薄まる文化-8
私は大学2年の時に、当時一流の男性演奏家による長唄勉強会
「温知会」で3世今藤長十郎先生の「秋の色種」を聴いた。
この時、3世は確か53歳。
テクニックはもちろんのこと、
そのダイナミックで繊細な曲の運びに衝撃を受けた。
後で知ることになるのだが、
3世は焼き物に造詣が深く、自宅の庭に焼き物小屋がある。
そればかりではなく芸大出の助手を置き、
全国の名窯地から土を取り寄せて
いろんな種類の器を焼くという、玄人はだしの作陶家だ。
私は3世の演奏を聴いて、
なぜか直感的に抹茶茶碗を思い浮かべた。
吸口は繊細に、胴の景色は遊び心にあふれ、
高台はダイナミックに削られている…
3世は焼き物を造るように、曲を仕立てたに違いない。
そういうやりかたもあるのだ!
芸大に居心地の悪さを覚え始めていた私には
目から鱗の「色種」だった。
〓 〓 〓
tea break・海中百景
photo by 和尚