MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルフォー-32

2018-02-22 | オリジナル小説

コビトの決意

 

「あなたの名前を聞かせて。」裕子が問うた。

「・・・コビト」女の薄い体に密着すると長いあいだ、この星に来てからの・・・いや、この世界に作り出された時からの緊張が消えていくようだった。

「変な名前・・だよね。」少し恥ずかしいと思う。この世界では、コビト、小人。確かに自分はまだ小さいけれど。

「そんなことない。」即座の否定が心地よい。「呼びやすい、かわいい名前よ。」

しばらく二人は無言で抱き合っていた。それぞれの思い、それぞれの考えがそうさせたのだ。

「あの・・」「コビト、」発した声がダブり、二人は声を潜めて笑いあう。懐中電灯は手術台の上でマットレスを照らしている。

「私、ハヤトを殺した、ううん、いいの。黙認したんだもの、殺したも一緒。」それでもコビトは首を振り続ける。「罰を受けなきゃと、思う。」「なんで?」「そうしないと・・・前に進めない気がするの。」「そうか・・・」複雑な思いをこらえながらも裕子の胸から離れたくなかった。「じゃぁ、お別れだね。僕は・・・ドギーバッグに帰るから。」おそらく、逃れられない。

「それは、どこ?故郷?あなたたちの・・・星?あなたたちの会話、よく覚えてないけれど、確か・・・あなたもそこから来たのよね?」

盛り上がってきた涙はバスローブに吸い込まれていく。「違う、僕に故郷なんてない。」

「お父さんとか、お母さんは?いるんでしょ?」

「いないよ、僕は。どこの誰でもない、作られたものだから。」

静かに涙を流しながらもコビトも声は落ち着いている。彼は裕子にしっかりと説明ができた。

それが真実だから。哀しいが恥じることではない、『切り貼り屋』ならそう言うだろう。

ただし「そんな・・・」裕子は絶句してしまった。「そんな、ひどい。ひどいことを・・・!

あなたはまだ・・・まだこんなに小さいのに。」コビトだから、と笑う余裕がある、不思議だ。

いろいろなことがあった。『ここ』にきて『ハハ』に出会い、トヨに出会い。ピンチも絶望も

数々、味わった・・・だから、かな。こういうのやけくそ?やけっぱち?・・・いや、そうだ、肝が据わったっていうのかもしれない。今度は裕子が泣いていた。むせび泣いていた。声を殺して。自分のために裕子が泣くのは辛かった。「大丈夫、平気だから。泣かないで・・・」

バタン!と上の階との境のドアが閉まる音がした。裕子とコビトは抱き合ったまま、ビクンと跳ね上がっている。「マサミさん?」とっさにそう思うが、ガタン、バタンと体を引きずるような音が階段を降りてくる。(違う!)コビトは緊張する。(マサミさんじゃない!)この部屋は階段から降りてすぐだ。コビトは裕子の胸から転がるように落ち、(逆に音で気づかれるかもしれないけど)跳ねるようにドアの鍵に飛びついた。錠が降りるのとノブが激しく揺すられるのとほぼ同時だ。「コビト!」裕子が怯えてコビトを呼ぶ。コビトは閂もかけ目を離さず、後ずさりする。その間もドアは揺すられ、ノブは回され続けている。ドアは手術室を意識して金属製で窓がない。頑丈といえば、頑丈だが。「誰かしら?このお店の人・・・?」「違う。」コビトは本能で答える。マサミたちではない、警察や店のものなら鍵を使えばいいだけだ。こんな風に言葉も発せず、ただただ力技でくることはない。敵だ。

今度は体当たりするようなドンドンという音が加わる。子供は懐中電灯を拾い上げ、壁にぶら下がる数々の道具に必死で走らせる。武器を、何か武器になるものを。

『ハハ』を、裕子を守らなければ。