シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「サバカン SABAKAN」(2022年 日本映画)

2022年09月07日 | 映画の感想・批評
1986年夏の長崎。
小学5年生の久田少年は作文が上手で、クラス担任にもよく褒められる。パワフルな母(尾野真千子)とぶっきらぼうな父(竹原ピストル)と弟の4人家族。上品とはおくびにも言えない会話が飛び交う家庭、裕福ではないが、両親の愛情にはあふれている。
クラスのいわゆる「のけ者」にされている竹本少年は母子家庭、弟妹4人の世話をしている。「貧乏だ、ぼろ家だ」と彼の家を嘲笑するクラスメートたちに、久田少年は同調しかねるが、その場は黙って見ているしかない。
夏休みのある日、竹本少年が久田少年を訪ねてくる。「離れ小島にイルカを見に行こう、朝早くから自転車に乗って!」

そこからの冒険がハラハラドキドキ。ヤンキーが現れ、自転車は壊されるし、遠泳中におぼれそうになるし。はあ、孫息子もあと10年もしたら、こんな危険な冒険をするようになるのだろうか、男の子は難しいもんやわと、思わず手に汗を握ってしまう。
竹本少年はなぜ久田少年を誘ったのか。
「久ちゃんはあの時、笑わなかった!」
大冒険を果たした日の別れ際、「またね!」「またね~」まるでこだまのように言い交す二人に、じーんとなる。

タイトルのサバカン、鯖の味噌煮缶である。
久田少年に竹本少年がふるまうのがサバカンを使った握りずし。『竹ちゃんは料理がうまいんだから、すし職人になるといいよね』「久ちゃんは作文がうまいから、物書きになれるよ」
少年二人は将来の夢を語り合う仲になるが、思いがけない不幸が竹本家に起こる。
貫地谷しほりがお母さんを演じる年齢になったのかと、それも感慨深い。

久田少年のいつも履いている白い靴下が印象的。竹本君はいつも裸足。そこに生活の安定性が垣間見える。足元を映すシーンが多かったような。
自転車の二人乗り、ピンクのママチャリは母のおさがりだろう。
朝早くこそっと出かけようとしたところを父親に見つかる。ひい、叱られるのか?
竹原ピストルの父親がまたいい。お尻が痛くならないようにと、荷台に座布団をつけてくれた。ラスト近くで、息子を自転車の荷台に乗せて歌うシーンがなんとも泣かせてくれる。

自分よりも20数年下の世代の体験とはいえ、田舎の夏のキラキラした思い出はどの世代にも共通の物であろう。
こわもての大人もそれぞれに情のある声掛けをして、地域の少年を見守っている。昨今の子どもをめぐる悲しい事件を聞くたびに、いったいこの国の大人たちはどうなってしまったのだと残念でならない。

ヤンキーをやっつけてくれた男や、何より海でおぼれかけた久ちゃんを救ってくれたお姉さん、彼らの関係性もよくわからないままだったりと、伏線の回収が不十分な点も多々あるが、本作が長編デビューという監督のこれからが楽しみでもある。

(アロママ)

監督:金沢知樹
脚本;金沢知樹、萩森淳
撮影:菅祐輔
出演: 尾野真千子、竹原ピストル、番家一路(子役)、原田琥之佑(子役)、貫地谷しほり、草彅剛