売れない作家 高村裕樹の部屋

まだ駆け出しの作家ですが、作品の情報や、内容に関連する写真(作品の舞台)など、掲載していきたいと思います

『地球最後の男――永遠の命』 第1回

2015-06-10 00:17:42 | 小説
 今年も梅雨入りし、うっとうしい季節になりました。でも、今の時期、雨が降らないと、農業に支障が出ますし、水不足にもなります。
 最近、体調が優れなかったので、昨日、病院で検査を受けました。詳細な結果が出るのは少し後になりますが、胃にいくつかポリープができていたようです。良性だったので、一安心でしたが

 今日から週1回ぐらいのペースで、『地球最後の男――永遠の命』を掲載します。
 昨年文庫本で出版して、まもなく一年になります。
 

 なお、このブログに掲載する文章は、加筆修正などしてあり、文庫本のものとは一部相違した部分があります。

 

            プロローグ 不思議な夢


 男の前に、何か影のようなものが飛んできた。突然目の前に現れた黒い影に、男は思わず後ずさりをした。
 「心配することはない。私はおまえに危害を加えるつもりはない。私はおまえと取引するためにやってきたのだ」
 その影は言った。
 「取引だと? そもそもおまえは誰なんだ?」
 「私は悪魔だ。おまえの魂と引き替えに、どんな望みでも三つかなえてやろう。どうだ、私と契約する気はないか?」
 「悪魔だと? 三つ望みをかなえるだと? 魂と引き替えだと? 願いをかなえてもらった場合、魂はどうなるのだ? いっときの願いがかなう代わりに、永遠に地獄で苦しむのでは、わりが合わないぞ。まあ、俺の場合は死後の生とか、魂や霊の存在など、信じてはいないが」
 その男は悪魔と名乗る影に言った。
 「魂や死後の存在を信じていないなら、いいではないか。私と取引をしないか?」
 「そのありもしない魂をおまえに与えることと引き替えに、どんな望みでも三つかなえてくれるというのか。悪くはない話だな。しかし、もし本当に魂があった場合、ちょっと不安だな。死後、おまえにやるといった魂はどうなるのかね?」
 「死後の生を信じていないなら、説明する必要はないだろう。しかしお望みなら教えてやってもいいぞ」
 悪魔は男に問いかけた。
 「ああ、いちおう聞いておきたいな」
 男は悪魔に要求した。
 「死後、おまえは私の忠実な僕(しもべ)となり、私のために働くのだ。神との戦いなどにも従事してもらう。悪魔も肉体を持っているので、直接神と戦っても歯が立たない。肉体を持たない神と戦うには、どうしても魂だけになった存在が必要なのだ。私が死ねば、魂は解放される。それまでは少し辛抱してもらうことになる。まあ、悪魔の寿命は、人間よりははるかに長いがな。しかし、悪魔に魂を売ったものは、解放されても、地獄行きだ。もっとも人間の多くは死後、地獄行きだから、どうせ地獄に堕ちるなら、生きている間に少しでもいい思いをする方が賢明というものだ」
 「悪魔でも死ぬのかね?」
 「そりゃ、肉体を持って生きているものはいつかは死ぬときが来る。たとえ悪魔や天使でもね。肉体がない神や霊は永遠の命を持っているがね。願いの一つはかなえた。残るはあと二つだ」
 「おい、待てよ。今ので一つか、それじゃあひどいじゃないか。詐欺みたいなものだ」
 「おまえがどうなるか聞いておきたいと言ったので、願いの一つとして、教えてやったまでだ。一つかなえたことにより、もう契約は成立している。残りの願いをあと二つ言うがよい」
 「そんな、勝手なことを。まだ契約するとは言っていなかったのに。しかし、もう契約が成り立ってしまったのなら、悪魔に逆らっても仕方ない。それなら今いちばん望んでいることは、亜由美と結婚したいということだが。彼女は俺に好意は持っているが、その好意も職場の同僚としてのもので、恋人としては意識していないようだ。だが俺はどうしても彼女と一緒になりたい。できるか?」
 「そんなことはたやすいことだ。これでおまえは近いうちに彼女とうまくいくようになるだろう。では、最後の望みはどうする? 今思いつかないなら、また後日でもいいぞ」
 悪魔にそう言われ、男は少し考えた。かなえられる望みはあと一つ。よく考えてみると、亜由美との結婚は少しまずかったかなと思った。確かに亜由美は魅力的な女性だが、この世にはさらに魅力的な女性がいくらでもいる。悪魔の力を借りれば、どんないい女でも、お望み次第だったのだ。最初の願いはくだらないことに使ってしまった。まさに詐欺だと文句を言いたいぐらいだ。残された願いはあと一つ。今度こそくだらないことに使わないようにしたい。
大金持ちになるか、それとも世界の支配者にしてもらうか。悪魔が示唆したように、今思いつきで望みを言うのではなく、時間をおいてじっくり考えるべきだろう。
 男は、それではよく考えて、後ほど願いを言おうと悪魔に告げようとした。
 そのとき男はふと気がついた。「後ほど」と考えたとき、時間の観念が頭の中をよぎった。人間はいくら幸福になったとしても、とどのつまりは死ななければならない。どんな願いをかなえたところで、いつかは死んでしまうのだ。そして、自分の場合は、死んだ後は、永遠といわないまでも、かなり長い間魂は悪魔の奴隷になってしまうという。それに、解放されたとしても、地獄行きだ。
 そのことを考えると、恐怖が男の全身を突き抜けた。男は死にたくないと思った。
 そうだ。人間の最大の望みは、いつの時代でも不老不死。秦の始皇帝も不老不死を求め、結局はかなわなかったのだ。始皇帝に命じられ、不老不死の霊薬を探し求めた徐福(じょふく)の伝説は、日本にもある。いつかは自分自身も必ず死んでしまうのだ、と思うと、恐ろしい。自分がこの世から消えてなくなってしまう、全くの無に、永遠の闇になってしまうと考えると、気が狂いそうになる。たとえ地獄があろうがあるまいが、死にたくはない。男は不老不死を手に入れようと思った。
 しかし、先ほど悪魔は言った。「肉体を持って生きているものはいつかは死ぬときが来る。たとえ悪魔や天使でもね」と。悪魔でさえ、肉体がある以上は、いつかは死ななければならないのだ。それでも悪魔のように長い間生きていられればいい。悪魔の肉体が滅するまで自分も生きていれば、悪魔に俺の魂を奴隷のようにこき使われなくてもすむ。
 「待ってくれ。最後の願いを言おう。三つ目の願いは、俺を不老不死にしてくれ。できるか?」
 「不老不死。できないことはない。だが、それはやめておいたほうがいい。いつかきっと後悔する。私ですら、不老はともかく、不死になりたいとは思わないのだから。死というものは、ある意味、究極の救いなのだ。たとえ地獄に堕ちることになったとしても。地獄に堕ちても、長い年月はかかるが、いつかは抜け出して、高い霊界に行ける。せめて不老長寿にしておけ。これは私の良心から言っているのだ。悪魔が良心というのも矛盾しているかもしれないが」
 悪魔は男に不老不死だけはやめるように忠告した。
 「一つ目、二つ目の願いなら、それはかなえよう。なぜならば、残りの願いで、死なせてくれ、という願いをかなえることができるからだ。だが、おまえの場合は、死にたくなったとしても、もう死ぬという願いをかなえることはできないのだ」
 悪魔は男を説得しようとした。だが、男は聞き入れなかった。
 「いや、不老不死こそ、人間究極の願いではないか。なぜ後悔するのだ? そもそも本来なら三つあるはずの願いが、二つになってしまったのは、おまえの詐欺みたいな話術のせいではないか。ひょっとしたら、不老不死にすれば、魂をおまえのものにすることができないから、そう言うのではないか? 俺は決めたぞ。最後の願いは不老不死にする」
 男は悪魔にそう宣言した。
 「わかった。私はおまえのためを思って忠告してやったのだが、聞き入れようとはしなかった。おまえの願いはかなえるが、どんなことになろうとも、決して私を恨むなよ」
 悪魔はそう言い残して消えた。
 不老不死になって、後悔するはずがない。これこそ人類究極の願いなのだ。永遠の生命さえ手に入れば、どんなことでもできる。時間をかけさえすれば、世界を征服することさえ可能かもしれない。なんといっても、戦争を起こして失敗しても絶対死なないのだし、時間はいくらでもあるのだ。


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