シネマ見どころ

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母の身終い(2012年フランス)

2014年02月01日 | 映画の感想・批評
 生まれてきたからには、いずれ死を迎えるのは避けられないさだめである。その時、どんな人生の終わり方をするのか。多くの人は心穏やかに、愛する人々に囲まれて、苦痛なく死にたいと願うのではないだろうか。医学の発達や長寿はそれ自体喜ばしいことである。しかし現代は高齢化社会・核家族化と介護問題・終末医療の是非など、自分の人生の終わり方をコントロールすることは困難である。
 刑務所を出所したばかりの48歳のアランは、母親が一人で暮らす実家に戻り、人生の再出発をしようとあがいていた。しかし几帳面な母親とは昔から折り合いが悪く、事あるごとにぶつかりあっていた。そんなある日、アランは母親が脳腫瘍で死期が迫っており、スイスの施設で尊厳死という形で人生を終える選択をしていることを知り、愕然とする。
 対立を続けながらも心の深いところではお互いに愛し合う息子と母親が、残り少ない時間の中でどのようにして心を通わせるのか、母親の選択を息子はどう受け止めるのか、静かな緊張感が伝わってくる。
 日本でもようやく、回復する可能性がない患者の意思に基づいて延命措置を施さない「尊厳死」を法制化する動きが出てきているようだ。映画の中の母親は、自分が自分でなくなる前に自分らしく死にたいと願い尊厳死協会から書類を取り寄せ、この国では尊厳死は自殺幇助として認められていないため、スイスの施設で最後を迎える準備を淡々と整えていく。もし自分がこの母親の立場だったら、苦痛で治る可能性のない延命治療から解放されたいと思うときがあるかもしれないが、その気持ちを強く持ち続けることが出来るかどうか自信がない。映画は人生の終わり方の一つの選択として“尊厳死”を描いてみせたが、現実には本人にとっても家族にとっても簡単に結論を出せるものではないだろう。(久)

原題:Quelques heures de printemps
監督:ステファヌ・ブリゼ
脚本:ステファヌ・ブリゼ、フローレンス・ヴィニョン
撮影:アントワーヌ・エベルレ
出演:ヴァンサン・ランドン、エレーヌ・ヴァンサン