2週間ほど前にワラジメンチを食べて以来、隣のお客さんが食べていたスパゲッティ・ナポリタンが気になってしょうがなかったので、ある土曜日の昼に大井町のブルドックを再訪しました。
カウンターに座った私に、ママさんが、
「メニューご覧になりますか?」
と声をかけてきたのに対し、
「いいえ、メニューは要りません。スパゲッティ・ナポリタンをお願いします」
と、決然と言い放ちました。
スパゲッティは、ナポリタンのほかにもミートソース、ミラネーズなどもありますが、店に入る前からナポリタンにすることを決めていたのです。
カウンターに坐ると、厨房の中の様子が手にとるようにわかります。男たちが4人、忙しく立ち働いています。
役割分担はたぶん決まっているんでしょうが、一人で何役もこなしているので、どのような分業なのかよくわかりません。一番若いのは、洗い物以外に、キャベツを切ったり盛ったり、ご飯をよそったり、たまにはオムライスを作ったり。
後から私の隣に座ったお客さんは、とりあえず生ビールを頼んでいました。私もビールがほしかったのですが、ビールを飲んでしまうと、スパゲッティを食べきれなくなるおそれが強かったため、自制しました。
いよいよナポリタンが運ばれてきました。
大皿にそびえ立つナポリの山は、日本の富士山より勾配が急と思われました。
「す、すごい」
これと似た風景を以前、見たことがあります。それはラーメン二郎。正確に言うと、インスパイア系ですが。
いざ自分の目の前に運ばれてみると、前回、隣の人の皿を盗み見たときよりもずっと迫力があります。
大量のパスタと玉ねぎとマッシュルームとソーセージの刻んだのが、ケチャップで渾然一体に和えられています。
その山に上に、麺の量に見合うだけのタバスコの雨を降らせます。
フォークで大きく巻き取り、ほおばると、口の中に懐かしい味が広がります。子供のころにしばしば家庭で、まれにデパートのお好み食堂で食べた味です。
ところが、食べても食べても山は一向に低くならない。
途中、味噌汁の力を借りて食道にある麺のかたまりを嚥下しながら、山を突き崩します。
半分食べたところで、すでにお腹は一杯。七号目以降になると、ほとんど苦痛になってきましたが、ここで残すのは男じゃない。なんとか、ナポリの山を征服しました。
これから先、少なくとも半年は、ナポリタンを食べたいと思わないでしょう。
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