いても飽きない。さらにバイオリン小品集では欠かせない、小粋なセンスも持ち合わせている。

  漆原啓子がなぜこのような演奏ができるのか、不思議なような気もする。ウィニアフスキーとかチャイコフスキーは民族音楽との密着度が強い作風であり、こんな曲で、本場の人々をも一目置かせる演奏というのは、漆原啓子だけに与えられたものなのか。でも、ウィニアフスキーやチャイコフスキーでも、民族感情を超える、何か普遍的な世界を持っているからこそ、現在でも世界各国で演奏され続けていると考えるべきなのであろう。忘れ去られる曲が多い中で、長い生命力を維持しているこれらの曲は、“クラシック音楽は世界共通の言葉”そのものなのだと思う。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇巌本真理のヴァイオリン小品集

2008-03-18 22:34:57 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

ヴァイオリン小品集

ヴァイオリン:巌本真理
    
ピアノ:坪田昭三

CD:東芝EMI CZ30-9040

 巌本真理といってピンとくるの人は年配の方だろう。1979年(昭和54年)に亡くなっているので当然なことではある。彼女が第6回音楽コンクールに優勝しのが11歳の時で当時“天才少女バイオリニスト”として広く知られることになる。1937年(昭和12年)のことである。戦後、日本のクラシック音楽界が動き出すと敗戦で生活がままならない日を送っていた日本人に、彼女のバイオリンの音色は深く刻まれていった。当時を知るものにとって、巌本真理と聞くと懐かしい想いが込み上げてくるのはそのためである。当時の日本は経済的には今と比べると比較にならないほど貧しかったが、精神的は将来の夢や希望に溢れていた素晴らしい時代であった。

  このCDは彼女が残したレコードの復刻盤であるが、今聴いても楽しむことができる音質なのがうれしい。演奏内容はなんと素直に伸び伸びと弾いているのだろうという印象を受ける。そして聴けば聴くほど引き込まれる。こんな演奏は今聴くことはできない。今は、何か他の演奏家とは違うことしなければ、誰も振り向いてくれない。この結果素直な演奏は影を消してしまったわけである。彼女のこのCDを聴くと、今の日本のクラシック音楽界が失ってしまった何かが残されている。それは演奏技術ではなく、心かもしれない。ピアノで名伴奏ぶりを聴かせる坪田昭三についても同じことが言える。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇シトコフスキーのグリーク:バイオリンソナタ第1番‐第3番

2007-10-23 20:38:36 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

グリーク:バイリンソナタ第1番/第2番/第3番

演奏:バイオリン=ディミトリー・シトコフスキー   
    ピアノ=ベラ・ダビドビッチ

CD:西独ORFEO C047-831A  

 第1番の第1楽章は、メランコリックなメロディーで始まり、その後、あたかも手探りのように音をつむいでいく。第2楽章は多少重苦しい足取りで始まるが、そのうち自分の独自の音を作り出していき、生き生きとした音の流れが心地よい。第3楽章ははじめからグリーク独自のチャーミングな音が飛び跳ねる。
 
 第2番は、まるで深い森の中に迷い込んでしまったような、夢幻的な趣を持ったバイオリンソナタだ。時として小川のせせらぎや小鳥の囀る響きにも似たメロディーが心地よい。3楽章に入ると森の中を出て、何か広々とした畑を、小高い丘の上から眺めるといった感じが心に沁みる。グリークでなければ描ききれない傑作に違いない。  

 第3番は、これまでの第1、第2番とはがらりと変わってスケールの大きな第1楽章から始まる。何かこれまでの散文的な楽想が一挙に凝縮され、構成美の豊かな音楽に一気に高められたかのように感じられる。堂々としたとこは何かベートーベンのよう。第2楽章はまた趣が変わって、この上ない叙情美に包まれ、グリークしか表現できないメランコリックなところに引かれる。そして第3楽章は第1楽章を受けたかのように構成美が際立つ。 

 演奏はシトコフスキーのバイオリンとダビドビッチのピアノというコンビで、グリークの魅力を余すとこなく表現し、十分に堪能できる演奏となっている。グリーク特有の叙情みと構成美とをうまく1つの演奏に取り入れて弾きこなす、熟達した手腕に脱帽。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇シェリングのベートーベン“春”と“クロイツェル”

2007-09-18 20:26:44 | 室内楽曲(ヴァイオリン)
ベートーベン:バイオリンソナタ第5番“春”/第9番“クロイツェル”

演奏:バイオリン=ヘンリック・シェリング
   ピアノ=イングリット・ヘブラー

CD:西独フィリップス 420 862-2

 バイオリンソナタ第5番“春”は1800年に作曲が始められ翌年完成したといわれている。“春”と副題が付けられている通り、なんともいえず聴き手を和やかな気分に浸らせてくれる。私は1月元旦に必ず“春”を聴く習慣がいつの間にかついて
しまった。日本の正月にぴたりと合う雰囲気をもった曲だ。ただ、ムード的に意外にも、既にその構成はベートーベンらしい特徴を有している。一方、バイリンソナタ第9番“クロイツェルソナタ”は、交響曲第3番“英雄”とほぼ同時期に書かれ、
内容もソナタというより、協奏曲に近い感じを受ける。演奏はバイオリンがシェリング、ピアノがヘブラーというコンビ。演奏はベートーベンらしい強固な精神性に貫かれたものとなっており、これらの曲の名盤の1つといってもいいだろう。
(蔵 志津久)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0




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