シネマ見どころ

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「おみおくりの作法」(2013年イギリス/イタリア)

2015年03月01日 | 映画の感想・批評


 ロンドン近郊の民政局に勤める主人公は身寄りのない住民が亡くなると現場へ赴き、遺品を整理して後始末を行い、遺族や知人を捜すという職務に従事している。遺族が見つかっても大抵は訳あって連絡を絶っていたという事情もあるから「今さら連絡されても」と困惑されるだけだ。それで、かれは葬儀と埋葬を公費で手配し、遺族も知人も来ない中で、ひとりさびしく祈りを捧げて佇むことになる。かれもまた、これといった身寄りもない中年男だ。
 この男の判で押したような一日の生活が的確に描写されるところは、これが2作目だというウベルト・パゾリーニ監督の絶妙な演出の賜だ。要するに、寡黙で几帳面で実直、誠実、慎重、従順といった美徳が、男の一挙手一投足にあらわれていて微笑ましい。さらに、通りを横切ったり、青信号をわたるときでさえ、男は左右を必ず確認してから一歩を踏み出すという動作が執拗に描かれ、まさかそれが衝撃のラストの伏線であることなど、観客の誰が予見できようか。
 いけすかない合理主義者の上司が、遺族を捜すのに手間暇かける仕事ぶりを非難し、葬儀など残された者の自己満足に過ぎず故人の知ったことかといい放って、男の仕事を他部署と併合することを宣告した揚げ句、馘首をいい渡す。それでも、この男はいま調査中の1件が片付くまで数日の猶予をくれと申し出て遺族捜しに奔走した結果、大きな成果に至るのだ。
 そうして、人生はままならぬもの、神様はときどき気まぐれを起こす。いかにもイギリス映画らしい苦い最後(ビター・エンド)だ。しかし、監督がイタリア人だということが関係しているのか、最後の最後で上司の放言をたしなめるようなこの世(現世)とあの世(冥界)の“つながり”が描かれる。つまり、ほのぼのとした癒しのラストが用意されているのである。 (健)


原題:Still Life
監督、脚本:ウベルト・パゾリーニ
撮影: ステファーノ・ファリヴェーネ
出演:エディ・マーサン、ジョアンヌ・フロガット、カレン・ドルリー