スマートフォンに搭載される微細な電子部品の代表が積層セラミックコンデンサー。
薄さがμm単位の極薄のセラミックシートを何十層と重ね、電気を蓄えるのに使う。世界シェア35%でトップをいくのが村田製作所。
●圧倒的シェア
「『0402』は海外でも生産した方がいいんじゃないか」。東日本大震災後、海外の携帯電話メーカーから村田に問い合わせが相次いだ。
「ムラタが止まれば、世界のスマホが止まる」。こうアップルの首脳などにいわしめる同社の状況を世界が注視したのだ。
0402とは縦0.4mm、横0.2mmの世界最小の積層セラミックコンデンサーのこと。厚さ1μmのセラミックシートが100層も重なる。
従来の携帯電話端末で使われていた0402コンデンサーは1台に100-200個ほど。それがスマートフォンでは400-500個に増えた。従来の1005(1.0mm×0.5mm)では内部に収まりきらないためだ。
0402を安定的に作れる会社は一握りで、村田製作所は圧倒的シェアをもつ。村田製作所は0402を福井県越前市の工場でフル生産中。東日本大震災で東北の工場が被災したが福井は被災を免れた。
「今回の東北地方の震災後の復旧をみて、工場が被災しても3-4週間で復旧できることが分かった」と村田恒夫社長。最先端製品は従来通り国内生産主体でいくつもりだ。
同社の強みは、素材のチタン酸バリウムを内製している点にある。セラミック技術は「サイエンス(科学)というよりもアート(芸)の世界」といわれ、チタン酸バリウムに様々な成分を混ぜて電子的な特性を出す。
「この技で村田は頭一つ飛びぬけている」(ゴールドマン・サックス証券)
他社を寄せ付けない競争力の源泉がここにある。コンデンサーの単価は1円に満たない。素材ばかりか設備も内製するため、コスト競争になればなるほど、同社の力が出やすくなる。
「価格がゼロに近づくほど数量が出て、利益が限界的に上がる」と村田製作所の幹部は話す。素材を外部調達する同業他社にはできない芸当だ。
●日韓の一騎打ち
そんなガリバーにひたひたと迫ってきたのが、韓国サムスン電子グループのSEMCO。
2005年ごろまでは世界シェアが5%程度だったが、今では15-20%まで躍進。TDKや太陽誘電などを抜き一気に2位に浮上した。
SEMCOが急速に台頭した背景には、「日本からの技術流出があった」というのがもっぱらの噂。
「アートの焼き物」である積層セラミックコンデンサーは、スイッチやコネクターなどの組み立て部品と異なり、技術をブラックボックス化しやすい。
どのようなモノを混ぜて精製し、どんな条件で焼成したかなどが分からないからだ。
このノウハウをSEMCOは村田など日本メーカーの技術者を10人以上引き抜いて習得したとされ、村田は材料や構造に関する特許侵害で訴え、日本で係争中。
SEMCOの戦略は、大量生産による価格競争に巻き込むこと。村田以外の日本勢があっさり抜かれたのもこの作戦が的中したため。
金融危機後の需要急減で日本勢が生産を縮小したタイミングで、逆に増産攻勢をかけシェアを上げた。
村田製作所の後呂真次専務は、「技術は常に進化する。最先端品を常に先に投入して、主導権を握る」と、対抗策を打ち明ける。
0402などの小型品で出遅れたTDKがそれまでの2位から4位に後退したように、微細化競争の優劣はすぐに表れる。肉眼では見られない極薄・極小の世界で日韓の一騎打ちが始まった。
【記事引用】 「日経産業新聞/2011年6月30日(木)/3面」