海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

住基ネットによる結核・がん患者把握

2008-12-19 19:12:24 | 住基ネット・監視社会
 12月16日に兵庫県議会が、結核やがん患者らの所在確認のために住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)を利用できるようにする条例改正案を可決した。〈市民団体「兵庫県住基ネット訴訟団」が「公益性や必要性があるか疑問」として県に質問状を提出。県医師会も「最もデリケートな疾病管理にかかるもので納得できない」と慎重な対応を求める陳情書を県議会に出し〉(共同)ているのを無視しての決議である。
 総務省によれば、〈こうした利用法は全国初ではないか〉という。11月22日の反住基ネット沖縄主催の講演会で白石孝氏が、住基ネットの利用拡大で兵庫県は突出している、と話していたが、今後他の自治体にも同様の動きが拡大しないか懸念される。
 以前にも本ブログで触れたが、結核やがんなど特定の疾病の追跡調査に住基ネットが利用されることは、新たな差別を生み出しかねない危険なものだ。予防という「大義」を立てて個人の疾病を公が管理・監視するのは当たり前とする発想は、個人の心情や意思、家庭の事情、社会的立場などを無視するものであり、個人の人権よりも行政の効率性を優先するものだ。そこには「らい予防法」を支えていた発想につながるものがある。現代の管理・監視システムはより巧妙となり、強制隔離されることはなくても、住基ネットを活用して強制的な所在把握=管理が罹病後ずっと続くのだ。
 自治体=公が追跡調査という形で患者・元患者を管理することは、住基ネットの利用の有無にかかわらず、患者・元患者の人権を脅かす危険性を孕んでいる。どのような調査手法であれ、優先されるべきは患者の意思と人権であり、そこに細心の注意が払われねばらない。住基ネットの利用は、行政事務の効率性を優先させることが第一義とされ、人権無視の度合いは格段に酷くなるのである。
 やれメタボ対策だの禁煙推進だの「健康」を前面に出して自治体や国が市民管理の強化を進めている。一見、健康増進につながっていいではないか、と思いかねないが、医療・福祉などの予算を削減しておきながら、自己責任を強調して社会的弱者を切り捨て、市民の肉体まで自治体=国の管理下に置こうとする動きには、よくよく注意しなければならない。昔からファシズムは健康が好きなのだ。
 また、病歴情報が住基ネットで管理されるようになれば、生命保険会社などその情報に価値を見出す企業に売ることを狙い、住基ネットへの侵入や情報入手を目論む者も増えていく。当初から指摘されているように、住基ネットの利用拡大が進んで個人情報が集まれば集まるほど、情報流出の危険性は拡大するのだ。全国民に割り当てられる11桁の番号、つまり国民総背番号である住基ネットは、生涯にわたって個人情報が同一番号に集積されていく。その情報を悪用しようとする闇世界の住人にとって、医療や社会保険、納税、購買などにまで住基ネットが利用されるようになれば、その価値は飛躍的に増大する。
 財政危機に陥る自治体が増えてセキュリティ予算が削減され、正職員の削減と非正規職員の増加、民間委託拡大が進むことで市民情報の管理は危うくなる一方なのに、住基ネットの利用拡大がなし崩し的に進んでいる。その危険性に市民はもっと注意を向ける必要がある。行政が持つ膨大な市民情報の流出によって被害を受けるのは私たち一人ひとりなのだ。

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