MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイらるフォー-35

2018-02-27 | オリジナル小説

 間に合った『切り貼り屋

 

その時、おかしなことが起こった。床につかんばかりだった、ホムンクルスの動きが止まる。と、見る間にホムンクルスは縮み始める。心がない、痛みがないホムンクルスが声をあげている。それは人工の肺に詰まった酸素が押しつぶされ、喉から吹き出す音だった。

ゴボゴボという音を最後にホムンクルスは裂け目に逆回しで吸い込まれて・・・

見えなくなった。そして何かが、重いものが外の廊下に落ち、転がるような音。

「コビト、コビト、いるか?大丈夫か?」

自分を呼ぶ、聞き覚えのある声だったがすぐには思い出せない。抱き合ったまま、事態がつかめない二人の前で、大きく裂けた扉が白く光り、一瞬で砕け散った。欠片も残さないで消えたのだ。これは次元兵器によるものだが、二人にはわからない。

入り口に立ったのは一人の男だ。禿頭で爬虫類めいた目、するりと背が細長い。

「・・・切り貼り屋!」コビトはびっくりして裕子にますます強くしがみついた。

「生きていたの?!」ガルバの潜入カプセルでレーダー上で消えた点をコビトは見ていた。それはコビトにずっと突き刺さっていた悲しみの棘だった。表立って悲しむことは叶わず、悲しんでもいいともあの時はよくわからなかったが・・・

「生きていたさぁ。」サメのような口元を笑いに歪めて『切り貼り屋』ことスキン・カッターは足取り軽く「俺を見くびんなよ。」と、手のひらでベースボールくらいの黒光りする玉を持ってポーズを決める。「ホムンクルスはこの中だ、ペチャンコさ。」

だが、後ろから「おい、時間がないんだぞ!」と急かす女の声がした。随分、偉そうな口調だとコビトは思う。しかも『切り貼り屋』が笑いながらも『参るよね』とでもいいたげに首をすくめて見せたので当惑した。

「今、このビルの上じゃ次元戦の真っ只中らしい。巻き込まれちゃいけないなと、いうわけで脱出する。迎えに来た。」

裕子は状況が飲み込めないままに、身動き一つ出来ないでいる。そんな裕子を見上げてコビトが必死で視線を捉えようとする。

「かあさん、かあさん大丈夫。大丈夫なんだよ。この人たちは助けに来てくれたんだ。」

ようやく捉えたが、裕子は固い表情で無言だ。手はコビトを抱いたまま、ショック状態だった。コビトは裕子の腕を背を優しくさする。ようやく裕子の目がコビトに向けられた。

「かあさん、一緒に行こう!・・・それでいいよね?」

『切り貼り屋』は頼もしく請け負う。

「もちろんさ。最初からそのつもりだ。」

その後ろで誰かが『つまらん!』と鼻を鳴らした。

「せっかく、カバナ人をとっちめてやろうと思ったのに。おかしな次元を作り出しおって。」

シドラ・シデンだったが、コビトにはまだその姿は見えない。

「バラキを動かしたら、このビルが丸ごと吹っ飛ぶから待機しろだとは。笑わせる。」

 

 

 

 

 

 

 

 次元戦の終わるとき

 

 

「美豆良!」マサミも叫んでいた。

テベレスの次元は何が起こったのかわからないうちに、瞬時に消失した。次元レーダーの座標から、画面で目視できたシャフトの空間からも。残されたのは床に倒れ伏した美豆良の姿。そして

「あの野郎!」店長が吠え、物見遊山で画面を眺めていた遊民たちの態度が一変した。全員が再び、武器を手にダクトに消えたのだ。

「あんなやばいものをここに残しやがって!」

マサミに見えたのは空間に浮かぶ、異次元の入り口めいた穴だけだ。ホムンクルスは跡形もない。「何なんだ?!」「あんなものここに残されたら、ここが吸い込まれちまう!」

説明もそこそこに店長は計器を操作する。「冗談じゃない、早く塞がないと。」

その時、一斉に次元の穴に光のような帯が掃射された。遊民たちが重力波を乗せたレーザーを用いて穴を攻撃し始めたのだ。穴が渦巻く。シャフトの床が美豆良ごと、空間に吸い寄せられる。マサミが悲鳴をあげた。「美豆良がっ!」「待てって!今、強力なのをお見舞いしてやるから。」のたうちながら意志を持つかのように穴は倒れて動かない男へと歪み伸び包み込んだ。

店長が座標の目標を設定するなり、即座に何かを作動させる。先ほどよりも強い熱戦がシャフト内に放出した。何の変哲も無い風俗ビルの中に、いつの間に仕掛けが施されていたのか。

ビルは凄まじく振動し、熱が最上階まで覆い尽くす。「どうなってるの?!」

「何があるかわからない世の中だからな。正規軍であれ、地上軍であれ、いつでも応戦できるようにしたのさ。転ばぬ先の杖が役に立つぜ!」「美豆良は?!」マサミはスクリーンに覆いかぶさるがその計器の熱さにたじろいた。

「美豆良はどうなるんだ?!」

「犠牲になるさ。ここが吹っ飛ぶよりはマシだ。」

なんてことを!マサミは店長に飛びかかっている。