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「火口のふたり」(2019年 日本)

2019年10月16日 | 映画の感想、批評
 直木賞作家・白石一文の原作初の映画化で、監督・脚本は「幼な子われらに生まれ」の脚本家・荒井晴彦。出演が柄本佑と瀧内公美の2人だけという話題作。
 10日後に迫った従妹の直子の結婚式に出席するため、久しぶりに故郷の秋田に帰ってきた賢治。直子の家庭の事情から同じ家で暮らしていたこともあり、東京で働いていた賢治を追って上京してきた直子と関係を持つようになった。大型テレビの運搬を手伝い直子の新居でひと息ついた賢治に「今夜だけ、あのころに戻ってみない?」と誘う直子。出張中の婚約者が戻るまでの5日間、2人は東京での欲望のままに生きた日々へと引き戻されていく。
 直子にとって賢治は初めての男で、快楽のすべてを教えてくれた相手だった。だが出口の見えない従兄妹同士の恋愛を早々に諦めて故郷に戻った直子は、東日本大震災で多くの命が失われたことや、子宮筋腫が見つかり子どもを産みたいという思いから、陸上自衛官との結婚を決めたのだ。
 そもそも人類が発達する過程で、子孫を増やし残すために近親間の結合はあったはず。日本の歴史の中でも、勢力・権力を維持・伸長するために、いとこ同士、おじと姪、おばと甥との結婚があった。母親が違えば、兄と妹、姉と弟の結婚もあった。たとえば天智天皇の弟・天武天皇と天智天皇の娘・持統天皇は、叔父と姪のビッグ・カップルである。また豊臣秀頼と千姫のカップルも、母親同士が姉妹の従兄妹同士である。
 <R18+>で濃厚な濡れ場が多い映画だが、現代の日本では許されない従兄妹同士が繰り広げる愛欲の世界が、柄本佑と瀧内公美の2人だけの出演で描かれている。なぜ従兄妹同士だったのか、他人同士だったらよかったのに、そんな呟きが聞こえてきそうだった。
 デビュー作を見た時からその後の成長が気になった俳優が2人いる。1人は「ボーイズライフ」でロバート・デニーロを睨みつける眼力に気迫を感じたレオナルド・ディカプリオ。そしてもう1人が「美しい夏キリシマ」で主演デビューした柄本佑で、この作品でキネマ旬報ベストテン新人男優賞、日本映画批評家大賞新人賞を受賞した。その後も映画やテレビで普通の人、癖のある人、どんな役を演じていても存在感があり、気になる俳優である。
 賞といえば昨年は選考委員のスキャンダルで授賞が見送られたノーベル文学賞。昨年の分も併せて2人が受賞するということで、今年こそと期待されていた村上春樹氏だったが、残念ながら受賞ならず、だった。(久)

監督:荒井晴彦
原作:白石一文
脚本:荒井晴彦
撮影:川上皓市
出演:柄本佑、瀧内公美