MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイらるフォー-26

2018-02-04 | オリジナル小説

ペルセウスとの邂逅

 

 

 

持ち上がった次元の壁が破れ、現れたのは発光体だった。白銀の光。

とっさにアギュはデモンとガンダルファの前に立つ。

 

「なんだ?天使か?」

目を細めたデモンはすぐにそれほどでもないと止めた。生ぬるい光さね。

「天使ならお前の領分だろがっ!?」ガンダルファの声は困惑と警戒から語気が荒い。

(ガンちゃん、これ天使じゃないにょ!ドラコ、未知のって言ったにょ!)

「だからぁ、未知の天使!」

「そんなのいないさ。」俺の知らない天使は潜りなどと、デモン。

 

その間、光もアギュを認知したようだ・・・というか、まっすぐアギュを目指して出現した。

アギュと光は距離を取ったまま、対峙して舞い上がる。

 

(アギュに用があるみたいにょ)ほーほーとデモンバルグ。じゃ、俺は帰っていいだろさとガンダルファに言うが捕まる。お前に好奇心はないのか、顛末を見てからにしろよ、と。いざとなったら悪魔だって少しは役に立つ・・・戦えるかもと甘い期待が湧く。

 

白銀が自分を目指してきたことはなんとなくアギュにも伝わっていた。そして臨界した肌感覚が自分達オリオン人より上位の知的生命体だと告げる。敵意は微塵も感じない、あるとすれば・・・好奇心?[アナタはダレですか?]アギュは言葉でなく問いかける。

ペルセウスと帰ってきた。言葉ではない。「ペルセウス人?!」アギュは驚き、困惑する。

 

ペルセウスって何?誰?と問うデモンにガンダルファが小声で説明。

(お隣さんにょ!ガンちゃんより、すっごく頭のいいお隣さんにょ!)うるさいよ、ドラコ。

 

臨界した生命の存在が確認されたからきた

・・・というような内容をアギュは受信する。

言葉ではない、思考を塊で受け取る感じと言えばいいか。

「タシカにオレはリンカイしている・・・ウレシクはないが。」

あなたたち、二人 とペルセウス人はいともたやすく見破る。歓迎すると。

[まさか・・・オレたちにペルセウスに来いと?!・・そう言う意味なのか?]

そういう意味でもいい その気があれば 相手は柔らかく笑ったようだ。

 

おい、心で会話すんな、わかんないぞとしたから野次。

 

[それは、どういう?・・・それに・・・アンタたちもリンカイしているのか?]

肯定。次の段階 物質世界を超えた次の世界 それが帰ってきた答えだ。

「非物質世界・・」アギュはつぶやく。「進化の行き着く先ってことなのか?」

進化とは違う 物質界は物質界 非物質界は非物質界 優劣 ない。

「ユウレツはない・・・?。どういうこと、言ってるイミ、ワカンねぇ。」

今は 理解できない と相手。 理解ではなく 受け入れるか  なのだ。

あなたたち二人 いる 内なるもう一人 アギュのあれこれの思考は凍りつき止まった。

[オマエ・・・オレの中のユウリがわかるのか?]

あなたをつなぎとめる もう一人 意識が封印されている アギュは目をみ開く 

目覚めないのは あなた 目覚めさせない

「そんなはずあるか!」思わず叫んでいる。オレは・・・オレはいつだって!願っていた!

いや、しかし。恐れていなかったか?自分が殺した、見捨てたという事実。

違う違う!と418があらがう。アギュは助けようとした!間に合わなかっただけだと。

目覚めたユウリが何を思い、オレはユルサレルのか。オレは怖い、コワカッタ!

アギュの光は急速に暗くなる。

そのために胸のあたりにある、ユウリの魂、オレンジの光が陽光のように激しく煌めいた。

 

アギュ?どうしたんだ?ガンダルファが心配する。(反省モードにょ)

 

 

もう一人 願っていた 慰めるかのように。

あなたの恐れ より その願い 勝るとき 目覚める 

アギュは恨みがましく相手を見た。慰めに感謝する気分にはなれない。

「そんなことを・・・オレにワザワザ言うために、キタのか。」

怒りが再びアギュを明るくしていく。オレンジは再び蒼に埋没した。

相手はそのことには気づかないのだろうか、全く頓着しなようだった。

ペルセウスからはただ、明るい波動だけが届き続ける。

・・・・気配 予感 予測 確認  探してたものを見出したと言う、安堵感。

[まさか、これまでの臨界進化体たちにも・・・接触したのですか?]

寡黙したアギュに代わり、聞きたいことが山ほどあるらしい418が前面に出てきた。 

[教えてください、アギュだけではない。オリオン連邦ではこれまでに他に6人の臨界した人類が確認されているのです。彼らは銀河系の中心へ行ってしまったと信じられているんですが。本当にそうなのですか?もしかすると、このように彼らの前にも姿を現したのじゃないのですか?彼らはあなたたちに導かれ、非物質世界に行ったのでは?そして、今もあなた方と・・・?]

オリオン腕のこと わからない ペルセウスも まだ不完全

「さぞかし、オレを発見してマンゾクしたんだろうな?!それにオレはホカのヤツラなんて、どうでもいいんだっ!」アギュは418に当たった。正直、ペルセウスを持て余し始めている。ただでさえ、ペルセウスの意識の手触りは次元に満ちる量子のように、起伏が少なくとらえどころがない。それをいちいち言葉に変換してから理解することはすごく疲弊する作業だった。

「オレたちのマエに現れたのはソレダケじゃないんだろ!言いたいコトがあるなら、さっさとイエ!」

 

あいつなんか不機嫌じゃないか?デモンの指摘にガンダフファは気が気ではない。

あいつの言ってることがわかれば・・・(言葉じゃないにょ。心にょ!心を研ぎ澄ますにょ!)

じゃあ、ドラコにはわかってるのかよ。

(わかんないにょ!でもきっと、同胞としてアギュを歓迎してるのにょ)

同胞?おいおい、アギュをスカウトすんじゃねえぞ。息巻くガンダルファ。デモンは面白がる。

 

ペルセウス人は外野を意識する様子もなく、無造作に意識を投げる。

 この星のはるか 古代 一人の女 こちらに来た 

「オンナ?リンカイした?」 違う 「ナマミのカラダでか?」 

肯定 物質界に生きる 巫女

「ミコ?」

 

巫女という言葉にこれまで静観していたデモンバルグは嫌な予感がする。

『まさか?』

 

巫女の気配 ペルセウス 侵入した男から した だから 助けた 

『あっ、ひょっとして、あれじゃないですか?』と418。

「ああ、カバナからチキュウにシンニュウしようとして・・・ミセシメにハカイされたオトコか。」ここにいる とペルセウス人が自らを示した。 共に

船が破壊されるその1秒の数千分の1の時間、ペルセウスが男の非物質部分である精神流体だけを彼らの側に移動させたのだ。体が失われるのなら男の精神をペルセウスの世界で生かそうと思ったのだと。カバナは肉体に量子次元を仕掛けるが、ペルセウスはいわば魂の部分にそれを仕掛けるのだ。だから、男の脳をいくら調べようと無駄なのだ。男の魂こそがペルセウス人と結ばれていたのだから。そういったことが一瞬の映像と共にアギュに伝わった。

肉体 探している  

物質界で肉体が滅びれば、魂は不安定になり意識はやがて四散する。船が破壊されてもそうならないことでペルセウスは『切り貼り屋』の肉体が、爆破で散り散りにならず、どこかに保管されていると確信したらしい。そしてそんなことが可能である存在として自分たちと同類の存在を予見し探していたのか。

「そのオトコのカラダなら・・・ワタシがホカンしている・・固有の私的次元にだ」

数千分の1からわずかに遅れてアギュが男の肉体を助け出したということらしい。

「どうすれば、いいのですか?」

現実 男 戻る

デラの次元から出さなくてはならないということのようだ。「わかった。」

彼と巫女 関わり わかった とペルセウス。 循環する魂 同一

「循環する魂・・・魂魄の魂か。確か、それは神城麗子が持っていたものだ・・・」

今は鈴木トヨの中。その魂の元々の持ち主がその巫女なのだろうか。

「循環する魂とはなんだ?古代人類の残したものなんだな?」

ペルセウス 義務 果たす と相手は笑う。

「それがあなたの目的・・・? では、目的は果たしたわけですね。」

418の言葉は稀有の存在との別れを予想し少し名残惜しげだ。

『いや、それだけでスムはずはない。』アギュは構える。

新たな興味 面白い オリオンの顛末 見届ける

「どういうことだ?」

見届ける 近くで

そう宣言すると一方的に、ペルセウスはまるで非物質世界に吸引されたかのように高速逆回しで消えてしまった。

あっという間。引きずられた空間は一点に巻き取られ、やがてゆっくりと元へと戻る。その余韻に場はしばらく乱れ・・・やがて波は静まる。それは、実はアギュらがいる空間のすぐ隣に、物質界と非物質界を隔てる厚い重い次元の壁が存在することを実感させた。

その粒子の不在を表す隔たりをアギュは思う。全てが押しつぶされ粉々にひき潰された先。

アギュですら自分をギリギリに変換してたどり着く場所に自在に出入りするペルセウス。

ついさっき、デモンバルグを捕まえた時の奇妙な感覚をアギュがしみじみと反芻したのはこの時だ。もしかして、自分は臨界進化の最終点に達したのだろうか?

ペルセウスと同じように、先ほど、そこを自分が軽々と侵食したとは信じられない。

これはデモンバルグのおかげと言ってもいいのだろうか・・・?

 

 

「あっ、逃げた!」ガンダルファが叫ぶ。

アギュは手の中の呼吸するものを体内に移しながら、ゆっくりとガンダルファがいる空間へと下降する。

「アギュ、デモンバルグが逃げやがった。」

(ん~なんか、巫女って言葉が嫌だったみたいにゃ)

「やはり・・・ナニカ、隠しごとにカンケイしてるんだな。」

 

 

巫女、巫女の魂。神城麗子・・・その娘、ユウリ・・・トヨ。

はるか昔、臨界しない身で物質界の境界を超えたという一人の巫女がいた。

にわかには信じられない。本当にいたのか。418が囁く。

『だけども、そんな嘘をつく理由がペルセウスにはありません。だから、本当では』

アギュはデモンバルグが巫女の魂の呪縛を解く呪文を軽々と口にしたことを思い出している。

デモンバルグが古代の人類と深く関係しているのは確かなのだ・・・

そのことがペルセウスとの予想外の出会いへと導いたというのか。

 

ペルセウス人はかつてオリオン人との交流を拒み、侵入を阻んだ。

カバナ人とも一部の貴族としか交流はしなかった。

そんなペルセウスが遊民の男の中に巫女の気配を感じ取り、『果ての地球』まで付いて来たという。そして、アギュレギオンを見出し、自らを晒した。

どうやら、アギュの臨界が整ったのがきっかけなのか。予感、予見していたとは。

そしてもしも、ペルセウス人たちが臨界したのが、確かなのならば。

自分も彼らと同様・・・ペルセウスのいう非物質世界に出入りできるようになる。

つまり、オリオン連邦から、いつでも逃亡できるようになったということか。

思いはグルグルと回り続ける。

あまりに唐突で、心が追いつかない。混乱し困惑するだけだ。

アギュにも収集がつきそうもない。

 

・・・助けた遊民の男はどの巫女と関係していたのだろう。

急ぎ、男を戻し、聞かねばなるまい。

 

 

「アギュ」ガンダルファは心配そうだ。

「あいつに誘われたんじゃないのか? 行ってしまうのか?」

アギュはまじまじとガンダルファを、成長を拒み自分に引きこもっていた頃からの唯一の友と言える男を見た。

「俺は、お前が望むなら・・・止めない。ただ、ちょっと寂しいだけだ。」

ガンダルファの笑みは本当に寂しそうだ。アギュは・・・

(ドラコも寂しいにょ!)

「まさか・・・イクとしても。まだ・・・サキのコトだ。」それだけやっと言う。

「ホウコクしてイイゾ・・・イリト・ヴェガに。」

「俺がか?」ガンダルファは乱暴にドラコを捕まえ、背にまたがる。

「そんな中枢の高官さまにか?お偉すぎて今の俺には近寄るのも恐れ多いよ。」

(ドラコは誰にも言わないにょ!)

デモンバルグから漏れないとも限らないが・・

(悪魔も言わないと思うにょ。なんか秘密、隠してるにょ)

「それに俺は言葉が全くわからなかったんだ。ペルセウス?、なんだそれ!知るか!」

勢い良くガンダルファは笑いでかき消した。

 

一人残されたアギュレギオンは自分を一人にしてくれた彼らに深く感謝した。

 

『イリト・デラに至急、会わなくては』

「でも、今は」

418が言う。

「少し、休みましょう。」

 

 

 

(ガンちゃんはアギュが逃亡しちゃうって思ってるにょ)

「まあな。どうせ、防げないし。」(それでいいにょ?)

ガンダルファと1匹は神月に向かう、次元変換の中途で動きを止める。

「だって、ドラコ・・・おまえ、アギュとずっとなんかしてただろ?」

(ガンちゃん、気がついて、いや、違うにょ。何もしてないにょ~ごにょごにょ・・・)

「いいって。怒ってるわけじゃないよ。」ガンダルファの声は息に混ざる。

「アギュの好きにしてやってくれよ。あいつは・・あいつだって色々、辛いことあったし。今もきっとあんだろうから。」(ガンちゃん、男前にょ!)

「ただし。これこそ、ほんと内緒の内緒だぞ。俺とドラコの間の。」

(ガンちゃんとドラコは生まれながらの契約同盟なのにょ!)

ガンダルファの意識は神月へ。

「まだ、シドラは関心ないからいいけど・・・タトラはダメだ。」

(イリトにバレるにょ・・・天使はどうにょ)

「問題外」

 

 

天使こと鴉は神月の阿牛家にいる。その2階のリビングルーム。

タトラと向かい合っての食後のティータイムがここ最近、恒例となりつつある。

「みんな、どこに行ったんですか?」ソファに沈み込む天使は不満そうだった。

「仕事だの。」イリト・ヴェガのというのもあるが、今回はアギュの趣味が強い仕事だ、とタトラは認識している。イリトはこの星に入れることを自らも、容認せざるを得なかったカバナ人が気に入らない。それはアギュもだろう。カバナの連れを助けたりしている。アギュは彼が自滅すればせいせいするだろう。ついでに不法遊民も減らせればイリトも万々歳といったところか。

ただし、これは公にはできない。連邦内のイリトと対立する勢力を増強するだけだからだ。

イリトが排除されたら、アギュは召喚され、当然それを拒み、逃亡するに決まっている。

最悪、この星は和平に差し出されるか、戦場になるか。

そういった話は今の所、ここではアギュとタトラしか知らない。ひょっとしたらイリトのクローン体であるイリト・デラは知ってるかもしれないが。

鴉は現在、渡の家にいる阿牛ユリが作ったというクッキーを口にする。少し、硬い。

「輸入商のお仕事なら、私だって社員なんだから手伝えるんですよ。声がかからないってことは、なんかわからない宇宙のお仕事なんでしょうね。私には詳細が教えられない・・・」

同じ門外漢の神恭一郎こと、デモンバルグときたら呑気にデートに励んでるときた。

自分だけのけ者のようで腹立たしい。

「まぁ、そういうわけじゃ。天使の出番はないようじゃの。」

そう言いながらタトラは先ほど感じた違和感を反芻している。全く初めてのおかしな感覚だ。

衛星にさりげなく問い合わせれば、異常はないというのだが。間違いない、この星全体の次元が幾重にも覆われた空間が少しだけ動いた。かすかな震動だが。心に留めておくに越したことはないだろう。

「そういう、あなたは皆さんと行かないんですか。」

投げやりで自堕落になった天使など見れたものではなかった。

「わしは、お前さんの監視だの。」

おやおや。「じゃ、ゲームでもします?」