西園寺由利の長唄って何だ!

長唄を知識として楽しんでもらいたい。
軽いエッセイを綴ります。

舞扇

2010-03-16 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
16ー「舞扇」(1806・文化3年・市村座)

日本人の好きな、”~づくし”のなかでも、よく登場するのが、”扇づくし”。
扇は日常生活と密接に関わり合っていたからだろう。


『君に扇のナ 要の契り
 雪の白地は扇の縁
 班女が閨の花扇
 その檜扇のかざしの袖に
 ひらり ひらり
 木々の錦や
 絵に描く山の桜花
 散らぬ嬉しさいつまでも』
 

●あなたに逢える、肝心要は、愛の交わり。
 雪のように真っ白な純血は、あなただけのもの。
 愛の寝所の花扇には、満開の桜花。檜扇をかざした袖に、花びらが、ひらりひらり…
 扇に描いた木々の錦は永遠に色あせないし、桜の花びらは永遠に散らないの。
 そう、二人の愛のようにね。
 
班女(はんじょ)とは、中国前漢の成帝の愛人ハンショウヨのこと。
悲しいかな、成帝の寵愛は長くは続かず、新しい愛人にその座を奪われ、捨てられてしまった。
その時に班女が我が身を”秋の扇”(秋になったら不用になり、捨てられる)に喩え、歌を読んだことから、
「班女が閨」とは、男に捨てられた寂しい女の寝所をいうようになったのだが、
この歌詞の「班女が閨」は捨てられる以前の睦まじい閨として書かれている。

ちなみに「要」とは、扇の骨をひとまとめに止めているビスようのもの。
白地は扇の白い紙と、処女の意を掛けている。


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photo by 和尚