海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

「靖国合祀取消訴訟」傍聴

2008-12-03 17:57:33 | 靖国問題
 昨日は午後から那覇地方裁判所で開かれた「靖国神社合祀取消訴訟」の第4回口頭弁論の傍聴に行ってきた。原告側が「第2準備書面」と合祀取消を求めている五名の遺族の陳述書を提出し、その内容の説明や今後の進行などを確認して、30分ほどで終了した。そのあと裁判所近くの公園で開かれた報告集会や弁護団会議にも参加させてもらった。「原告ら第2準備書面」を資料としていただいたので、以下に引用して紹介したい。

1.被告靖國神社が原告らの訴えは不適法であるとして却下を求めている理由の要旨は、次の2点である。
 ① 霊爾簿、祭神簿、確認後の祭神名票(以下、「霊爾簿等」と総称する)は、合祀手続きに不可欠であり、その調整及び謹製は合祀という極めて重要な宗教行為の一部をなすから、霊爾簿等は単なる書類ではない(本案前の申立第2の3項)
 ② 合祀に際して遺族の承諾を求めるかどうかの問題も、被告靖國神社の宗教上の教義の当否の問題であって、裁判所法3条にいう法律上の訴訟に該当しない(同4,5項)
2.原告らの反論
 原告らは、被告靖國神社による上記2点の主張に対して、以下の通り反論する。
(1) 霊爾簿等が合祀手続に不可欠であるとの主張に対して(上記①に対して)
 まず第1に、原告らは霊爾簿等の簿冊そのもの、その全体を廃棄せよと請求していない。原告らの敬愛追慕する戦没者の個人名を抹消するよう求めているにすぎない。
 第2に、仮に、霊爾簿等が「合祀手続に不可欠であり、その調整及び謹製は合祀という極めて重要な宗教行為の一部をなす」としたとしても、本件無断合祀が原告らにどのような苦痛を与えているか、その原告らの苦痛を救済するために記載の一部の抹消を命じることが適当かどうかを審理してはならない、という理由にはならない。被告靖國神社は、現にこれまでも、生存が判明した「合祀者」について、霊爾簿等からその者に関する記載を抹消した事実が知られている。
  第3に、宗教上の教義が内心にとどまらず、外部的に具体的な行為を伴った場合は、無制限に許容されるものではない(最大判昭和38・5・15刑集17巻4号302頁、加持祈祷事件)。即ち、本件のごとく、原告ら遺族の明示の意志に反する合祀という具体的・外形的行為の継続は、遺族の信教の自由、思想良心の自由、自己決定権等の人格権を侵害しており違法であり、このような行為まで憲法上保障されているとはいえない。
(2) 法律上の争訟性に対して(上記②に対して)
 ① 被告靖國神社が引用する判例(最判昭和56年4月7日・判爾1001号9頁)は、創価学会の元会員らが創価学会を相手取って、錯誤に基づいてした寄付金の不当利益返還請求を求めた事案に関する事案である(板まんだら事件)。
 判決は、元会員らの主張する要素の錯誤の有無については、「信仰の対象についての宗教上の価値に関する判断」、「『戒壇の完結』、『広宣流布の達成』等宗教上の教義に関する判断」がそれぞれ必要であり、錯誤の内容が直接信仰にかかわるものであって、「法令を適用することによっては解決することのできない問題」であると判断したものである。
 また、同判決は、訴えが「具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとっており、その結果信仰の対象の価値又は宗教上の教義に関する判断は請求の当否を決するについての前提問題であるにとどまるものとされてはいるが、訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものと認められ」、実際上も「訴訟の争点及び当事者の主張立証も右の判断に関するものがその核心となっていると認められる」ことから、「結局、その実質において法令の適用による最終的な解決の不可能なものであって、裁判所法3条にいう法律上の訴訟にあたらない」と判断しているのである。
 そもそも本件訴訟は、上記引用判例とは事案の性質がまったく異なるものである。
 ② 本件において原告らが求めているのは、上記判例でいわれているような、「信仰の対象についての宗教上の価値に関する判断」や「宗教上の教義に関する判断」ではない。被告靖國神社の教義の内容等は、本件請求の判断に不可欠のものではない。 
 本件訴訟の核心は、あくまでも精神的損害を原告らが被ったことであり、本件訴訟物は不法行為に基づく慰謝料請求権である。即ち、違法行為及びこれと相当因果関係にある損害の発生が要件事実である。
 違法行為は、靖國神社が原告ら遺族の承諾も得ずに、かつ原告らによって明確に拒否された後にも一方的かつ継続的に行っている合祀行為である。これと相当因果関係にある損害は原告らの精神的苦痛である。
 合祀に遺族の承諾を求めないことが教義として妥当かどうかは、これらの要件の判断に関係がない。承諾なき合祀の結果こそが審理の対象である。拒否された後でもなお合祀を継続していることが、原告らの権利ないし利益を侵害しているかどうかが審理の対象である。
 確かに、原告らは被告靖國神社の教義や合祀なる宗教行為を受け入れられない。しかし、本件訴訟の場において、原告らが裁判所に求めていることは、被告靖國神社の教義や合祀なる宗教行為に関する判断ではない。自己につながる戦没者の氏名を霊爾簿等から抹消すること、及び原告らが被っている精神的苦痛に対する損害賠償である。裁判所が本件請求原因を判断するに当たって、被告靖國神社の教義内容等に関して、一般的なその妥当性等を判断することは必要でも不可欠でもない。
(3) 従って、本件訴訟は、裁判所法第3条にいう法律上の争訟性を有しており、適法である。

 今後の同裁判の予定は、年が明けて3月10日午前11時から第5回口頭弁論が開かれる。以後、第6回が5月12日午前11時、第7回が7月21日午後4時と予定されている。今後も支援を続けたいと考えているが、この訴訟についての沖縄県民の関心は、大江・岩波沖縄戦裁判に比べてまだまだ低い。「集団自決」(強制集団死)の犠牲者は元より、ひめゆりや白梅、鉄血勤皇隊などの学徒隊員や対馬丸の遭難児童までもが、国のために命を捧げた戦闘協力者として靖國神社に合祀されていることを考えるとき、この裁判が持つ意味は極めて大きい。ぜひ多くの人に支援をしていただきたい。
 「靖国合祀ガッティンナラン!訴訟」と共に歩む会の連絡先は以下の通り。住所のみで電話番号は控えたいと思います。
 〒900-0012 那覇市泊3-13-16

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6 コメント

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Unknown (やんばるっ子)
2008-12-03 21:25:54
「靖国合祀取消訴訟」についてはマスコミ関係者の関心も薄いような気がします。大江・岩波沖縄戦裁判の時のように力を入れて欲しいです。


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身近な靖国・忠魂碑 (京の京太郎)
2008-12-04 09:43:04
読谷の渡慶次小学校の近くのウガンジュの森のなかに「忠魂」の金文字が輝く忠魂碑がある。かっての戦争中の話ではなく今現在のことだ。聞けば読谷の各字にある平和の塔は、かっては「忠魂碑」であったとのことだった。6月23日には慰霊祭が執り行われているが、戦死者への顕彰の色合いが強く残っている。草の根の靖国思想が何の反省もなく生き残っているのではないのか。
読谷で聞いた話
戦争中、召集令状が届くと出征する日に小学校で壮行会が行われる。小学校の校庭に立てられている忠魂碑の前でそれは執り行われた。在郷軍人会、国防婦人会、親族そして全生徒を集めて校長達の訓辞があった。一同のバンザイ三唱の声に送られて出征した。国防婦人会をはじめとして主だった者達は軍歌を歌い行進し、嘉手納の軽便鉄道の駅まで見送りをした。
子供達の心にそり込まれていく「忠君愛国」の魂。
「ワラビンチャー・ヒンギリヨー」
命が使い捨てにされる時代に抗っていきましょう。
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慰霊塔にみる靖国 (京の京太郎)
2008-12-04 22:44:22
若い人にとっては生まれたころに出版された本ですが、ぜひ読んで欲しい本(パンフ)を紹介したい。

「戦争賛美に意義あり!ー沖縄における慰霊塔碑文調査報告ー」発行:靖国神社国営化反対沖縄キリスト者連絡会 発行日:1983年1月31日
定価1000円
私達の生き様も先輩の方々のたたかいの蓄積の上にあることを感謝!しています。現在、絶版なら事務局で再出版をされることを望みます。
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碑文の問題 (目取真)
2008-12-04 23:01:50
私が学生時代、平良修牧師が戦跡地の慰霊塔の碑文の問題を県内の新聞で論じていたのを思い出します。
この問題も改めて論じる必要がありますね。
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もっと支援を (目取真)
2008-12-05 07:43:23
この裁判についてはマスコミの関心もまだまだです。
それだけに身近な人にこの問題を知らせたり、色んな形で支援の輪を広げていくことが大切だと思います。
自分の肉親が靖国神社に祀られているのに、そのことに気づいていない人も多いでしょう。
できるところから問題提起をしていきたいものです。
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通信会員(支援者)募集! (京の京太郎)
2008-12-05 12:36:40
靖国合祀ガッテンナラン!訴訟団の
通信会費は、年 2000円。
郵便振替口座番号:01780-9-134886
郵便振替口座命:靖国合祀ガッテンナラン!訴訟団
ニュースは2~3ヶ月に一度の割合で発行予定。
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