なんかつくってりゃしあわせ

なんかつくってりゃしあわせ。。。

アシ

2016-03-18 10:00:38 | 雑感
漫画家のアシをしていた。


地元の高校を卒業する前にさっさと上京、そして独り立ちして食っていく事の喜びと不安に打ち震えながらも小さき我が部屋を構え
さて、毎月の糧はどうしようとアルバイトを探していた頃の話

高校の卒業式にはバイトを休んで出席したから、いっぱしの大人になった気がしてた


その頃の漫画家の仕事は全てが手作業だった
ひねくれ者の先生が何日も苦しみつつ出した構想を編集と一緒に話し合い
「よし、今週はそれでいこうじゃないか」ということになれば次は割り付けやネーム(セリフ)
にコマは進むのだが、構想自体が『ボツ』ということになると、先生のおへそはいきなり曲がり
アシスタントに八つ当たりしつつまた一から漫画を考えなければならない

私の先生はその当時週刊漫画の連載を持っていたから、つまづくと途端に仕事がきつくなるのは目に見えている

何度先生の修羅場を見たことかわからない

居留守を使ったりするのを手伝ったり
壁を叩いて穴を開けたり(その代わりに拳も傷ついてた)
真夜中に家中を駆け回ったり
酔っ払って、ここでは書けないくらいの状態になったり
逃避行のお手伝いをしたり
一番すごかったのはアシスタント全員(5人)連れて沖縄の離島に逃げた

今考えればその当時の先生は26歳
まだまだ幼い若者だったわけだ

その先生も相当変わり者(を気取りたかった?)だったが、漫画家の集まりで
おお●もかつひ●さんが「漫画が描けない。漫画が描けない」と言ってパーティ会場のテーブルの下にうずくまっていた、という話を聞いて
漫画家、というのはろくなもんじゃないな、と長い間思っていた


5名いるアシスタントのうち、
私は一番下っ端

メインアシスタントがいて
その次のアシスタントがいて
で、私。

その他の二人はどうしても落ちそうな(連載に間に合わない様)時に助っ人で呼ぶ

だから、調子よく書いてる時は先生含め4名で賄っていた

先生が主要登場人物にペン入れし、
メインがその他の指定を淡々とこなしていく
サブアシスタントがその他大勢が集まる場面の人々とか、時間がかかりそうな細い描写をする

原稿が上がったら先生のチェックが入って
何事もなければフィニッシュ作業の私の机に一枚一枚積まれていく

私の仕事は乾いた原稿(ドライヤーで乾かしたりもした。原稿曲がるような乾かし方してたら先生に怒鳴られた、もちろん。)
に消しゴムをかける、消しゴムのかけ方もテクニークがある。
それからベタ塗り。これは髪の毛だとか、影の部分に墨を入れて塗るのだ
それからホワイト。これははみ出た部分や汚い線を修正したりする
で、トーン貼り。スクリーントーンと言って模様のついたシールみたいなシートをデザインカッターで切り抜きつつ「上手く貼る」
で、ヘラでこすって定着させる
私は一番下っ端要員だからせいぜいそこまで

サブアシスタントがトーンに効果線を入れたりホワイトで書いたり削ったりして原稿を仕上げていく

私も少し修行が過ぎたあたりで先生に褒めていただいたことがあった
ベタもムラがなく、(消し)ゴムかけて原稿を痛めてないし、ホワイトが綺麗に入っていても原稿がフラットである(ホワイト修正は面相筆で白い絵の具なので厚みが出やすい)
作業の手も早くて「何しろ文句言わない」(笑)
先生に文句言ったやつなんて知らん

うちの先生の漫画を描く仕事は3徹とかあった
だから、身体は辛く、精神的にはボロボロだった
精神的にボロボロになりかけた時に一番仕事量の多いメインアシスタントは大変だったろうな
あのわがまま三昧のうちの先生のメインアシスタントになるくらいだから本当に冷静沈着で
まず声を荒げたところを見たことがない
ただ、淡々と仕事をこなしていた彼のストレスの発散場所はなんだろうと思っていた
先生の猫にいつまでも話しかけたり、犬小屋で寝てたり(匂いで癒されるらしい)

漫画の一コマの情報量が多く、多摩ニュータウンの団地の描写が続いた時は、私のベタ塗りも大変だったが
よくこんな建物ばっかりかけるなーと本当に感心してた


私は面倒くさがりだから
できないなーと

今でも画面にいっぱいいっぱいの絵を描くのが苦手
飽きちゃうんだよね、かいてて


余白多き人生です