MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルフォー-27

2018-02-08 | オリジナル小説

戦闘の始まり

 

 

「お前ら、どういうつもりだ!?」

現れた美豆良たちに店長は声を荒げている。

「どういうつもりって・・・連れてきましたよ。」テベレスがホムンクルスの口で笑う。

地球人の受付が不思議そうに美豆良を見た。

「あれっ、マサミちゃんは?一人なんて、今日は珍しいですね。」視線は後ろに続く屋敷やテベレスが連れた裕子に流れる。裕子の顔のアザや風態では到底、面接に来たとは思われない。

「後から来る。」手を伸ばし積み上がったおしぼりから抜き出し、後ろに差し出す。

「なんで俺までこんなとこに・・」屋敷政則はブツブツとつぶやくが美豆良にがっちりと肩を掴まれている。仕方なく土に汚れた手を拭いた。田町裕子は手をも触れない。

壁で隔てられた待合室から客が数人、読んでいた漫画から顔を上げてこちらを見ている。

店長は舌打ちをすると、受付カウンターから出て、出口に顎を向けた。

「そいつはターゲットじゃない。ただのハリボテじゃないか。なんでノコノコ連れてきたんだ?」声をひそめる。「まさか、やったのか?」

「ヘェェ、ハリボテだって、わかるんだな。さすが、宇宙人類様だ。」美豆良はそういうと帰るつもりはないという意思を示し事務所へと足を向けた。「始末はまだだ。ここに呼び出す。」

「美豆良?おい?」いつもの美豆良と違うのに気がついたのか。「どうしたんだ?」

ぞろぞろと向かう列を押しとどめようとするが、いかんせん体が小さい。

「やめろ、ここには客がいるんだ。ここで騒ぎになったらどうする?」

「死人が出るのが嫌なら、店の女の子と客は帰した方がいいですよ。」

ホムンクルスの口調に店長が細い目を見開く。

「お前かっ?美豆良?どう言う仕組みだ?」スーツの方を振り返る。「あいつは誰なんだ?」

本物の美豆良ですよ。テベレスはふふふと笑い店長を事務所に押す。

「ちょっとお知恵を借りようと思いましてね。私たちだけじゃ、荷が重い。」

「おびき出して、殺すだけだろうが。」店長は慌てて先にドアをくぐり声をひそめる。

「そのおびき出して殺すだけが簡単じゃあないんだよ。」

美豆良はまっすぐに奥の椅子に向かいずうずうしく腰掛けた。

「子供とホムンクルスは奪ったが、相手は出て来やしない。一筋縄じゃいかないな。」

「お仲間がいるなら集めてくれませんかね。さもないと・・・」

テベレスが店長の肩を押しながら、しれっと要求する。

「仲間だぁ?」薄い唇を舐めた。「ここで戦争でもするつもりかよ。」

「そろそろ相手も奪い返しにくるかもしれない。覚悟を決めるんだな。」

「お前らがあいつのホムンクルスとあいつの女をここに連れて来るからじゃないか!」

「すぐに例の子供も到着する。」美豆良がテベレスが腕を組んでいる田町裕子を指差す。

「この女をどこか、安全なところに閉じ込めておいてくれ。」

「なら、個室にでも入れとけよ!」

店長はそう噛みつくのがやっとだ。

 

雨が降り始めた。静かなしのつく雨だ。風俗ビルの明かりが滲み始める。

男はその明かりを見ながら正面に立っていた。

ビルの入り口では客がもめているようだ。営業は終わりだとか言っている。文句を言いながら帰る客たち。2度と来るか!という声が響き渡ったのが最後だ。

男が首を巡らすとコンクリの隠しの陰、通用口からは足早に女の子たちが出ては去っていく。

迎えの車なのか、次々と走り去る。呼ばれたタクシーが何台も通り過ぎる。

それらを確認するかのように男はゆっくりと道路を渡った。

自動扉を施錠しようとしていた店員がエントランスに入ってきた客に気がついた。

「悪いね、今日はもうしまいだってさ。明日、来てもらえますぅ?」

相手は歩みを止めず、半開きの扉に手をかけて中に入ってこようとした。

「ちょっと、お客さん!聞いてなかったのかよ、今日はもう閉店だって・・・!」

客を非難する声は途中で途絶えた。まだ若い店員は自分の腹に開いた大きな穴を見つめ(痛みもなく、理解することもなく)死んだ。血は流れなかった。男はその体をまたいで中へと進む。

突如、背後のシャッターが閉まり始める。だが、目の前の受付にも待合室にも人影はない。

正面に設置された監視カメラのレンズだけが光っている。

『さぁ、私が来たぞ。確認したな、さてどうする?』

見上げた瞬間、店内の明かりが瞬いて消える。それを待つかのようにホムンクルスの体が開き展開を開始する。確認するがいい。肉体の中心に開いた穴も見えているだろう。

次々に出てくる地球人の形をしたホムンクルス。11体の体がフロアに並ぶ。暗がりで見えないが、全て同じ顔、裕子の内縁の夫がまとっていたのと同じ服装だ。

そのどさくさに紛れて最初に乗っていたホムンクルスの背後からガルバの体は滑出し、薄い次元にすぐさま紛れた。

「生あるものを滅せよ。」ガルバが声ではなく命じる。「次元から狩り出せ。」

 

「おうおう!出るわ出るわ。」テベレスが興奮している。

「それにしてもよくちゃんと撮れているな。」

「俺らのカメラは電気は関係ねからなぇ。」ついでに光も。

覚悟を決めたのか店長は落ち着いている。最上階の部屋の天井のむき出しのダクトに、このビルに潜んでいた遊民たちが次々と消えていく。それぞれが武器を持っているようだった。

「カバナのホムンクルスは人間と似ても似つかないと聞いていたんだがな。連邦でも人型は旧式だ。この星に合わせてわざわざ作ったのか、ご苦労なこったな。それによくこの星の人間の情報を持ってたもんだ、カバナリオンが。おそらく量産化はしてないと見た、これで全部だろう。後は性能が最新式なのかが鍵だな。」

ホムンクルスが湧け知り顔に「頭を一撃で潰すんです、そしたら死にますよ。」

「あのよ、最新式だったら簡単じゃないぞ。外から内に重力で一気に崩さないと、な。分裂した組織が増殖するなんてのもある。」

「そこまで新しいものをここに持ち込むのは合理的でない。データも重くなる。非公式な潜入だと言ってなかったか。」

美豆良は一斉に動き出したホムンクルス群の背後を見つめている。

「あれは目くらましだ。カバナ人はダッシュ空間に潜伏しているはずだ。目的は」

テベレスの笑みが深くなるのを横目で見る。

「もはや奪還ではない。俺たちと遊民を排除するつもりだろう。お前の大好きな戦いだ、テベレス。」