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それだけが、僕の世界(2018年、韓国)

2019年01月30日 | 映画の感想・批評
私には珍しく韓国映画、昨年の「1987、ある闘いの真実」とは雰囲気の異なる作品を選んだ。

イ・ビョンホンは時々見たことがある程度で、いわゆる「韓国を代表するカッコいい」俳優さん、ハリウッド作品でも活躍中。というくらいの認識。
そのイ・ビョンホンがこれまでの私のイメージを覆し、(おそらく世間的にも同じなのだろうけれど)、ヘタレの役をなんとも魅力的に演じている。
ピークを過ぎて崩れかけの元ボクサーのジョハ。今はほぼホームレス状態。歳は既に40歳。

ある日、生き別れの母親インスクと行き会い、一緒に暮らすことを提案され、過去のいきさつから反発。しぶしぶ家に行き、そこで自閉症で支援の手の必要な異父弟ジンテの存在を初めて知る。母親に手厚く保護されてきたジンテは兄に会えてうれしいのだけれども、時に粗暴なジョハが怖くてたまらない。

この3人の暮らしが、それぞれに戸惑い、凸凹と騒動を起こしながら、やがて深い愛情と家族の絆に変わっていく。
という、かなり泣かせるお話し。

母親の絶対的な愛情を受けるジンテ。
母に幼いころに「捨てられ」、父親の暴力にさらされて一人で生きてきたジョハ。
いい歳をしたおじさんになっていても、母への思慕と弟への嫉妬は隠せない。
この辺りの親子のやり取りが何ともいじらしく、引き込まれる。

イビョンホンの演技の幅の広さと深さに目を見張る思いがしたが、それ以上に、異母弟のジンテ役の若手俳優パク・ジョンミンが素晴らしい。
歩き方、視線の揺らし方、外し方、指の反り返り、その指でピアノの名手という何重にも困難な役をこなしている。
ジンテはゲームが得意なのと、耳から聞いたピアノ曲を楽譜も読めなくても再現できるという特技を持っている。この演奏がまた素晴らしい。
音源こそピアニストの演奏音だが、役者さん自身の指使いはそのまま映像で使われているという。どれほどの練習をされたことだろうか。

母親役のユン・ヨジョンは韓国では有名な女優さんらしいが、本当にどこにでも居そうな母親像を自然体で演じている。
「障害を持った息子を一人残して逝くわけにいかない、もう一人の息子に託したい」。
うーん、その気持ちは痛いほどわかる。私も似た体験をいずれするだろうから。
「親は先に逝くから、後はきょうだいに託したい』
ああ、でもそれはどこか、親のエゴじゃないだろうか。日本も韓国も、障害者家族の問題は一緒なんだなあ。

家族だけでなく、ジンテが大好きな女性ピアニストの再生のお話しも絡んで、深みのある作品だった。かの国の富裕層と貧困層の姿も垣間見える。
決して重くならない、ユーモアも交えて、暖かな人達の愛に包まれる時間だった。

クラシックピアノの名演奏をたくさん聞ける。ああこの曲、何だったっけ?
とてもハングル語のエンドロールでは読み取れないので、パンフレットを買ったのに、曲名の紹介がない!
もう一度演奏を聞きたくて、珍しく2回目を見に行ったくらい、音楽も素晴らしかった。

監督はこの作品がデビュー作らしい。
韓国映画、これからは要注目!今年の私のテーマになりそう。
「バーニング」はテレビのBS放送でチラ見して、「村上春樹原作!」に驚いた作品だったけれど、劇場版が間もなく公開とか。
堺雅人主演で観た「ゴールデンスランバー」のリメイク版も気になるところである。
(アロママ)

原題:KEYS TO THE HEART
監督、脚本:チェ・ソンヒョン
出演:イ・ビョンホン、ユン・ヨジョン、パク・ジョンミン