海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

彼に与えられた任務

2011-12-15 18:39:04 | 米軍・自衛隊・基地問題

2011年12月13日付琉球新報掲載

・普天間基地「移設」にむけた環境影響評価書の提出時期について、レイプを比喩に使う。
・一九九五年の少女暴行事件について、兵士に買春をすすめた米軍司令官の発言を肯定する。
・薩摩の琉球侵略について、沖縄の非武装・平和指向を否定する。
・審議官級の話として、来年夏までに「移設」できなければ、普天間基地は固定化すると脅す。
 更迭された田中聡前沖縄防衛局長の一連の暴言に共通しているのは、沖縄に対する暴力的な支配を正当化する論理であり、感性である。酒の席で口にされた本音に示される論理・感性は、たんに一官僚の個性によるものではなく、日本政府の沖縄に対する基本姿勢から生み出されたものだ。それは、沖縄が言うことを聞かなければ、最後は力づくで屈服させ、強権的に支配する、というものである。
 ここでいう力とは、警察や自衛隊を使った直接的な暴力だけを指すのではない。時にそれは、立法・行政・司法を通した権力の行使であったり、振興策や金であったり、メディアや文化を利用した力であったりする。沖縄がどれほど訴えても無視し、無力感に陥らせるというのも、そのような力の行使の一つである。
 田中前局長の暴言には、そのような力を行使する側に立つ者として、沖縄を見下し、意のままにしようという傲慢さが、むき出しになっている。まさに醜さの極みだ。

 十一月二九日付毎日新聞電子版によれば、田中前局長は防衛省の官僚として同期の出世頭であり、八月に沖縄防衛局長に抜擢したのは、北沢俊美前防衛大臣だったという。
 田中前局長は一九九六年七月から約二年間、那覇防衛施設局(当時)の施設企画課長として沖縄に赴任している。二年の間には、名護市で海上ヘリポート受け入れをめぐって市民投票が行われている。当時、那覇防衛施設局は職員をくり出して、受け入れ賛成の集票活動を行っていた。市民投票への露骨な介入に批判が起こったが、三十代半ばの田中課長も精力的に活動したことだろう。
 そういう経験を持ち、沖縄や名護のことを熟知している田中前局長に与えられた任務は、環境影響評価書を沖縄県に提出し、埋め立て許可を申請することで、停滞する普天間基地「移設」の現状を打開し、着工にむけて駒を進めることだった。県民の圧倒的多数が反対するなか、高いハードルを越える切り札として、沖縄に送り込まれたわけだ。
 沖縄がどれだけ反対しようと、あくまで「日米合意」を推し進める。そういう国家意思を体現する人物だからこそ、傲慢な暴言を吐いたのだろう。県民の怒りは当然のことだが、ここで私たちが見落としてならないのは、田中前局長に与えられた任務が、辺野古新基地建設や高江ヘリパッド建設を強行するだけでなく、先島地域への自衛隊配備もその一つであることだ。

 今、沖縄で進められているのは、北は高江(北部訓練場)から南は与那国島まで、琉球列島全体を中国に対抗する軍事的盾にするための基地強化である。政府が口にする沖縄の「負担軽減」や基地の「整理縮小」は、まやかしにすぎない。返還予定の米軍基地は条件付きで、老朽化した施設が最新鋭の機能を持つものへと造りかえられる。
 さらに、尖閣諸島問題を利用して排外的ナショナリズムを煽り、与那国島を皮切りに先島地域への自衛隊の配備・強化が進められようとしている。米軍と自衛隊が一体化し、役割を分担しながら、琉球列島を中国に対峙する前線基地として利用する。それが政府・防衛省のやろうとしていることであり、八重山地区の教科書採択問題もその動きの中で起こっている。
 そのことを見るなら、田中前局長の暴言に露呈している政府の構造的沖縄差別への批判だけでなく、中国に対抗するものとして強化されている日米軍事同盟のあり方と、その法的根拠である日米安保条約への批判が、もっと必要である。
 一九八〇年代までの冷戦期と違い、米国、日本、中国の間では経済的な相互依存が進んでいる。一方で、海洋権益や資源の確保、領土・領海をめぐる対立など政治的緊張をはらみかねない問題もある。米国、日本、中国が東アジアにおける覇権主義的な軍事強化を進め、東シナ海が争いの海と化してしまえば、沖縄は対立と争いの矢面に立たされる。
 沖縄にとっては、米国、日本、中国いずれの軍事強化にも反対し、東シナ海を融和の海にしていくことが、二一世紀を生きていく上で極めて重要である。そのためにも、田中前局長の暴言への抗議にとどまらず、彼が沖縄でやろうとしていたことに反対していく必要がある。「本土」防衛の手段として沖縄を利用する。それを拒否すれば暴力的に支配する。そのような国家意思は、断固拒否すべきだ。

 


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