半導体世界シェア5位の米テキサス・インスツルメンツ(TI)は15日、スパンション・ジャパンが運営する福島県会津若松市の半導体2工場を買収すると発表した。
2009年2月の経営破綻後、1年半におよんで模索した受託生産(ファウンドリ)ビジネスによる再建計画は頓挫。外資系による工場買収という、国内半導体産業の衰退を印象づける結末になった。
●過剰投資が負担に
「素晴らしい品質の工場じゃないか」。今年春、TIの米国経営幹部が福島県にあるスパンション・ジャパンの半導体工場を視察に訪れた。
生産ラインを入念にチェックし、製造工程の無駄のなさ、技術者の熟練技術、歩留まりの高さに驚きの声をあげた。TIはすぐに工場買収に関する優先交渉権を握って、本格的な資産と技術査定を始めた。
同時期、リーマン・ショックで大赤字を抱えた国内大手半導体メーカーは、経営破綻したスパンションとあまり変わらない惨状だった。
リストラに追われて、「買収に興味すら示さなかった」(半導体関係者)。国内金融業界も萎縮。
09年後半から、10年春にかけて、債権者のGEキャピタルが再生支援スキームの構築支援を複数の証券会社に持ち込んだが、「どこも再生支援スキームの構築業務引き受けを断った」(金融筋)。
スパンション・ジャパンは、最先端の直径300mmウエハー対応工場、汎用技術の200mm対応工場を持つ。
破綻したのは、300mm工場への過剰投資の費用償却が負担になったため。破綻時に総額741億円となった巨額債務の弁済には資産売却しかない。
担保になっていた300mm対応工場は真っ先に売却候補となった。スパンション・ジャパンは300mm工場の売却で債務の一部を弁済。
残った200mm対応工場を使い、独立企業会社として再生する構想を描いていた。
●ファウンドリ構想頓挫
需要はあった。200mm対応工場は、携帯電話のプログラムデータを格納するNOR型フラッシュメモリーを手掛ける。NOR型を生産できるファウンドリー会社は珍しく、勝算はあった。
実際、10年に入って、次世代メモリー事業を展開する国内のある半導体ベンチャー企業が「生産委託を打診していた」(半導体関係者)。
富士通の流れをくむスパンション・ジャパンに生産委託すれば、技術の国外流出は免れる。「新たなメモリー産業が国内で成長するきっかけにもなる」(経済産業省筋)。
半導体業界でもこの動きを支援する動きはあった。だが、債権者の一言が流れを決めた。
「外資でもなんでもいいから早く売却してくれ」。債権者の1社、JA三井リースの幹部がスパンション・ジャパンにこう迫った。度重なる更生計画の延期に業を煮やしたのだ。
「早く買わなければ買う意味が薄れる」。5月に入り、TIも早期の一括買収を希望。
200mm対応工場をアナログ半導体生産拠点とし、300mm対応工場は設備を持ち出して米国工場の設備増強に使い、余った装置は転売する。
こうして独立ファウンドリ構想はあえなく頓挫した。TIには製品競争力と低コスト生産のノウハウがある。それを取り込めるかどうかが、日本の半導体産業の未来を決める。
【記事引用】 「日経産業新聞/2010年6月29日(火)/5面」