以前,このブログに「タイ文字がハングルに比べて100倍難しい」と書いたとき(→リンク),あるコメンテイターから質問をいただきました。曰く,
タイ文字の難しさの理由は何か。
①発音が難しいため複雑なのか。
②漢字や英語のように丸暗記しなければならないからか。
③無駄に難しいだけか。
この質問に完璧に答える自信はありませんが,以下,思いつくことを書いてみます。
まず発音について。
発音の難しさには何が関係するのか。一つは音節の数(種類)でしょう。
日本語は世界の言語の中で,音節が非常に少ない言語です。50音表の文字に濁音(ガギグ…),拗音(チャチュチョ),さらに外来語にのみ表れる例外的な音節(ファなど)を加えても,112個(金田一春彦による)。
日本人にとって,母国語の次になじみの深い英語はどうか。
こちらは,世界の言語の中で,音節が非常に多い言語として有名です。全部数えるほど暇な学者はいないらしく,正確なところはわからない。最低でも3万以上。8万という説もあるそうです。
日本語と英語のこの違いは何か? 音韻の構造が違うのですね。
日本語の基本的な音韻構造は,
(子音)+母音
( )は,省略される場合があることを表します。「あいうえお」のように,子音なしで母音だけで構成される音節です。
それに対して英語は,
(子×n)+母(×n)+(子×n)
英語は,子音で終わる音節(閉音節)があるところが日本語と違います。
「×n」は,二重子音,二重母音などを表しますが,これも日本語にはない。「愛」は日本語では二重母音ではなく,二つの母音の連続と意識されます。
do(子母),dog(子母子),drug(子子母子),steps(子子母子子)…
nが最大いくつまでありうるのかよくわかりませんが,
strengths(強さ)は,子子子母子子子!
これで1音節だそうです。これをはたして一息で発音できるんでしょうか。
英語は,子音,母音それ自体の数も,それぞれ日本語よりずっと多い。音節の種類はそれらを掛け合わせたものですから,膨大な数字になるわけです。
ハングルはどうかというと,まず音韻構造は
(子)+母+(子)
です。
閉音節があるけれども,二重子音はなく,二重母音もほとんどない。頭子音(音節の最初の子音)は19種類,母音は半母音を含めて20種類,末子音(音節の最後の子音)は7種類。これらをかけあわせると理論値は約3000ですが,実際に存在する音節はたぶん2000以下でしょう。
約2000として,日本語の10倍以上,英語の10分の1以下です。なお,これは「音節の種類」であって,「ハングルの数」ではありません。
音節数は,閉音節の有無が大きい。中国語は,声調があって難しそうですが,音節の数は400余りとのこと。閉音節がないのでこの程度で収まります。
では,タイ語はどうか。
まず音韻構造は,
子(×n)+母(×n)+(子)
頭子音には二重子音もあって,計31。相当に多い。頭子音に( )がついていないのは,母音で始まるように聞こえても「声門閉鎖音」というのがあって,それが子音扱いされるため,タイ語ではすべての音節が子音で始まるとみなされるのだそうです。
母音は二重母音,三重母音があり,長母音,短母音も区別するため,すべて合わせると38種類にもなる。母音のきわめて多い言語だといえるでしょう。
さらに末子音は6種で,これは韓国語より一つ少ない。
これらをかけあわせると,理論値は8000にも及ぶ。実際に存在するのはいくつかわかりませんが,5000ぐらいでしょうか。
音節の数を整理すると,
日本語 112
中国語 約400
韓国語 約2000
タイ語 約5000
英語 約3万
さらに,タイ語には,中国語と同様に「声調」というものがある。中国語の声調は「四声」といって4種類ですが,タイ語は5つあります。これを加味すれば,タイ語の発音はもっと難しいといえそうです。
で,これがタイ文字が難しい理由か。
そもそも発音が難しい言語は,文字が難しいのか。このへんのところがよくわかりません。
音節数が少ないほうの日本語や中国語は,漢字という表意文字を使うため,「文字がやさしい」とはとてもいえない。
一方,音節数が膨大な英語は,26文字のアルファベットですべてを表すので,「文字」そのものはやさしい。まあ,たった26文字で膨大な音節数を表すための無理が生じるため,さまざまな例外が生じてきて,綴りを覚えるのは難しいということはありますが…。
要するに,音節数と文字の難しさは直接的な関係がない…。
ここまで読んでいただいて,たいへん申し訳ない結論になりました。
タイ文字の難しさの理由は何か。
①発音が難しいため複雑なのか。
②漢字や英語のように丸暗記しなければならないからか。
③無駄に難しいだけか。
この質問に完璧に答える自信はありませんが,以下,思いつくことを書いてみます。
まず発音について。
発音の難しさには何が関係するのか。一つは音節の数(種類)でしょう。
日本語は世界の言語の中で,音節が非常に少ない言語です。50音表の文字に濁音(ガギグ…),拗音(チャチュチョ),さらに外来語にのみ表れる例外的な音節(ファなど)を加えても,112個(金田一春彦による)。
日本人にとって,母国語の次になじみの深い英語はどうか。
こちらは,世界の言語の中で,音節が非常に多い言語として有名です。全部数えるほど暇な学者はいないらしく,正確なところはわからない。最低でも3万以上。8万という説もあるそうです。
日本語と英語のこの違いは何か? 音韻の構造が違うのですね。
日本語の基本的な音韻構造は,
(子音)+母音
( )は,省略される場合があることを表します。「あいうえお」のように,子音なしで母音だけで構成される音節です。
それに対して英語は,
(子×n)+母(×n)+(子×n)
英語は,子音で終わる音節(閉音節)があるところが日本語と違います。
「×n」は,二重子音,二重母音などを表しますが,これも日本語にはない。「愛」は日本語では二重母音ではなく,二つの母音の連続と意識されます。
do(子母),dog(子母子),drug(子子母子),steps(子子母子子)…
nが最大いくつまでありうるのかよくわかりませんが,
strengths(強さ)は,子子子母子子子!
これで1音節だそうです。これをはたして一息で発音できるんでしょうか。
英語は,子音,母音それ自体の数も,それぞれ日本語よりずっと多い。音節の種類はそれらを掛け合わせたものですから,膨大な数字になるわけです。
ハングルはどうかというと,まず音韻構造は
(子)+母+(子)
です。
閉音節があるけれども,二重子音はなく,二重母音もほとんどない。頭子音(音節の最初の子音)は19種類,母音は半母音を含めて20種類,末子音(音節の最後の子音)は7種類。これらをかけあわせると理論値は約3000ですが,実際に存在する音節はたぶん2000以下でしょう。
約2000として,日本語の10倍以上,英語の10分の1以下です。なお,これは「音節の種類」であって,「ハングルの数」ではありません。
音節数は,閉音節の有無が大きい。中国語は,声調があって難しそうですが,音節の数は400余りとのこと。閉音節がないのでこの程度で収まります。
では,タイ語はどうか。
まず音韻構造は,
子(×n)+母(×n)+(子)
頭子音には二重子音もあって,計31。相当に多い。頭子音に( )がついていないのは,母音で始まるように聞こえても「声門閉鎖音」というのがあって,それが子音扱いされるため,タイ語ではすべての音節が子音で始まるとみなされるのだそうです。
母音は二重母音,三重母音があり,長母音,短母音も区別するため,すべて合わせると38種類にもなる。母音のきわめて多い言語だといえるでしょう。
さらに末子音は6種で,これは韓国語より一つ少ない。
これらをかけあわせると,理論値は8000にも及ぶ。実際に存在するのはいくつかわかりませんが,5000ぐらいでしょうか。
音節の数を整理すると,
日本語 112
中国語 約400
韓国語 約2000
タイ語 約5000
英語 約3万
さらに,タイ語には,中国語と同様に「声調」というものがある。中国語の声調は「四声」といって4種類ですが,タイ語は5つあります。これを加味すれば,タイ語の発音はもっと難しいといえそうです。
で,これがタイ文字が難しい理由か。
そもそも発音が難しい言語は,文字が難しいのか。このへんのところがよくわかりません。
音節数が少ないほうの日本語や中国語は,漢字という表意文字を使うため,「文字がやさしい」とはとてもいえない。
一方,音節数が膨大な英語は,26文字のアルファベットですべてを表すので,「文字」そのものはやさしい。まあ,たった26文字で膨大な音節数を表すための無理が生じるため,さまざまな例外が生じてきて,綴りを覚えるのは難しいということはありますが…。
要するに,音節数と文字の難しさは直接的な関係がない…。
ここまで読んでいただいて,たいへん申し訳ない結論になりました。
ちなみに私の姪の名前は「スオミ」です。
子子子母子子子ではないでんでしょうか?
('ng'を一子音と数えて)
金田一春彦の「日本語」(初版のほう)にスラブ系言語(だったか)に子音がやたら連鎖するのがあるとか書いてあった記憶が。
英語の綴字に関しては日本語の旧仮名遣い同様歴史的経緯が複雑化に寄与しているように思います。(たった5種類のローマの母音字を多種類の母音に当てはめるとかの無理は確かにありますが)
http://www.asahi-net.or.jp/~aw2t-itu/enghist/oe.htm
ご指摘の通りですので,本文を修正します。
子音がやたら連鎖する言語というのは,もしかして80種の子音をもつウビフ語ではないでしょうか。
世界最多の子音をもつこの言語は,世界最少の母音をもつ言語でもあり,母音はたった二つだそうです。
私は千野栄一さんの本で知りました。
なお,1992年に最後の話者が亡くなり,滅びたとのこと。
古英語についてのリンクありがとうございました。時間があるときにゆっくり読みます。
二つしか母音をもたない言語ってあるんですね。どんな言語でも最低でも三つはあると(a,i,u) ヤコブソン先生は断言してましたが。^^;
確かにシゲなんか,単母音に聞こえますね。