SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

ART FARMER 「YESTERDAY'S THOUGHTS」

2007年03月09日 | Trumpet/Cornett

「リリカルな」と表現すると、それはビル・エヴァンスに代表されるピアノを指すことが多い。少なくともその言葉からトランペットを連想する人はあまりいないのではないかと思う。
ただアート・ファーマーは例外だ。リリカルなのである。
ではリリカルとは何だろう。早速辞書で引く。「抒情的・抒情詩的であるさま」とあった。
うむ、抒情詩とは何だろう。またまた辞書を引く。「作者の思いや感情を表す詩。元来は楽器に合わせて歌う詩」なのだそうだ。
なんだやっぱり音楽に戻ってくるのかと一人で納得。

このアルバムで彼はフリューゲルホーンを吹いている。トランペットより、さらにやさしい音色だ。
そのやさしい音色で哀愁漂うメロディを次々と歌い上げる。選曲もよく、何度聴いても切ない感情がわきあがり感動してしまう。
ワンホーンの魅力がたっぷり詰まった一枚。素敵だ。

PETER ROSENDAL 「rosendal,earle,templeton」

2007年03月08日 | Piano/keyboard

最近手に入れたCDもご紹介しようと思う。
またまた北欧ジャズなのだ。しかもデンマークのピアノトリオときた。
私の海外旅行経験は少ないが、デンマークでは何人かの友人宅にホームステイをさせていただいたりしたことがあるせいか、この国には特別な感情を持つようになった。
一軒のお宅に泊めていただいた時、夕食が済むとご主人がワイングラスを持ってさっと立ち上がり、部屋の隅にあったピアノの前に座ってラグタイムピアノを弾き始めた。そのタイミングといい、選曲といい絶妙だった。そのご主人はオールドジャズファンであり、60年代始めのボルボを未だに愛用している人間だった。
彼らにはとてもかなわないと思った。
閑話休題。
このピーター・ローゼンダールという人がどんな人なのかはよく知らない。
知っていることといえば、このアルバムが通算3枚目の作品だということくらいだ。しかし彼の弾くピアノの音からは確かにデンマークの匂いがする。音から匂いがしたらそれはもう本物だ。
これからも彼のアルバムを買い続けるだろう。

STAN GETZ 「SWEET RAIN」

2007年03月06日 | Tenor Saxophone

スタン・ゲッツだけを聴きたいならこのアルバムでなくても傑作は多い。
ただここでどうしても忘れられない男がもう一人いる。チック・コリアだ。
これは1967年の録音だから、彼(チック・コリア)を一躍有名にした「Now he sings,Now he sobs」の約1年前ということになる。彼の弾く研ぎ澄まされたかのようなピアノタッチは、この時点で既に完成していたことが容易にわかる。他の誰とも違い音の一粒一粒が光り輝いているようだ。
これにスタン・ゲッツが「よ~し!」とばかり気合いを入れた。このピーンと張りつめた雰囲気が何とも心地いい。ここからがインタープレイの始まりだ。作品の出来が悪かろうはずがない。

インタープレイを辞書で引くと「相手の音に反応し合い、それによって個々を高めあい、全体を活性化させる音楽的会話」とあった。ジャズの醍醐味はこれに尽きる。
そういえば普段の仕事上でもそういったことは往々にして起きる。要するに自分を高めてくれる仲間や友人を一人でも多く持つことが大切なのだとつくづく思うのである。

MYRIAM ALTER QUINTET 「REMINISCENCE」

2007年03月05日 | Group

ミリアム・アルターはピアニストであると同時にコンポーザーである、と紹介されている。
普段は何気なしに聞いているこのコンポーザーとはいったい何をする人なのだろう。単純に「作曲家」と訳していいものなのだろうか。何か違う。もっと総合的な「作家」としての意味合いが強いのではないかと思う。もちろんあくまで私見だ。
女性のピアニスト兼コンポーザーならカーラ・ブレイを思い出す人も多いはず。となると何となく見えてくる。演奏技術よりもコンセプト・メイキングがうまい人に違いない。
このアルバムはそんな彼女のつくるドラマチックな私小説だ。
まず1曲目。しっとりと濡れたようなイントロから主旋律に入り込むまでの僅かな時間に、このアルバムの期待感がグイッと高まる。とにかくホーンアンサンブルが見事なのだ。いい映画は最初の出だしから観客をスクリーンに引き込むが、正にそれと同じ感覚だ。各ソロパートも全体の雰囲気を壊さずに美しいメロディを歌い上げていく。聴き続けるとスリリングなシーンもあれば思わず泣きたくなるような場面にも出くわす。どの場面も実に感動的だ。
このアルバムは全11曲で構成されてはいるが、感覚的には一つのストーリーの上に展開されていく。
個人的な大推薦盤である。




EBERHARD WEBER 「SILENT FEET」

2007年03月04日 | Bass

ECM、と聞くだけで何か遠い風景を連想してしまうのは私だけではないだろう。
冷たいようで暖かい、古いようで新しい、夢のようで現実的、そんな一見相反するイメージを持つのがECMだ。
どのレーベルも他社との差別化を図るためにジャケットデザインには共通性を持たせているが、ECMの場合それが顕著に行われていて、膨大な作品群を一つのブランドとしてまとめることに成功している。具体的には、ナチュラルな写真やイラスト、グレースケールの広い空間、整然とレイアウトされた小さめの文字などが挙げられ、誰が見てもECMだと一目でわかる。これが創立者マンフレット・アイヒャーの商業的手腕だ。

このECMで育った多くのアーチスト、例えばキース・ジャレット、チック・コリア、パット・メセニーなどと並び、このエバーハルト・ウェーバーも典型的なECMの音を奏でるベーシストといっていい。
彼のベースは遠くでうねるような音を響かせるのが特徴だ。1曲目の「Seriously Deep」でのベースソロでは、そんな彼らしい演奏を堪能できる。実にメロディアスだ。またこのベースに絡むチャーリー・マリアーノ(as)がすばらしい出来であることも特筆したい。
全体に完成度の高い作品になっていて、これぞECMの音といえる傑作である。

JACINTHA 「AUTUMN LEAVES」

2007年03月02日 | Vocal

シンガポールの実力派人気シンガーがこのジャシンサだ。
女性ジャズヴォーカルブームに乗って、アジアから彗星のごとく登場したのが彼女である。
最初に聴いたのは4~5年前のことだが、とにかく一聴して惚れ込み、立て続けに何枚か購入した。
とにかくもう、うっとり、しっとり。耳元で囁くような歌声に時を忘れてしまいそうだ。ジャズのライヴハウスに行って、間近でこんな歌を聴かされたら10分以内で倒れる自信がある。それくらい感情のこもった歌い方だ。
このアルバム、録音も優れている。それぞれの楽器が持つ最良の音をきちんと拾っているところなど、エンジニアの腕も高く評価したい。彼女の声をより艶っぽくしているのもその録音技術のせいだ。

このアルバムはJohnny Mercer(ジョニー・マーサー)の歌を取り上げ、全体にスローなバラードで構成されている。
タイトル曲の「枯葉」の前半はオリジナルのフランス語で歌われており、改めてシャンソンから生まれた名曲であることを再認識できる。まるで晩秋のパリの街並みをゆっくりと散策しているようだ。


ESBJORN SVENSSON TRIO 「When Everyone Has Gone」

2007年03月01日 | Piano/keyboard

e.s.t.はどのアルバムをご紹介すればいいかと少々迷い、デビューアルバムに決めた。
というのも彼らはどんどん進化するため、いくら最新アルバムのレビューを書いたところですぐに古くなるのが目に見えているからだ。そういう意味においては何とも始末の悪い連中だ。
但し、彼らの音楽は周りのみんなが騒ぐほど新しいわけではない。事実、70年代初期に活躍したプログレのエマーソン・レイク&パーマーやイエスなんかを聴くとかなり似通った部分があることに気づく。唯一違うことといえば、北欧ジャズの持つひんやりと透き通った氷の上にいるかどうかの違いだ。
このデビューアルバムは、そうした彼らのバックボーンがはっきり映し出されている作品だ。ところどころで前衛色が出てくるもののそう気になるほどのことではない。最近のe.s.t.にはついて行けないという方も、これなら安心して聴いていただけるだろうと思う。また現在のe.s.t.が好きだという方にもぜひ原点ともいえるこの作品を聴いてほしい。
エスビョルン・スヴェンソンのリリカルなピアノタッチもこの時点で既に完成しており実に美しい。

ジャケットの後ろで椅子に座って前屈みになり、テレビ(もしくはラジオ?)を見ている男性がいる。この男がこれからの未来を予見している。
やっぱりただ者ではなかったのだと今になって気づくのは凡人たる証か。