売れない作家 高村裕樹の部屋

まだ駆け出しの作家ですが、作品の情報や、内容に関連する写真(作品の舞台)など、掲載していきたいと思います

大須

2012-11-27 09:05:53 | 小説
 昨日、久しぶりに名古屋の大須に行きました
 大須は名古屋の電気街ですが、長引く不況の影響か、以前に比べ、電気街が縮小してしまったのが残念です

 しかし、大須は電脳街だけではなく、ファッション、オタクなどのカルチャーの街でもあります。名古屋でもっとも賑わう商店街だと思います。

 『ミッキ』では、美咲と彩花が大須の街を歩いています。
 『幻影2 荒原の墓標』に登場するS氏、G氏のモデルになった世界的に有名なタトゥーアーティストさんを始めとして、何軒ものタトゥースタジオもあり、日本でもっともタトゥースタジオが多い街といわれています。

 昨日はツクモ電機でパソコンのパーツなどを見ていました。タイの洪水の影響で、ひところ高騰していたハードディスクも値段が落ち着いてきました。メモリーが非常に安くなっています。そろそろ1台パソコンを作りたいのですが、経済的にピンチで、もう少し本が売れるまで我慢します。今ノートパソコンと、ドスパラで買った古いデスクトップが1台あるので、執筆やデジカメの画像処理には十分です。

 今回は『幻影』第31章です。まもなく大詰めを迎えます。美奈の推理がさえます。


             31

 ハイム白鳥の繁藤安志殺害事件の捜査の進展状況は、はかばかしくなかった。
 遺体発見者の麻美は、死亡推定時刻には、職場のキャバレーで勤務していたことが確認され、アリバイは成立していた。
神宮署員は近所に聞き込みを重ねたが、怪しい人物などの目撃証言は得られなかった。
 指紋も繁藤本人や麻美のもの以外は、顕著なものは検出されなかった。繁藤の携帯電話や日記、手帳の類も持ち去られていた。
 ただ最近抜け落ちた、繁藤のものでも麻美のものでもない毛髪が、部屋の中から数本採取された。
 麻美の話によれば、繁藤は結婚詐欺を働いて、何人かの女性から金を詐取したり、他人の弱点を探し出して、恐喝をしたりしていたという。
 殺される前日、麻美に大金が入る当てがあるので、どこかに遊びに行こう、と誘っていたという。おそらく恐喝で金を巻き上げようとして、逆に殺されてしまったと思われる。
 そんなにあくどいことを続けていれば、いつかこんな事態になってしまうのではないか、と麻美は恐れていた、と話していた。
 麻美は、繁藤から少し前に、全身にいれずみを彫ったソープ嬢から一千万円をだまし取るつもりだったが、それは失敗したという話を聞いていた。
 そのソープ嬢を捜し出そうとしていた矢先、県警の刑事で、篠木署の外之原峠遺体遺棄事件に従事している三浦より、そのソープ嬢とは、外之原峠の事件の情報提供者、木原美奈であり、美奈のアリバイは成立している、という報告がもたらされた。
 マスコミは麻美の話から、その件を嗅ぎつけ、「全身刺青のソープ嬢」という話題性に注目し、美奈を容疑者として、無責任な報道をしたのだった。事実としては、すでに美奈のアリバイが成立し、嫌疑はまったくなくなっていたにもかかわらず、あえて美奈のことを性と刺青の権化、現代の毒婦、などと書き立て、世間の興味を煽った。
 新聞社は信頼性を重んじるので、新聞社系の週刊誌はそのようなゴシップネタを相手にしないが、まずは話題性を作りたい二流、三流の出版社系の週刊誌が、そのネタに飛びついたのだ。
 インターネットでも、美奈の写真とともに、多くのブログなどで書き立てられた。ソープ嬢、タトゥーなどで検索すると、いくつもの書き込みにヒットした。美奈はしばらく、自宅のパソコンのインターネットを使う気になれなかった。
 おかげで美奈は大変な騒動に巻き込まれた。
 店ではミクは肩身が狭い思いをした。三浦と鳥居がミクは事件とは一切無関係だと言い切ってくれたので、店長の田川はミクを信頼し、これまでミクを快く思っていなかったコンパニオンたちも、逆にミクを励ましてくれた。何より、犯行時間帯には、ミクが店にいたことは、みんなが証人になっている。漫画のように瞬間移動でも使わない限り、ミクが犯人になれるはずがないことを、みんなが知っている。
 しかし、雑誌の記者は、店のコンパニオンが殺人事件の犯人ではまずいので、店がぐるになり、アリバイを偽証している可能性もある、と主張していた。
 生家の兄のところにも雑誌記者が押しかけた。美奈が全身にいれずみをしていることや、ソープランドに勤めていることを知り、勝政は激怒した。勝政は「親鸞聖人の弟子たる者が、入れ墨をしたり売春行為をするとは、もってのほかだ。何という恐れ多い馬鹿なことをしてくれたのだ。おまえの汚らわしい顔など見たくはない、もう二度と帰ってくるな」と美奈を罵倒した。
 それでも姉の真美は、美奈に優しく声をかけてくれた。たった一人の妹だから、見捨てるようなことは決してしない、何かあれば、いつでも連絡してほしい、と涙ながらに庇ってくれた。
 もちろん、ミドリ、ケイ、ルミは美奈のことを思いやり、心から励ました。
当然アリバイが完璧に成立しているので、騒ぎはすぐに下火になった。しかし心ないマスコミに踏みにじられた花園は、傷跡が大きかった。美奈と兄との仲が完全にこじれてしまったのだ。美奈は兄から、もう二度と生家の敷居をまたぐな、と宣告されてしまった。
 ただ、騒動はオアシスには大きな宣伝効果があり、事件後、客足がかなり増えたのだった。
 マスコミはさんざん引っかき回したあげく、最後はただ一言、全身刺青のソープ嬢には、アリバイが成立した、と断って全てを収束させてしまった。美奈にはお詫びの一言もなかった。

 神宮署の捜査本部は、繁藤にだまされた者や恐喝をされた者を捜し出し、一人一人当たっていったが、今のところ容疑を認められる者は見つからなかった。吉川麻美に尋問しても、具体的なことは何も聞いていないとのことだった。

 また、篠木署の外之原峠遺体遺棄事件も、殺害されたのが二年以上前のことであり、何の進展もなかった。捜査本部は縮小され、愛知県警の三浦と篠木署の鳥居の二人の刑事が専従捜査官として残された。
 容疑者として追っていた繁藤が殺されてしまい、捜査は振り出しに戻ってしまった。ひょっとしたら、繁藤が殺されたことにより、もう事件は終わってしまったのではないか、という無力感にも襲われた。繁藤の事件は、別の署の管轄で、三浦たちが手を出すべきことではない。少なくとも表面上は。神宮署は二つの事件は、別のものと考えて、切り離してしまっている。

 木曜日の夜、オアシスでミクを指名した佐藤。名前はたぶん偽名だろう。その佐藤は、美奈のサービスを受けて、つい「君の背中とそっくりないれずみをしている人を見たことがある」と口を滑らせてしまった。そして、繁藤に渡したはずの名刺を持っていた。
 この二つは、何を意味するのか。
 美奈とそっくりのいれずみ、というのは、おそらく千尋のことだろう。また、繁藤に渡した名刺を、どこで手に入れたのだろうか。
 それに、オアシスに来たことは、ひょっとしたら捜査状況を私から聞き出そう、という意図があったのかもしれない。
 そして千尋、繁藤の二人は殺されている。
 そう考えてみると、恐ろしい結論が導き出される。
 この結論を三浦に報告するべきか。
 しかし、もし単なる偶然でしかなく、佐藤が犯人ではなかった場合、佐藤を告発したのが美奈だということはすぐにわかってしまう。自分は何を言われようが、ただひたすら謝ればいいが、店に多大な迷惑をかけてしまうことになるかもしれない。
 オアシスは客を犯罪者にする、などという噂をばらまかれては、美奈が責任をとって店を辞めるだけでは済まないかもしれない。二年間お世話になっている店に迷惑をかけるわけにはいかない。
 オアシスは、世間的には良俗に反すると批判を浴びるようなたぐいの店かもしれない。それでも美奈は自分が働いてきた店に、愛着を感じていた。
 一緒に働いているコンパニオンの仲間や、いつもそっと見守っていてくれる玲奈、労働条件や環境のことで相談に乗ってくれる店長の田川、そして陰から美奈たちコンパニオンを支えてくれる、沢村を始めとする男性スタッフたち。なんといっても、生涯の親友である、ミドリ、ケイ、ルミと巡り会えた店である。
 美奈の軽はずみな行動のため、店に迷惑をかけたくはなかった。
 でも猪突猛進型の鳥居はともかく、三浦なら慎重に捜査を進めてくれるかもしれない。やはり三浦には美奈の着眼を話しておくべきだろうか。
 どうするべきか悩んでいると、「大丈夫です。美奈さんの考えていることは間違っていません。自信を持ってください」という声が心の中に響いた。千尋の声だった。
「千尋さんですね。千尋さんや繁藤を殺害した犯人は佐藤なんですね。私の推理したこと、間違っていないんですね」
 美奈は千尋に問いかけた。しかし返事はなかった。
 美奈は今はっきり覚醒した状態にある。覚醒した状態では、千尋がコンタクトを取るのが、難しいのだろう。さっきの一言を伝えるだけで、精一杯だったのかもしれない。
 それでも、千尋の言葉に自信を得た美奈は、今度の公休日に三浦に連絡を取り、自分の推理を話す決意をした。もう事件も解決の日が近づき、千尋さんも成仏できるのじゃないか、と思われた。
 篠木署に行く前に、美奈は卑美子のスタジオを訪れて、さくらに会った。

 美奈より、千尋と繁藤二人に接点を持つ男が現れた、との通報を受け、三浦と鳥居は色めき立った。美奈は篠木署に愛車のミラを駆った。
 鳥居はいかめしい顔つきで、取っつきにくいところがある。けれども美奈はこれまで何度も鳥居に会い、また、卑美子夫婦が鳥居に恩義を感じているという話も聞いていたので、最初に抱いたおっかない刑事さん、という印象はなくなっていた。話してみると、意外と親切で、人がいいところがある。おもしろい名古屋弁のおじさん、という一面もあった。
「話してください、美奈さん」
 すでに独立した捜査本部すらなくなっているので、取調室の一つで三浦は美奈を促した。
「この前の木曜日のことです。佐藤と名乗る五〇代ぐらいの男性が、お店に来ました」
 美奈はさっそく話し始めた。
「その人は、私の背中のいれずみとそっくりの絵を彫っている女性を見た、と言ってました」
「同じような騎龍観音のいれずみをしている女性は、何人もいるでしょうね」
 三浦は先入観にとらわれることを警戒し、わざと否定的な発言をした。美奈は三浦が意地悪ではなく、あえてそう言っていることを承知している。
「ただ、私の背中を見たときの驚きようはすごかったです」
「女性がそれだけ立派な絵を入れていれば、誰でもびっくりしますよ」
「そうですね。でも、その人は私が全身にいれずみをしていることは知っていました。というのは、例の雑誌の記事を読んでいて、いれずみの写真を見ているからです。ただ、その写真は白黒で、あまりはっきりしてなかったから、細かい図柄まではわからなかったはずです。私の背中の騎龍観音が、千尋さんとそっくりだということまでは」
 美奈はここで一区切りして、出されたお茶を一口飲んだ。
「続けて」と三浦は先を促した。
「改めて私の背中を見て、騎龍観音の絵が自分が殺害した千尋さんとうり二つだったことに、びっくりしたんじゃないか、と私は思いました。それに、私とそっくりな絵を彫っている女性を見たことがある、とも言っていました。それがその男と千尋さんがつながっている、と考えた理由です」
 美奈は「殺した」という言葉を使うことがためらわれ、感情を押し殺して、「殺害した」と言った。
「なるほど。しかしそれは状況証拠でしかないな」と今度は鳥居が見解を述べた。
「それは置いておいて、今度はその男と繁藤のことを話してください」
 三浦は次は繁藤との繋がりを尋ねた。
「はい」と返事をし、美奈はバッグから一枚の名刺を取り出した。その名刺はチャック付きのビニール袋に入れられていた。汚したり指紋をつけたりしないための、美奈なりの配慮だった。
「この名刺ですが、これは去年の夏、私が繁藤に渡したものです。ここに書き込みがありますが、これは繁藤に渡した名刺にしか書いていないので、それは間違いありません」
「なるほど。それを佐藤という男が持っていたんですね」
 三浦はビニール袋ごとその名刺を受け取った。
「名刺はどっかで拾った、と言われれば、それまでだがや。いい線いってるが、ちょっと弱いな」
 鳥居は残念そうな顔をした。
「その男の人相は、どんな感じでしたか?」と三浦が尋ねた。
 美奈はバッグから二枚のB5判の紙を取り出した。それには男の似顔絵が描いてあった。
「こっちは私が描いた絵、そして、こちらが親友の高橋さくらさんに描いてもらった絵です。私は絵が下手なので、うまく描けていませんが、さくらさんに描いてもらった絵のほうは、かなりその佐藤さんの特徴を捉えています」
 美奈は呼び慣れたルミではなく、本名であり、タトゥーアーティストとしての名前でもある「さくら」と言った。二枚の絵を見て、三浦と鳥居は、顔を見合わせた。
「おい、これはどっかで見たことある顔だがや」
「これは五藤ですよ。足立商事の」
「そうだがや。あいつだ。あいつなら、間違いなく橋本千尋と繋がりがある。なんといっても、元上司だからな。もともと俺たちも五藤には目をつけとったんだが、証拠が見つからんかったでな」
「読めてきましたよ。一億円の横領事件。罪を全て橋本さんになすりつけ、証拠隠滅のために橋本さんを殺害する。その現場を繁藤に目撃され、恐喝される。ついに恐喝に耐えられず、繁藤までをも殺害した」
「そーだがや。まさに完璧なシナリオだがや。これで二つの事件は一気に解決だぎゃ」
 鳥居は勢いづいた。興奮すると名古屋弁が強く出るようだ。
「でも、まずは証拠です。物証を探さなければ」
 三浦は慎重だった。
「そんなもんはいらん。あいつならしょっ引いてちょっと締め上げたりゃ、簡単にゲロしそうだがや」
「それはちょっと乱暴ですよ。鳥居さん」
 三浦ははやる鳥居を制した。
「あの、この前お聞きした話では、繁藤殺害現場には、繁藤のでも麻美さんのでもない毛髪が落ちていた、とのことでしたね。その毛髪が後藤さんのものなら、動かしがたい証拠になりませんか? 繁藤殺害の」
 美奈が提案した。
「おお、そうだがや。おみゃあ、なかなかいいとこに気づいたな。神宮署と合同して、まず繁藤殺しの線から攻めよまい」
「問題はどうやって五藤の毛髪を手に入れるかですね」
「そんなもん、簡単だがや。足立商事の田中真佐美に頼んだりゃあいい。部長の部屋には、いっくらでも毛髪は落ちとるぎゃ」

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