シネマ見どころ

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「キャプテン・フィリップス」(2013年 アメリカ映画)

2013年12月11日 | 映画の感想・批評
 水を得た魚とはこういうことをいうのだろう、と思わせるような題材と監督とがみごとにマッチングした好例だといってもよい。
 監督のポール・グリーングラスが世界的に注目されたのは、アイルランド紛争に材をとった「ブラッディ・サンデー」(02年)である。この映画は北アイルランドで実際に起きた「血の日曜日」事件をドキュメンタリ・タッチで撮った秀作として知られる。その後、ハリウッドに招かれて「ジェイソン・ボーン」シリーズを撮ったあと、9.15テロ(ユナイテッド航空機ハイジャック)の実録もの「ユナイテッド95」(06年)でも無名の俳優陣に乗客と乗務員、テロリストを演じさせて機内の息詰まる一部始終を再現した。
 さて、本編はソマリアの海賊に占拠されたアメリカの輸送船が船長のリーダーシップと勇気と機転によってどのように危機を乗り越え、乗組員全員が無事に生還したかを迫真の演出で描出してみせる。ベン・アフレックの「アルゴ」同様、実話だから結末がわかっていながら、ハラハラドキドキ最後まで一気に見せてしまう力量には感心した。
 スターは船長に扮したトム・ハンクスひとりだけで、他は無名に近い出演者だから、グリーングラスが得意とするドキュメンタリ手法が大いに冴え渡った。ときおり手持ちカメラをぶらせるところなど、芸がこまかい。しかも、この映画の見どころは、ハリウッド映画のジャンルのひとつ「海洋もの」としてのスペクタクル性を備えているところだ。
 それにしても、これを見ていると、奇跡に近い生還も「事実は小説よりも奇なり」という格言どおり、いくつかの偶然が重なって一触即発の死線を乗り越えているのだと考えさせられた。ハッピーエンドをご都合主義などと批判することが多いけれど、現実においてもたまたま都合のよいことが起きてこそ、無事にことが終わるのである。 (ken)

原題:Captain Phillips
監督:ポール・グリーングラス
原作:リチャード・フィリップス、ステファン・タルティ
脚色:ビリー・レイ
撮影:バリー・アクロイド
出演:トム・ハンクス、バーガッド・アブディ、デヴィッド・ウォーショフスキー