シネマ見どころ

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「魔女の香水」(2023年、日本映画)

2023年07月12日 | 映画の感想・批評
派遣社員の恵麻(桜井日菜子)は正社員をめざしてバンケットルームでがんばっていたが、ある日上司のセクハラを目撃し抗議したために、解雇されてしまう。自棄になった恵麻は夜の繁華街でホステスを勧誘するスカウトマン杉斗(落合モトキ)にも相手にされず、「自分にはどんな価値があるのか」と問い詰め、絡んでしまう。
杉斗は恵麻を魔女さんと呼ばれる弥生(黒木瞳)の香水店に連れていく。そこで恵麻は弥生から香水だけでなく、人生への展望も与えられ、ステップアップをしていく。また、この店の常連客で「金木犀の香りのする」横山(平岡祐太)とも出会い、やがて公私ともに大事な人となっていくのだが。

魔女さん(弥生)の作る香水のタイトルが良い。
「何事も楽しむ」「相手の心を想像する」「無限の力」「恋愛は学び」「伝説を作れ」「時代に革命を」「目先の利益より未来の財産」「ピンチはチャンス」
魔女さんの若い日、フランスで調香師の榊(宮尾俊太郎)と出会い、愛し合い、ともに創り上げてきた9種の香水。最後の9つ目だけが未完成。タイトルは「愛する人のために」
99%出来上がっているレシピの残り1%を埋める香りの成分は何なのか。そしてそのレシピと完成品をもたらしたのは。

香りとの出会いを機に、人生がかわっていく若い女性の成長物語である。

香りをテーマにした映画は意外に少ないように思う。洋画の「パフューム~ある人殺しの物語」(2006年)は大好きな作品で、アロマテラピーの講師をしている私は、講座の中でくどいほど?作品を紹介してきた。その成果なのか、いっとき地元のレンタルビデオの上位にランクインしたことがある。
「香りの持つ不思議な力」の魅力は目に見えない分、記憶を呼び覚まし、心に大きく働きかけ、迷っているときに背中を押してくれるものである。
日本人にとって香水は必需品とは言い難い。高級品、特別なものであり、この映画の世界もどこかファンタジーと思えた。
むしろ、古代から伝わる香木を使った香り遊び、やがて香道へと芸道の1つとして高められた精神世界のほうが私は面白く思える。来年の大河ドラマでは『源氏物語』の作者紫式部が登場するので、貴族社会の香り遊びがどう描かれるか楽しみにしている。
(アロママ)

監督:宮武由衣
脚本:宮武由衣
撮影:高間賢治
出演:黒木瞳、桜井日菜子、平岡祐太、水沢エレナ、小出恵介、落合モトキ