犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

韓国便り~水産市場

2016-01-19 23:50:00 | 韓国便り(帰任以後)

 東京築地の魚市場が移転するというニュースを聞きましたが、ソウル最大の水産市場、ノリャンジンも移転の話があるらしい。

 空港からホテルに行くタクシーが漢江の南のオリンピック大路を通っているとき、見慣れない巨大建物があるので、キサニム(運転手)に聞いてみました。

「ああ、これね。新しい水産市場だよ」

 現在の水産市場のすぐ隣です。

「へーえ。じゃあ昔の市場はもうないんですか」

「いや、まだ引っ越してないよ。賃貸料が大幅に上がるんで、みんな移りたがらないらしいよ」


ということで、夕食はノリャンジンで食べることにしました。

 Kさんとは、地下鉄1号線ノリャンジン駅で待ち合わせ。

 時間になっても来ないのでおかしいなあと思っていたところ、9号線の改札で待っていたそうな。昔は、ノリャンジンには1号線しか走っていなかったのに、今は9号線も止まるんだそうです。ソウルの地下鉄はどんどん充実していきます。

「Iさんは少し遅れるという連絡がありました」

 Iさんというのは共通の韓国人の友人で、今は観光ガイドをやっている。

「じゃ、先に始めていましょう」

 市場の喧騒は、昔のままでした。無数の店がひしめき、通路を通り掛かる客たちを呼び止めます。

「あのハルモニ、まだいるかなあ」

 ソウルに駐在していたころ、ノリャンジンに来れば必ず訪れる店がありました。カニ、エビ、貝を扱っていますがカニの品揃えがいい。渡りガニ、タラバガニ、アブラガニ、松葉ガニ、毛ガニ…。

「ここだ!」

 見ると、私の知っているハルモニは店の奥の椅子に座って、うたた寝をしていました。

「あらまあ。久しぶりじゃないの。なんで最近来てなかったの?」

とはいっても、最後に来てからもう5年以上たっています。

「だって、今は日本にいますからね。たまの出張のときしか来られないんですよ」

「別の店で買ってるのかと思った」


「いや、私は浮気はしません」


 飲み屋も魚屋も、一度決めた女の所に通い続ける義理堅さがあります。

「きょうはタラバガニがいいよ」

「いくら?」


「12万ウォン」


「ノムピッサヨ!(高すぎるよ)」


 巨大なタラバガニを3人で食べきる自信はありません。それで、6万ウォンの小振りの松葉ガニにしました。

「刺身も食べましょうか。いい店を知っていますよ」

とK氏。韓国の魚屋は、とにかく新鮮なものがいいと思い込んでいるので、水槽から出してすぐにさばく店が多い。ところがその店は、「活け締め」という技術をもつ珍しい魚屋さんなんだそうです。

 刺身屋さんはメインストリートから1本入ったところにありました。「兄弟水産」。そこでイシダイ、ヒラメ、ハマチ、メバルなどの高級魚の盛り合わせを一皿注文しました。

「食堂はどこ」

「ユダル食堂です」


「じゃあとで持っていくよ」


 ユダル食堂は市場の地下にある食堂で、市場で買った素材を持ち込むと調理してくれます。そんな食堂がいくつもあります。

「ユダルというのは、木浦の近くに山の名前ですね」

 漢字では儒達山と書くそうです。何度も来ていましたが、山の名前だということを初めて知りました。

 カニが茹で上がるのを待つ間、ミッパンチャン(無料で出るおかず)で焼酎を飲み始めたところに刺身が届きました。

「Iさんは何時ごろに来るかなあ」

 結局、「急な用事ができた」ということで、二次会から合流するという連絡がありました。

「これ、二人じゃ食べきれないね」

 すでにメウンタン(辛い魚のアラ汁)も頼んでいたのです。

「刺身はポジャン(包装)にしてもらおう」

 最後にケアルビビンバッ(カニの甲羅の中のカニ味噌とごま油、海苔をご飯にまぜた締めの逸品)でお腹を一杯にしたところで、タクシーで二次会に向かいます。場所は金浦空港のそば。距離はありますが日曜日の夜なので、20分ほどで着きました。

 田舎町の小さな室内ポジャンマチャ(布張馬車)には、Iさんの仕事仲間の女性もいました。

「はい、これお土産」

「あら、刺身? 少ないじゃーん」


(おいおい…)


 Iさんは日本語がとても堪能で、俗語も使いこなします。

 お店はIさんのタンゴルチプ(行きつけの店)らしく、持込みに対して嫌な顔一つ見せません。

「豆腐キムチと…、ポンテギ」

「ポンテギかあ。なつかしいなあ」


 ポンテギとは、蚕のさなぎ。繭の中身で、韓国ではこれをおやつや酒の肴としてよく食べます。路上の大鍋でぐつぐつ煮込んでいるのがおいしいのですが、飲み屋で出るのはたいてい缶詰。

「犬鍋さん、ポンテギ食べられるんですか」

 今日初めて会った、Iさんの友だちが目を丸くします。

「ええ、食べますよ。自分で注文はしないけど」

「ポンテギが食べられる日本人に初めて会いました!」


 会話は韓国語になったり日本語になったり。ずいぶん盛り上がったという記憶がありますが、例によって酒が回ったあとのことはよく覚えていません。でも、まだ地下鉄がある時間帯に帰ったのは確かです。


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2 コメント

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鷺梁津水産市場 (スンドゥブ)
2016-01-21 08:27:45
おはようございます。

懐かしいですね。
生き締めする店は、釣り仲間と行ったことがあるので、多分同じ店だと思います。新鮮すぎると身がコリコリしてイマイチですが、地元では刺身は歯ごたえを楽しむとか。
マニラでは、店の中で生の魚介類や野菜などを買って、同じお店で料理の仕方を指定して食べさせるお店がありました。
日本では、そういうお店はまだまだ少ないですね。
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ご無沙汰しています (犬鍋)
2016-01-31 23:21:54
駐在時代にご一緒した店と同じ店だと思います。

例の、絵の具のようなワサビは、最近少し改善されたように思います。
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