シネマ見どころ

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「ザ・スクエア/思いやりの聖域」 (2017年 スウェーデン、他)

2018年05月23日 | 映画の感想・批評
 本日よりシネマ見どころの執筆陣に加わるKOICHIです。よろしくお願いします。

 第70回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。傍観者効果、現代美術への懐疑、ココロの病を持つ人への行き過ぎた配慮と偏見、SNSを故意に炎上させる宣伝方法、奔放なアメリカ人記者との恋愛 etc・・・多種多様なテーマがふんだんに盛り込まれている。
 主人公のクリスティアンは現代アート美術館のキュレーターで、「ザ・スクエア」と題する参加型のアート作品の展示を計画していた。現代アートはアーティスト以外に、作品の解釈をするキュレーターや評論家の存在が不可欠で、展示や説明を担うクリスティアンはある意味で作品の共同制作者とも言える。そんなクリスティアンの周囲で起こる事件の数々を、オストルンド監督は意地悪でアイロニカルな視点で描いている。
 猿のパフォーマンスをする男の行き過ぎた行為を、誰も止めようとしないシーンがある。これは傍観者効果というよりも、パフォーマンスを制止すると自分が現代アートを理解していない無粋な人間になってしまうからだ。ところがいったん誰かが止めに入ると、他の人々も加勢して「殺せ」と叫び出す。極端から極端へと移行する集団心理の怖さがある。
 トークイベントの際に、ココロの病を持つ観客が女性司会者に卑猥な言葉を投げつける。女性に対する明らかな侮蔑の言葉だが、誰も止めようとはしない。病気だから仕方がない、注意しても理解されない、病人や障害者は社会性がなくても構わないという配慮(?)が働いているのだろうが、まさにこれこそが偏見ではないだろうか。このような考え方が真逆の方向に走れば、猿のパフォーマンスの時のように「病人や障害者は殺せ!」という極論に走ってしまう可能性がある。監督の冷ややかな視線の裏には、偏見に満ちた現実と集団心理への深い憂慮があるのではないか。
 人々を冷笑するような場面が多いが、監督が唯一、熱意を持って真摯に描いているのが貧困層への偏見と階層間の断絶の問題である。クリスティアンは、ある日財布とスマートフォンを盗まれてしまう。GPSを使って盗品のありかを捜し出すと、そこは貧困層の住む地域にあるアパートだった。一計を案じたクリスティアンは脅迫文めいたビラをアパートの全戸に配り、なんとか財布とスマートフォンを取り戻す。だが、そのビラを読んだ住人の一人が自分の息子が犯人だと勘違いし、無実の子供に制裁を課してしまう。怒った子供はクリスティアンの前に現れ、無実の証明と謝罪を要求するが、クリスティアンは子供を冷たくあしらってしまう。やがてクリスティアンは非を認め、先入観にとらわれている自分を反省し、子供とその両親に謝罪するべく再び貧困地域を訪れるのだが・・・(KOICHI)

原題:The Square
監督:リューベン・オストルンド
脚本;リューベン・オストルンド
撮影:フレドリック・ヴェンツル
出演:クレス・バング、エリザベス・モス、ドミニク・ウェスト