MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

GBゼロ-12

2007-10-03 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-12  イリト・ヴェガ-2



情報ソースとして有望なのは、若い見習い達がいる領域だと僕は考えた。生徒に匹敵するぐらい特待生やその他有資格者がいたからね。
僕は授業をさぼり堂々とそこへ乗り込んだ。
聞き込み開始から2時間、怪訝な教師と目が合う度にケフェウス先生の部屋はどこかと尋ねるしかなかったのが唯一の不安材料だったけど。でもなぜか、僕は特別クラスの生徒だからなのか、別に不信感はもたれなかったように思う。
(だって担任教師はさっき、ユウリと反対方向に消えて行ったばかりだもの。この領域には絶対、いるはずがないことは承知の上だし。)
年若い教師はケフェウスの名を出すと、はっと緊張し、かかわり合いになるのを嫌がるかのように慌てて奥のフロアを指さしてそっちに僕を押しやるのだ。これで奴の人望のなさがわかろうと言うものだろ?彼はあきらかに、教師仲間とはまったく違う立場、彼等に恐れられる存在なのだと実感できたね。
僕はそんなやつと渡り合ってるだろう、ユウリの無事を心から祈った。
そしてもしも、後日僕が捜していたとか気を利かしたモニターの前の誰かがちくった場合に備えて僕は適当なテキストデータを持っていった。実際、具体的な質問には僕はことかかなかったしね。

「くだらない質問をして逆切れされたらどうしたのだ?」
「僕、アッホで~す!」と押し通したさ。
(目に浮かぶようだにゃ)
「うむ。リアリティがあるな。」

とにかく。
なかなか、カプートを知る人には出会えなかった。気が付いたら僕は教官達がいるエリア近くまで入り込んでしまっていた。そこで僕はケフェウスの部屋らしき辺りで金色の瞳のあの人を目撃したんだ。

「イリト・ヴェガだな。」
「その時点では、イリトらしき人だよ。」

その人は夢で見たよりも、少しだけ?、いやもう少しというか、ふっくらして、えーい!つまり、太ってたんで僕は混乱してしまったんだ。しかも、今度のスーツときたら全身金色で、しかも同色の帽子をちょこんと頭に乗せていた。歩く金剛仏のような強烈な視覚刺激に目が点になる。どうやら、僕は彼女を長いことマジマジと凝視してしまったらしかった。彼女はすぐに、僕に近づいて来た。
「あらあなた、私を知ってるのかしら?」かわいらしく小首をかしげる。金色の瞳は泉のよう。艶然と微笑む様は、夢で見た姿の威厳のある面影が感じられた。しかしこんなところで、供も連れずに一人でフラフラしてる所長に会うとは思ってなかった。本物だよね?、と僕は確信が持てなくなっていた。
「いえ、似ていたもんで。あの、知ってる人に。」さらに問い掛けるようなまなざし。
「知ってるというか・・夢で見たんだけど。」慌てて、余計なことまで言ってしまう。
彼女は僕より背が低いので視線をそらすのは難しかった。
「ふ~ん?」イリト似の夫人は僕をジロジロと眺め回した。居心地が悪いったらない。
「なかなか、いかすわね。あなた、セクシーじゃない?。」
うわ!そんなこと言う、ニュートロンはとても珍しいのだ。
「あなたの髪とその肌。ほら、あの子に似てるわね、誰だっけ?なんて言ったかしら?」
「・・シドラ・シデン?」
「そう!そのシドラよ。あの子もステキよね~」うっとりとつぶやく。お前はただのおばちゃんかよ!その顔も今はあまり仮面ぽくない。気持ちの良い笑いじわが寄り、そこはかとなく年齢を感じさせた。
そして怒濤の攻撃が始まったんだ。
「あなた、シドラを知ってるのね!あの子も強面で不器用だけど、良い子よね~かわいい子はみんな好きよー!って、そういうことはさ、あなたもひょっとしてジュラの出身なのね?」
僕、うなづく。
「そう~いい所よね!ジュラって!空気も濃いしおいしいし。私、昔行ったことあるのよ?パウチとかいう民族料理食べたわよ。あれ塩水で捏ねるのね?やってみたけど、なかなか思うようにできないものね。でも筋がいいって言われたのよ、本当よ。なんとかって動物の肉と草とかを挟むの。おいしかったわー、なんて言うの?あの独特の香草。くせがあるけど、私はやみつきだわ。みんなダメだとか言う奴らが多かったけどね。みんな、胃腸が弱いのよ。人工フードばかり食べてるからよね。最初、ここに赴任した時はうれしかったわ。ここじゃ栽培してるじゃないの!でも風味はなんでも落ちてしまうのは仕方ないんだわ。自分で一手間かけると全然、違うんだけどねー。でも、宇宙ぐらしが長いとだめね。料理なんてこの10年この方、やってないわよ。」
「はあ」
「ジュラには3つアースがあるじゃないの?あなたはどこ?シドラは確か、オサのアースよね。一番、都会っていうのかしら?宇宙港もあるし、軍隊のベースもあるでしょ?
広々してて、それでいてごみごみしててほど良くて快適だったわ。あなたは、ラド?あらあら、そうなの?あそこはなんと言っても、そうね、どうしたって、ねえ?やっぱし一番の観光の目玉よね?初代の王様がワームと最初に契約した祭壇があるじゃない?私、そこも行ったのよ。お墓も案内してもらったし。あの地下のね。すごいわねー迫力。地下の世界が表面積並みに広がっているのよね?水脈は全部、下を走ってるんでしょ?洞窟の壁の絵も拝見したわよ。石を泉に投げるってのはどうなのかしらね。ほんとに願いが叶うのかしらね。迷信だっていうけど、興味深いわ。迷信はなんらかの意味があるのよ、きっと。そうよ、あの壁画だって!あれは宇宙の創世を表わすんでしょ?結構、科学的に馬鹿にできない意味があるかもねー。神を陽子とか中性子に置き換えてみたりしてさ。ほんと時間があったら、ああいう考古学的研究とかにもっと時間を割きたかったわ。でも、ほら、連邦のお仕事で行ったから、一応ね、時間がなかったのよ。残念だわ。観光はしたけどたいしたことできなかったし、それが心残りね。でも、ラドは星は小さいけど良い所だわよね。草原と岩山と森と平原と、あと水もあったかしら?海はなかったわよね?一日で宇宙船でグルッと回れるし。村の人もみんないい人で親切でやさしいし。いらないっていうのに山のようにご馳走は集まるし、お土産もくれるし。もう、どうやって持って帰ろうとか思っちゃったわよ。持ち出し禁止品とか入ってるじゃない?結局、オサの運輸局の人にゆずるしかなかったわ。なんて気前のいい御方だ、なんて言われたって、ねえ?けして気前がいい訳じゃないわけだから、心苦しかったこと!でもーラドはねえーほんと、機械音がなくて自然の音だけでとても静かだし癒されたわ。人が少ないから考え事や研究にピッタリ。新鮮だったわよ、印象的で得難い体験だったわ。素朴っていうの?なんていうかしら?」
「田舎」僕はやっと口を挟んだ。
「あら、田舎を馬鹿にするもんじやないわ!」馬鹿にしてませんって。
「田舎だからって恥じ入ることはないのよ。」だから別に恥じてないって!。
金色のおばちゃんはなおもまくしたてる。
「ラドは古代から、あまり変ってないし、その分、それだけキレイなんだから!私、ああいう世界が今も本当に保存されててほんと良かったなーって思うのよって、あなた!」
突然、おばちゃんが突拍子もない声をあげるもんだから、僕も僕の後ろで高見の見物をしていたドラコも飛び上がった。
「あ、あなたも、ドラゴン・ボーイなんじゃないの?あらあら、そうだ!そうだわ!私としたことが、うっかりしてたわ!」
金色の瞳は僕の背後をつかの間、じっと見つめていた。まさか、この人?
「だって、私ジュラにドラゴン・ボーイの研究に行ったんだもの!その成果で今、ここにいるって所もあるのにねえ?まあ、それはいいとして、あなたもワーム持ちなんでしょ?まちがいないわ!噂になってたばかりよね?卵男よ!あなたがその噂の当人なんだわ!きっと、そうよ!それなのに、まったくねえ、うっかりも程があるわね!シドラ・シデンとお友達なんだもの、ねえ?」
卵男って・・それなんですか?僕のキャッチフレーズなの?いつ、誰が付けたの?あんたじゃないの?、おいおい。思考が追いつかないですよ、もう。
その時、当のシドラが遠くの角を曲がって一直線に歩いて来るのがイリト似のおばちゃんの背景に見えた。
すると、何故か、後ろに目があるわけはないのだが、おばちゃんは心持ち慌てたように見えた。
「私、そろそろ帰らなきゃ!いけない、忘れてたわ!秘書に怒られちゃう!」
おばちゃんは顔の表情をきっと引き締めた。再び仮面のようになる。
「私、イリト・ヴェガよ。あなたは?」
「ガンダルファ・・」
「そう、ガンダルファ、又ね!」イリトはせわしなく手を振るとカタカタと足音を急がせて離れて行った。僕、呆然。本物かよー。

その時、丁度よくシドラが到着した。
「ユウリはどこだ?」
「ええっ?」開口一番の問いに戸惑う。今の金色おばはんが目に入らなかったのだろうか?

「あの時、本当はイリトに気が付いていたんだろ?」
「ああ。イリトはそもそも我に会いに来ていたのだ。」
ちぇ、やっぱり。おかしいと思った。
「イリト・ヴェガは意外に食えない女だぞ。」
それはもう、今は肝に命じてわかってますって。
「ああ見えても次元感知能力に優れた進化体なのだ、イリトは。」
しかも、ワームが見える。
「そうだ。特殊な人間だ。所長に抜擢されるだけのことはある。」
いつかピクニックで僕らが見たイリトの姿は彼女が僕らに見せていた姿なんだろう?
「そうだ。カプートと一緒だな。」ちぇ、そうだと思ったよ。
「おそらく、一番、若くて容姿に自信のある頃のな。」
「イリトは我々の夢に干渉できることを示してアギュを牽制しようとした。実物に会ったことがあるのは我とアギュぐらいだったからな。」
でも、アギュには利かなかったってわけか・・。
(ドラコはあのおばちゃん好きにゃ。いつもなんかくれるにゃ。)
面と向かっておばちゃんって呼べるの、言っとくけどお前だけだからな。
「おぬしが教えてると思われてるぞ。」うひゃ~まいった。

「ユウリがいない!」シドラは繰り返した。
「ソリュートの練習じゃないの?」僕はとぼけた。
「アホンダラ!」いきなりの罵倒。あんまりじゃないの?
「どこに行ったというんだ!惑星にはアギュしか渡ってない!」
「確かに・・クラスで別れた時、ユウリはソリュートの実験があるって言ってたよ。」
僕は用心深く答えた。カプートに会いにいったのかもなんて言えるわけない。
「うさんくさい実験なんぞ、関わらせるべきではないのだ!おかしいと思わなかったのか?」
「知らないよ!」
「我がいない時は、おぬしが見てないとダメじゃないか!」
あのーそんな取り決めしましたっけ?。僕は少しカチンときた。
「仕方ないだろ!僕はソリュートは門外漢だし、ケフェウス教官がジキジキに迎えにきたんだもん。止められないよ!」
「なんだって!」シドラは吠える。
「それが、どんな危険なことかわかってるのか?バカタレ!」
僕は急激に不安になる。
「ソリュートの実験って・・危険なの?」
「ギリギリまで消耗させられる!毎回、瀕死だ!」
全身から汗が出た。僕はとんでもないことをさせてしまったのか?。
「でも、惑星じゃないなら、スクールのどこかにいるはずじゃないの?」
シドラ・シデンは背後を探るようにした。「バラキ!」
考え込んだ。「・・わからないのか?おぬしにも気配を消すなんて・・」
ブツブツつぶやく。
「所長の掴めない方法で惑星に渡ったのか?あそこにはワームが入れない部屋がいくつもあるが・・所長の許可なく使用はできないはず!そこまでする実験なのか?」
僕も不安になる。ケフェウスがユウリにさせてる実験って?まじ、核融合?そりゃ、最高機密研究所の所長がよく思うわけない。シドラが大声を出す。
「そうか!あそこだ!」彼女は文字通り飛び上がった、そして駆け出す。
僕も慌てて、後を追いかける。

ドラコにはああいうスパイ機能は付いてないの?
(うにゃ~それを言われるとつらいにょ)
「バラキをスパイとは穏やかではないな。」
はい、シドラさん、バラキさん、すみません。口が滑りました。ごめんなさい。
でも、さあー、ほんと便利じゃん?
(ドラコはまだ、ガンちんから離れ過ぎるとお腹が減っちゃうのにょ)
げっ!やっぱり、なんか吸ってたんかい?
「大したエネルギーではあるまいに。」
(ママミルクにょ)うわぁ!(おっぱいくれにょ~!)げげっ!

シドラの目指した方向、そしてワームの入れない場所と言ったらもう、決まっている。二重三重の目に見えない仕掛けが取り巻いているアギュ・ルームだ。
「アギュはまだ帰らないの?」後ろを走りながら僕は叫んだ。
「アギュはまだ惑星にいる!」シドラが肩越しに叫び返す。
「今日、一日は帰れないはずだ!」
シドラの腕一振りで教師一人が吹っ飛び、誰かが足の下に巻き込まれた。それを踏みつけて進む。こりゃ、死人が出ないのが不思議。特別クラスでなかったら、大叱責必然だ。

「あの頃、アギュは定期的に研究所に連れて行かれていた。点検ってわけだ。」

そんなことはちっとも知らなかった。アギュのスケジュールなんて興味ないし。
そんなこと行ってる間に、シドラ・シデンは再加速。早い、早い。付いて行くのがやっとだ。スクールの廊下は逃げ惑う生徒達で溢れたが、知ったこっちゃない。僕にとっては小さいニュートロン達を踏まないように、突き飛ばさないように走るのは至難の技だった。
シドラはまっすぐにアギュ・ルームの扉に飛びかかった。キック一発、二発。最初の扉が砕け散った!安普請だと聞いてはいたが、さすが馬鹿力の勝利。
僕も追いついて遅れじと、猛アタック!次の扉に二人で代わり番こに体当たり!。ここは特殊なんでワームの力は借りられない。(勿論、学校と戦争をするつもりなら借りれるが。)シドラの馬鹿力だけが頼りだ。

「馬鹿というのは適切な表現ではないと思うが。悪意を感じる。」
ほんの便宜的な表現だって。やり憎いなー、まったく!。
(ウルトラ・パワーってのはどうにょ?)
「それがいい。今度からそう呼べ。」
はいはい。髪が全部抜け落ちゃわないのが自分でも不思議だよね。

何枚、扉を壊したかわからなくなる頃、やっと鍵のかかってない扉に行き着いた。バリアーに不具合が生じたのか、ドラコも平気で付いてくる。ってことは、見えないがバラキもいるってことか?と思う間もなく、シドラは中に飛び込む。僕も勢い余って室内に転がりこんだ。だっせー。んにょー、にょー!ドラコがすかさず、警告を送る。その時は、まだその真意が僕には解ってなかった。

GBゼロ-12

2007-10-03 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-12



           イリト・ヴェガ

ユウリに聞いてもきっと教えてくれないだろうと思った。最近、ちょっとぼんやりしているユウリは、こんなことを言い出す。
「カプートが来たくないのなら、彼は来ない方がいいのかもしれないわね。」
「なんで?アギュの所為?」教室だったのでシドラ・シデンがビクンとする。
「表に出ろ。」
「無重力リングだろ。やなこった。」僕は捨て身の反抗。
表向きは誰も注意を払っていない。
ユウリのオレンジ色の端末器には赤い星が縫い付けてある。燃える太陽。ユウリの象徴。なのに、今日はその星に青い涙が付け加えられている。心境の変化だろうか?ユウリは悲しそうに僕を見た。
「彼が知られたくない正体を知って、どうするの?」
「どうするって?友達だもの。」僕は憮然とする。「会いたいよ。」
ユウリはただ黙って僕を見つめる。シドラは監視を意識してか、しきりにユウリに余計なことは言うなと合図を送っている。
「そうね。あたしも会いたいわ。」物憂げな瞳が繰り返す。「そう。会いたいわね。」
「無理に来させるものじゃない。」シドラ・シデンが切り込む。僕を睨みつける。
「不満ならおぬしも来るな。」
ライヴァルは減らせってことですか。シドラさん。僕はカプートをライバルと思ったことはないけどさ。ユウリとの繋がりだって、もっとはっきりと知りたいじゃない。
「わかったわ。」ユウリは心なしかちょっとしっかりした。
「あたしもちょっと話したいことあるから、そう。そうね、彼に会わなきゃ。」
シドラの仏頂面を物ともせず続ける。
「会ったら話してみるわね。今度、ソリュートの実験があるから。その時・・」
「その授業はなくなったんじゃないなのか?」キツイ声でシドラが口を挟む。
「授業はなくなったけど、実験はあるのよ。私自身の鍛練というか、訓練というか。」
「試練か!」シドラが吐き捨てる。
僕は抱いてた疑問をぶつける。
「以前、ユウリが言ってた授業とは違うの?」
「能天気な手習いなら良かったのだろうがな、ユウリ。」シドラの毒のある含み。
「ユウリは先生もやってたんだろ?」
「あら、それ誰に聞いたの?」
「いや・・それは、企業機密。」シドラがさらに更にごっつう睨んでるし。
「素質のある子はいたことはいたんだけど・・思ったより成果があがらないって、所長が廃止させたのよ。すごかったわよ、教官のおかんむり。」
ユウリは顔を寄せた。「いい気味だわ。」
「じゃあさ、カプートもそれに来るの?それって、やっぱり惑星の方?」
「ええ・・多分そうかな。」ユウリの目が泳ぐ。
「あたしもう、実験は全部断ろうと思ってるの・・教官にも言ったけど。本気にしてないみたい・・でも、今度が最後。」
「もう、やめろ。」シドラが僕の肩を掴む。いてて、万力だよ、これ。
「その実験はいつあるのだ?」ユウリに問い掛ける。
「惑星でやるなら、許可は取ってあるのか?」
「さあ。くわしいことはまだ決まってないわ。」
ユウリは目の前の電子ノートの方を向いた。
「カプート、来るかしら。来るといいわね。」淡々とつぶやいた。
画面には古代の書籍の一ページが映っていた。星間図と星々の歴史。
見てるわけではない。まだ少し、ぼーっとしている。寝不足かな?
「大丈夫よ、言っとくから・・」
こんなユウリは初めてだ。お日様が曇ってら。ユウリが寝不足だとしたら、その理由はなんなんだろ?
気になったが、あえて僕はそこを離れた。

通路を歩き出したとたん、案の定追い駆けてきたシドラに捕まる。
「わ!何をすんだよ!」
叫ぶ間も無く、僕は無重力準備室へと引きずり込まれた。
「助けてー!」
「ユウリを困らせるな、アホ。」
3つの部屋を破壊的に駆け抜け、無重力に僕を放り出すと彼女は低い声で恫喝した。
「カプートのことは迂闊に口にするな。」
「だからーなんでー?」粘る僕。
シドラに蹴り飛ばされないように、自分から離れてみた。「教えてよー。」
「いいから、黙れ!」
シドラ・シデンは、う~と口の中で唸る。
「今度、あやつが来たら当人から聞け。」
「来ないかも知れないじゃん。」
「ユウリが頼めば・・」シドラのうなりが激しくなる。僕にも聞き捨てならない。
「なんで?まさか、やっぱりあいつも?」
突然、うおーっとシドラ、吠える。びびった!
「まったく、あいつこそ厄災だ!」
面倒臭い奴ばかり、引きずり込んで!と、これはユウリへの不満らしい。ブツブツ言いながら、彼女は帰ってしまった。
僕はチューブを蹴りながら、考えた。
これは、ぜひともカプートを捜し出さなくてはってね。

「まったく、アギュ並みのしつこさだったな。」
ほめすぎだっての。(もしもし、ガンちゃん?褒められたわけじゃないのにょ。)
あのね、ドラちん、わかってるっての。


二人が口が堅いことはわかったんで、僕は絶対足で、捜し出してやろうと思った。次の日、僕はスクールを上から下まで捜し回った。でも、見つからなかった。念のため閲覧できる生徒と卒業後も残っている特待生のデータリストも除いて見たがそれらしい奴はいなかった。
後は口コミ?。
僕はユウリにソリュートを習ったことのあるニュートロンの女の子にそれとなく聞いてみた。その子も以前は定期的に惑星に通っていたと言う。
例のシドラに怒られた原因となった子だよ。
「そうね。大人の男の人は何人かいたわね。でも原始星の人はいなかったわよ。」
白い肌に白い髪。背はせいぜい僕の胸ぐらいしかない。可愛い子だ。
「みんなユウリに教わってたの?」
その子はニュートロン特有の切れ長の細い目を煌めかせた。
頭が小さく異様に首が長く感じる。
「ユウリ・カミシロのことが気になる?」
「まあね。」軽くかわす。
「みんな彼女に夢中になるのね。」ちょっと不満そうな唇もかわいい。
「あれだけ臨界進化体に思われてなければ、彼女、ケフェウス教官のパートナーになるんじゃないかって噂もあったのよ。」
僕は驚愕した。「まさか!それは、ないない!絶対、ない!。」
彼女は婀娜っぽく僕を見る。からかわれてる?
「大丈夫。教官にはちゃんといるらしいから。」
「そんなことより。それらしい男、こころあたりない?」
「そうね。」もったいぶった流し目、色っぽい。
「もっと上のクラスがあったわ。でも、訓練というよりケフェウス先生の実験クラスと言った方がいいわね。最近、あまり開かれないみたいだけど。」
彼女はユウリが近づいてくるのを見ると口を閉じた。
「あんな楽器で核融合なんて、教官って狂ってるわ。」ささやくと離れる。
「今度、一緒にご飯でも食べない?」
「シドラ・シデンも一緒なら。」彼女は頬を染めた。

「我をダシにして、何やってんだか!」
まあ、いいじゃないの。彼女、ほんと君のファンだったんだぜ。
「まったく、くだらん!」
(実際、ガンちゃんはユウリが好きとか言いながら他に手を出しすぎにょ!
 だからいつもシドラに怒られるのにょ!)
おやおや。もう一人、お堅いのがいたぞ。だって、何も付き合うわけじゃないしさ。
お友達がたくさんいるのは、いいことじゃないの?こうやって情報も集まるし。
「ふん。」
それに可愛い子には一声かけるのは礼儀じゃない?
「どこの礼儀だか!」
(ものは言いようにょ~!やっぱり言葉はおもしろいにょ~)

「デートの約束?」ユウリが笑って離れて行く女の子を見た。僕はニヤリとした。
「シドラのことが知りたいんだってさ。」
「あら。」ユウリは目を丸くする。「シドラって人気者ね。」
「それより、珍しいね。シドラ・シデンと一緒でないなんて。」
「彼女は上に報告に行ってるはずだわ。」
「上って惑星?アギュのこととか、なんちゃって?」
彼女は手首に巻き付けたソリュートに触った。細い指がしきりに石をなでる。
「あたしが行かせたの。この間、ソリュートの実験の話をしたでしょ。今日、あるって行ったらすっとんで行ったわ。きっと、報告しに行ったんじゃないかしら?」
「報告?」
「無許可の実験になるから。」ユウリは今日はすごく元気だ。迷いが吹っ切れた?
「ああでも言わなきゃ、シドラはここを離れないでしょ?」
「え?どうして・・」ユウリは顔を寄せた。目が光る。
「カプートに会うなら、どうしても実験をしなきゃならないのよ。」
僕はびっくりして言葉に詰まる。
「カプート、来るの?」
「それはわからない・・でも、必要なプロセスなのよ。」
プロセス?意味がわからなかった。
「だから、絶対。内緒よ。いい?」

その時。声がかかる。機械の移動音。
「ユウリ・カミシロ。」
ケフェウスが見下ろす。「準備はできたか。」僕は無視された。
「はい。教官。」ユウリは口をきっと結んだ。
「お前から申し出るとはどういう風の吹き回しだ?。」
「気持ちが変りました。」硬い表情で頭を下げる。
「やめたいなどど、2度と言わないことだな。」尊大な態度。
「お前の星に帰りたいならな。」
「そんな権限、もうないじゃん。」思わず口を出る。
「なんだ?お前は?」もったいをつけるように顔だけ向けた。
「ああ。ジュラのワーム使いか。なんだって?もう1回、言ってみろ。」
ユウリが目で何も言うなと言ってる。
「なんでもありません。」僕はこれでもかとさわやかな笑顔で応じる。
ケフェウスは僕を睨みつけた。蛇みたいで気色悪い。
「確か、ガンダルファだったな・・ワームには乗れないワーム使いなど、役立たず以外の何でもない。」ユウリに目を走らせる。「女にかまける暇があれば、臨界進化体と仲よくなる努力でもしたらどうだ?。」
役立たずは余計でしょ。ドラコもにょ~! と怒る。
「行くぞ。」移動機械が上昇する。
彼女は移動機械の後に続く。ちょっと僕に手を上げる。まるで、戦場に行くみたいに。
がんばれよー。僕はそっと、つぶやいた。
しかし、教官自らが迎えにくるなんて。確かに特別扱いだよな。
それにカプートっていったい?
ちょっと検討もつかない、不安がよぎったが僕にはどうしようもなかった。
いつもやってることなんだったら心配ないだろう。
僕はどんな実験なのか想像も付かなかったんだ。

2人を見送った後も僕のスケジュールに変更はなかった。
僕には僕の意地がある。
ユウリはカプートに会えるのかも知れないが、どこの誰かぐらいは自分で見つけてみたいじゃない?。
僕はカプート捜しに戻ることにした。