MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルフォー-46

2018-05-05 | オリジナル小説

新たな謎

 

デモンバルグはフラフラと闇に紛れ出て、深く沈み込んだ。カラスの羽音がしたような。

早くも4大天使へご注進に及んだか。忌々しい天使族め。いや、そんなことはどうでもいい。

思わず口をついて「・・・アーメンナーメン。」そうだ、確か、そんな名前だ。

それが墓の蓋になっていたごとく、封じ込めた亡霊たちが吹き出てきそうになりデモンは慌てて記憶の連鎖を断ち切った。悪魔と名乗る彼にも思い出したくない己の黒歴史でもあるのか。

それでも覆った意識の底から・・・やわらかな声が、手が・・・頰を撫で・・・

「それが、ミコの名か。」電光のように魔物は振り返り、傍にアギュレギオンを見出す。

「しつこいさ!」怒りが稲妻のように放たれるがアギュはわずかに身をそらして避けた。

「ストーカーかっ、俺の!」「かもしれぬ」アギュは取り繕うこともせず纏わりつく。

「オレはそのミコのこと、知らなきゃないようだからな。」

「お前の都合なんか知るか!そんなことより、あのガキの方はいいのか。」

「タトラやユリが手当てをしている。カレはまだ幼い、ヨウリョウが足りなかった・・のかな。いきなりハツドウしたミコのエネルギー全ては受け入れきれなかっただけだ。オマエがそれをわからないわけはない。」

「なんだって言うんさ!?」魔族が睨みつける。その視線は炎を吐くが相手は動じなかった。

「アクマ覚えているはずだ、ヤクソクを。」

「サァ、なんだったかね。」デモンバルグはシラを切る。

「ワタルが成長したら・・・オマエはコダイのフネのアリカに案内する・・・」

アギュは逸らした目の先に回り込む。

「ワタルは18サイになった。パスポートだって取れるし、カイガイにだってイケル。」

しばらく、二人は睨み合い・・・無言で文字通り空間にエネルギーの火花を散らした。

感情の高まりに、ソリュートが胎内で動めくのを感じアギュはそれを必死で押しとどめた。

ここで戦えば、また地上が・・・現実世界が乱れる。

いちいち、カバナリオンの二の舞になってはかなわない。

「ふん、まぁ、それもいいさ。」先に折れたのは魔族だ。大げさに肩をすくめてみせる。

自分でも確かに、いつまでも先延ばしにしても仕方がないと思ったらしい。

アギュもホッと力を抜いた。

「それにしても・・・あの子供が会いたかったのがお前だったとは、驚きさ。」

「ワタルでなくて、ホッとしたんだろ。」それはそうだがと。

「俺が今まで長年、してきたことはなんだったんだか。渡と巫女を合わせたら、電光石火、化学反応みたいに何かが起こるとずっと信じて・・・俺は合わせないようにしていたのにさ。なのにいざ出会ってみたら、巫女は渡には全く興味ないときたもんだ!」

「オコルってナニガ、オコルと思っていたんだ?フタリのデアイで」

それには魔物は答えない。「それにしても・・・」デモンバルグは空中でアギュに向き合う。

「巫女が会いたがったのはなぜ、おまえなのか。ヒカリ?教えて欲しいもんだ。」

「それをオレもシリタイ。」アギュの返事は心から出たもの。

デモンバルグの瞳にも同意の色が浮かぶのをアギュは見のがさない。

トヨの反応はデモンバルグにとっても、予想外だったのだ。

 

 

もちろん、予想がつかなかったのは彼らだけではない。

「なんでなんだ?。」

ユリの問いに渡も首をかしげ続けている。

阿牛家の和洋折衷、大正モダンな応接間の長椅子に横たえられた鈴木トヨはぐったりとしているが息遣いの乱れはない。満ち足りた不思議な笑みを浮かべて眠っているのだった。

しばらくすれば自然に意識も戻ると診断したタトラは水差しを取りに席を外した。

この朝からワーム使いたちの姿は見えない。パトロール中じゃとタトラは説明している。

(詳しいことはわからないが新しい神月の客である『切り貼り屋』とナグロスの姿もないことから、おそらくそちら絡みと思われた。)

「渡には目もくれなかった。」

繰り返すユリの駄目押しに渡は何度目か、肩を持ち上げてみせる。

「夢ではさ・・・僕らしい誰かはトヨくんに、というか、多分さっきの女の人に・・・何度も殺されているんだけどな。テレビを見ているみたいで実感はないけれど、いい気持ちはしないよね。他の夢を見たいのに見れないんだもの。なんか疲れるよ・・・」ため息が出る。「僕はこの子に会うのが怖かったんだ。あの夢が何かわかるかもしれない、自分の中で何かが違ってしまうんじゃないかって。だけど、何か・・・取り越し苦労だったね。」

ユリが寄り添い手を握る。「落ち込むな、渡。」いやいやと渡は首を振る。

「これからも・・・またあの夢、見続けるかなのかなって思って。」

「大丈夫だ、見たとしてもユリがついてる。」渡は真面目一徹なユリの顔を見て笑った。

「そう、ユリちゃんが側にいてくれると見ないで済むんだから、ほんと不思議だよね。」

規則正しく上下するトヨの胸。タトラが持ってきた毛布で包み込む。

「その夢とやらが、二人が呼応している証のようじゃの。」今回、渡の夢の話はユリからアギュへ、アギュからタトラたちに伝わっていた。古代の足がかりの一つとしての真剣な判断材料だ。

「僕の方だけかもしれないけどね。」自嘲気味に返す渡も嫌がってるわけではない。

『鈴木トヨが渡の運命を握っているのは確かなようじゃ・・・だが』

「あの巫女にとっては、そうでもなかったってことじゃろうか。」

渡が気がかりそうに子供を見守る位置に座った。

「それより、トヨくんが会いに来たのは・・・ひょっとしてアギュさんなのかな?。」

それはそれでユリにも大きな問題だった。

アギュはデモンバルグを追って行って姿が見えないまま。

遺伝子上の父親に過ぎないアギュレギオンだが、ユリなりに『父』だと思い、誇りを抱いている。この星の親子関係とは似て異なるものであるが・・・渡に引き続いてアギュまでこの子供に巻き込まれるのはごめんこうむりたかった。ユリは子供の閉じられた長い睫毛を睨みつける。

タトラもうーんと唸ったきり、ユリから視線を外した。困ったものじゃと思う。

「渡どの、ひょっとすると・・・もう夢は見ないかもしれないの。」