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犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

ロシア語急行物語(後編)

2021-05-08 23:20:36 | 言葉
 まずはこちらをお読みください。

ロシア語急行物語(前編)
複線化されていたロシア語急行

 物語前半では、つばさという日本人学生が、ロシアに留学します。そして、日本でのロシア語の先生、アンナの姉のナターシャの家に、ホームステイをします。つばさは、ナターシャの友だちのリューダに恋をしてしまいます。

 一方、同時進行するサイドストーリーでは、アンドレイという、ロシア人と日本人のハーフの男性が、裕子という人妻と知り合い、淡い恋心をもっているようです。

 過去時制を学習する第11課では、つばさの過去が明かされます。

 つばさは、ロシアに留学する前、日本の大学で、日本文学を学んでおり、第二外国語でロシア語をとったそうです。そのときの先生が、アンナでした。

 つばさは読書が大好きで、学校の試験の前日でも、好きな本の読書に没頭してしまい、試験でさんざんな成績をとってしまうほどです(第12課)。ただ、つばさは本ばかり読んでいる内気な青年というわけでもなく、誕生日には友だちをたくさん呼んで、飲んだり、食べたり、歌ったり、踊ったりして、大騒ぎをしています(第13課)。

 サイドストーリーでは、裕子の過去が明かされます。

 裕子は、ロシアに来る前、日本の工場で働いていました。ところが、ロシアにいる現在、彼女は働いていません。アンドレイが不思議に思って尋ねます。

「どうして働かないのですか」

「私の2番目の夫が金持ちだからです」


「2番目の夫ですって!」


「はい。じゃ知らなかったのですか?」


 裕子は、離婚歴のある女性でした。おそらくは、最初の日本人の夫の稼ぎはあまりよくなく、共稼ぎをしなくてはならなかったようです。しかし、金持ちのロシア人と再婚し、ロシアでは優雅に暮らしているのです。

 裕子の夫がどのくらい金持ちかは、次の会話から推測できます。

アンドレイ「去年のクリスマス、ご主人はあなたに何を贈りましたか?」

裕子「車です」


ア「なんですって! 彼はあなたに新車を買ったのですか?」


裕「ええ。私の2台目の車なんだけど」


ア「あなたの二番目のご主人って本当にお金持ちなんですね」


 一方、メインストーリーのつばさの家主であるナターシャ夫妻の夫婦関係には、暗い影がさしてきます。

 まもなく夫の誕生日、というときに、ナターシャはつばさに、誕生日プレゼントの相談をします。

ナターシャ「あさってはアントンの誕生日です」

つばさ「何を贈りたいですか」


ナ「去年、彼にネクタイを贈ったのですが、一度もしてくれませんでした」


 妻からもらったネクタイを一度もしないほど、夫婦の関係は冷えていたのです。(第15課)

 ここで、一つの事件が持ち上がります。

 ナターシャの友だちで、つばさが好意を寄せているリューダが、ナターシャの夫のアントンを日本料理店で見かけたのです。

リューダ「昨日、アントンさんを日本料理店で見かけました」

つばさ「そうですか。今はモスクワに出張中と聞いていますが」


リュ「そこで日本人の女性といっしょに食事をしていましたよ」


 リューダは、その日本人女性の名前が「ゆうこ」であることまで、調べ上げていました。(第17課)

 ここで、「ゆうこ」という名前が出てきました。サイドストーリーの登場人物と同じです。はたして偶然の一致でしょうか。

 サイドストーリーを見てみましょう。

 練習問題9では、アンドレイが裕子を夕食に誘います。

アンドレイ「裕子さん、今日、いっしょに夕食に行きましょう」

裕子「いいわ。で、どういうレストランに行きますか」


ア「日本料理です」


裕「日本料理? じゃあけっこうです」


ア「日本料理は嫌いですか」


裕「いいえ。ただ、昨日、日本料理店で夕食をしたので」


ア「でも、かまわないでしょう?」


裕「昨日だけでなくて、おとといもなんです」


 裕子は二日連続で日本料理店で夕食を食べています。このうちの1日が、アントン(ナターシャの夫)との会食であった可能性が濃厚です。

 一方、リューダから、ナターシャの夫の不倫現場目撃情報を聞いたつばさは、無神経にも、そのことをナターシャに話してしまいます。

 すると、ナターシャは、
「それは夫ではない。なぜなら、その日、私はモスクワに電話して、夫と話をしたから」
と言ったそうです。

 夫が、アリバイ作りのために、わざとモスクワにいるふりをした、という可能性について、ナターシャは少しも疑っていません。

リューダ「でも不思議ね。日本料理屋にいた男性は、アントンさんによく似ていたんだけど」

つばさ「ところで、アントンさんとその弟さんが双子だということを知っていましたか」


 裕子がいっしょに食事をしていた相手が、双子の弟だという可能性が浮上してきましたが、真相はわかりません。(第18課)

 テキストは終盤に入り、つばさの帰国の日が近づいてきます。

 帰国の準備でしょう、つばさは借りている部屋の掃除をします。リューダはそれを手伝おうとしますが、つばさが大量の本と雑誌を捨てようとしないので、リューダは呆れてしまいます(第19課)。

 リューダとの最後の日、つばさは、自分の名前の意味が「翼」であることをリューダに説明します。

リュ「なんてすてきな名前なの!」

 つばさは、日本に帰ってから、通訳の仕事をするそうです。ストーリー前半で、懸賞に応募した歴史大河小説は、落選したのでしょう。

リュ「またロシアに来てくださいね」

 するとつばさは、仮定法過去を駆使して、愛の告白ともとれる、きざなセリフを吐きます。

つ「もし私が鳥だったら、あなたのもとへ飛んで行くのになあ」

 しかし、リューダはそっけない。

リュ「でもあなたは鳥ではないでしょ。飛行機の切符を買ってくださいね」

 こうしてメインストーリーは終わります。

 最後の練習問題にあるサイドストーリーのほうでは、セレブの人妻とつきあっていたアンドレイが、日本に留学することを決めます。勉強にまったく興味がなさそうだったのに、どういう風の吹き回しでしょうか。日本人と付き合ううち、自分の母親の故国への関心がかきたてられたのかもしれません。そして、裕子のメアドを教えてもらい、日本からEメールを出します。

裕子さん!
いま東京にいます。
昨日、若い日本人と知り合いました。名前はつばさです。彼はロシア語がうまいです。彼は私たちの町に住んでいたそうです! 裕子さんは彼を知っていますか?


アンドレイさん!
いいえ、知りません。でも、その若者がナターシャのところに住んでいたことは聞いたことがあります。ナターシャのことはよく知っています。というのも、彼女の夫のアントンと、私の2番目の夫が双子だからです。ナターシャのお姉さんのアンナは、東京で教師をしています。

裕子さん!
すべてわかりました! きのう、アンナさんとつばさ君と私は、いっしょにロシア料理店で食事をしました。ロシア語と日本語でたくさん話しました。とても楽しかったです。


 同時並行で進んできたメインストーリーとサブストーリーは完全にシンクロし、大団円を迎えます。

 そして、アントン(ナターシャの夫)と裕子の不倫疑惑は、晴れました。アントンと、裕子の2番目の夫は双子の兄弟であり、アントンがモスクワに出張しているとき、リューダが日本料理店で目撃した男性は、アントンではなく、瓜二つの、裕子の夫でした。裕子は、たんに夫婦で食事をしていたんですね。

 ロシア語急行物語は、まるで韓国ドラマのような展開を見せつつ、完結します。

 ささいなことですが、一つ気になったのは、各レッスンに描かれていたイラストです。イラストには、ひんぱんに犬が登場します。ナターシャの家で飼われている大型犬(たぶんラプラドール・レトリバー)と思われます。つばさがこの家に来てから、すっかりなつき、どこに行くときもつばさにくっついていくことが、イラストからわかります。

 ところがこのテキストのストーリーに、この犬は登場しません。それだけでなく、「犬」という単語さえ出て来ないのです。

 なぜでしょうか。この犬は、たんにイラストレーターの趣味で描きくわえられていたんでしょうか。

 これが最後に残った謎でした。
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