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稀に見る傑作アニメ映画『ルックバック』を観賞!

先日、今話題となっている映画、『ルックバック』をシネコンで観てきた。藤本タツキによる漫画が原作の劇場アニメだが、なんと58分という短編映画にも関わらず、6/28の公開開始以来、映画の評判・口コミなどでどんどん人気が高まり、上映館なども拡大しながら一大ブームとなっている。ミーハーな僕は()、そんなトレンドに乗っかる形でついに観に行ったわけだが・・・物語が昔の自分と重なる部分もあって、強く心を動かされてしまった・・・。

また、映画としては評判通り、いや評判以上の傑作と言わざるを得ない。このような短編映画で心を動かされたのは、新海誠監督の『言の葉の庭』をシネコンで観て以来かもしれない。兎に角、素晴らしい作品なので、まだ観ていない人は、ぜひ『ルックバック』を見ることをおススメしたい。

(*尚、下記はネタバレを含むので、これから映画を観たい人は読まないことをおススメする)

実は原作漫画の存在も最近まで知らなかったのだが、映画は漫画をかなり忠実に再現しているとのことで、漫画の方も読んでみたくなった。絵のタッチは新海誠のアニメのように決して圧倒的に美しいわけではない。どこか粗削りな絵なのだが、そのまっすぐで圧倒的な“画力“には違う意味で圧倒されてしまう。

学校新聞に毎週4コマ漫画を描いて人気者になっていた小学4年生の藤野。周りからはいつも“藤野は絵が上手いね~、漫画家になれるよ!”と絶賛され、これでも本気を出していないかのようなコメントをしながらいい気になって、褒められることで密かにどんどんモチベーションを高めていくのだが、この心の躍動感も上手く映画で表現されていた。特に、藤野が嬉しさのあまり、飛び跳ねながら家までの田舎道を駆け抜けていく姿が巧みに描写されるが、このシーンも実に秀逸であった。

やがて、不登校・引きこもりの生徒である京本が、漫画なら描いてみたいということで、藤野と並んで漫画を学校新聞に掲載することになる。“どうせ京本の絵なんて大したことないだろう~”とくくっていた藤野だったが、初めて京本の漫画を見た時、そのレベルの高い京本の画力に衝撃を受け、打ちのめされる。クラスの友達もみんな、“京本の絵に比べると、藤野の絵は普通だなあ”などと言われてしまい、人生で初めて自尊人を著しく傷つけられてしまう。しかしそこでめげないのが藤野だ。それから自分の画力が一番じゃないことが悔しくて、悔しくて、必死で毎日絵を描きまくる。来る日も来る日も描きまくるのである。ここで、作品のタイトル通り、藤野が机に向かい、漫画を描き続ける姿を、時間や四季の移り変わりで見せることで、静的に長い時間の経過を上手く表現しているのだが、この描き方は実に見事としか言いようがない。

『ルックバック』を観て、僕も小学生、しかも藤野と同じ小学4年生だった頃漫画を描いていたのを思い出した。まさに藤野同様、学校新聞などに漫画や絵を描いていたのだ。僕も当時は将来漫画家になるんだと真剣に考えていたが、何だかその当時の自分の姿や気持ちと重ねてしまった。

そして、藤野もついに小学校卒業の時期を迎えるが、卒業証書を京本の家に届けるよう先生から藤野が依頼され、憂鬱に思いながら京本の自宅に向かう。そこで京本が物凄い数のスケッチブックを目にし、圧倒的な絵の練習量をこなしていたことを知り、即席の4コマ漫画を描いて卒業証書を置いて帰ろうとするが、京本が家から飛び出し、藤野のことを尊敬していたことを初めて伝えるのだ。ここで面白いのは、画力で勝る京本ではあるが、漫画としてのストーリー性や構成力は藤野に才能があり、自分にないその部分の才能を京本は憧れていた点が印象的だ。中学に進んだ2人はやがて意気投合し、ペンネーム“藤野キョウ”という名前で漫画を共同制作をするまでになって、いつしかかけがえのない“親友“となっていた。ここでも、賞金で散財しようと2人が街にお出かけるシーンも、2人の心の機微や関係性が、繋ぎ合う手などで絶妙に表現されていて素晴らしい。二人で描いた漫画作品はコンテストで賞を取るまでに成長していく。つまり、二人はお互いにない絵の才能を持ち合わせていたという点で、補完関係にあったベストコンビであったと言えるのだ。

高校生となった2人は『ジャンプ』での連載が決まる。藤野は京本と一緒に連載に挑むものとばかり思っていたが、京本は高校卒業後に山形の美術大学に進みたいという気持ちを藤野に伝える。いつの日か藤野との間にギャップが出来ていたのだ。それはより背景などの画力を向上させたいという方向性と、藤野に全て頼るのではなく、自立して行きたいという思いからであったと思うが、連載は藤野1人で対応することになり、藤野キョウのコンビは解散することになる。

藤野の頑張りで、連載は人気のアップダウンを繰り返しながらも11巻まで発行される人気漫画となり、アニメ化するまでになる。そして、ここでも連載を描き続ける藤野の描写の中で、本棚に並ぶ自作マンガの冊数で、どの巻が重版になったかなど、細かくその過程を表現しているあたりも実に上手い。

そんなある日、悲劇は起きてしまう。京本が通う山形美術大学に精神的不安定になった不審者が侵入し、京本は命を奪われてしまうのだ。ちなみに、この残忍な無差別殺人事件は、あの京都アニメーション放火殺人事件を連想させる内容なだけに、表現の仕方に色々と賛否があったらしい。“自分さえ京本を外の世界に引っ張り出さなければ、京本は死ぬことは無かったんだ~”と自分を責める藤野。そして、葬儀の後、京本の部屋を訪れたが、そこには藤野が必死で描いていた連載単行本がたくさん本棚に並んでおり、読者アンケートなども書いてくれていたことが見て取れる。京本は美術大学に行って進む道は違ってしまったが、京本のことはいつでも常に応援し続けていたことがわかる。このあたりの静かで繊細な描写も実に秀逸だ。最後はパラレルワールド的な表現として、もしあの時、藤野が京本を外に誘い出す4コマ漫画を描いてなかったらという展開が描かれるのだが、結局2人は一緒に漫画を描くことになることが伺えて、2人の強い絆みたいなものが改めて確認出来る。最後は、京本の為にも連載を再開させないと!という思いで、また机に向かって漫画を描く藤野の“背中”で映画は余韻を残して終わるのだ。

原作と映画のタイトルとなっている『ルックバック』も、かなり秀逸である。ルックバックとは、振り返るという意味があるが、京本と漫画に打ち込んだ日々や思い出を振り返る、或いは“あの頃に戻れたら”という意味合いすらも込められている。しかし、やはり象徴的なのが、この映画はかなりの部分が、藤野が机に向かって漫画を描く“後ろ姿”が深く印象に残る点だ。つまりルックバックとは、“背中を見る“という意味でもあり、そのひたむきな背中を視聴者のみならず、京本にも見せていたという意味でも実に感慨深い構成だ。

最後になってしまったが、藤野役の声優を担当しているのが、先日も取り上げた売れっ子若手女優の河合優実であるが、彼女の最近の活躍には目覚ましいものがある。京本の声は、同じく頭角を現している若手女優の吉田美月喜。この旬な2人の声優起用でも大いに注目を浴びている。

それにしても、久々にいい短編アニメ作品を観た思いで、とても心が満たされた。と同時に、漫画を必死で描いていた小学4年生であった、あの頃の自分の熱い思いとも重なる部分が多く、忘れてしまっていた夢や、絵に対する情熱が久々にこみ上げてきたことで、大いなる刺激となった。

コメント一覧

bluedeco1969
コメント、どうもありがとうございます!はい、私も原作を確認しましたが、冒頭の黒板にDon’t、ラストにIn Angerと言う本が描かれており、オアシスの曲になりますよね。あのマンチェスターでのテロについても示唆していて、なかなか深いです。。。
onscreen
まだ読んでいないのですが、原作のタイトルには Don't が冒頭に、in Anger がこっそりくっついているそうです

つまり、それはOASISの曲!?!?

https://blog.goo.ne.jp/onscreen/c/b4d1415497d1a8a01fcca109c31837f4
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