上がオリジナル・カヴァ(但し、国内盤)、下は1988年、西ドイツ(当時)で再発されたカヴァです。オリジナルはパッとみた感じはマイルスに見間違えてしまうほどそっくりです。それに比べ、再発盤のマギーは彼の裏人生が皺と共にそのまま刻み込まれたヤクザな顔で映っている。
この2枚を載せた理由は、再発に当って全8曲中、4曲がオルタネイティヴ・テイクに差し替えられ、その内のA-1(The Sharp Edge)とB-1(Arbee)の曲名が入れ替えられている。しかも、ワケは定かでありませんが、ライナー・ノーツでも変更されており、単なるミスではない。
その4曲の違いは、ザクッと言うと、マスター・テイクはコントロールを利かせた完成度重視の演奏で、それに対し、オルタネイティヴ・テイクは自由奔放さと躍動感が強く出ている。優劣の差は全く無く、好みで言えば、オルタネイティヴ・テイクの方を取りたい。
マギーはバップ・トランペッターの系譜上ではガレスピーに続く№2で、1949年にはDB誌の人気投票でポール・ウィナーを、メトロノーム誌でも47~51年にかけて常に4位以内にいた実力者で、F・ナバロにも大きな影響を与えた「大物」です。ただ、彼も「ヤク」という悪習から逃れ切れず、その才能を充分に開花させれなかったのは、真に惜しい。
マギーがモダン期に入って、散発的に発評した作品は、どれもかっての「大物」の面影と、当時の「苦悩、もどかしさ」が同居し、翳りを漂わせた「マギーの世界」を愛するファンは少なくない。コールマン、マンス、コブをはじめとするモダン派を引き連れた本作は、そうした諸作の中で、マギーの大物ぶりの片鱗をストレートに聴かせる一枚。
特に、曲名を入れ替えられたA面、B面のTOP2曲でのマギーのHOTなプレイと全員が一丸となるノリの良さは格別です。‘Shades Of Blue’での渋いミュートも聴きもの。バラード曲、‘The Day After’、‘Ill Wind’の味を含んだ表現力、小粋なラテン・タッチ曲‘Topside’等々、収録時間の長短が気になりますが、プログラミングもなかなかのもの。
ラスト・ナンバー‘My Delight’、ダメロンの名作‘Our Delight’と感違いしがそうなフリーマン・リーというtp奏者の作品。マンス、マギー、タッカー、コールマンとミディアム・テンポに乗ってアフターアワーズの流れが心地よい。ダウン・ツー・アースでありながら小洒落たマンスのp、タッカーのボリュームあるb、コールマンも上々です。
ただ、コールマンのtsが録音上、OFF気味なトラックが有り、「音」がもう少しマシならば、もっと注目されたでしょう。オリジナル盤はどうなんでしょうか。録音は1961年12月8日、NY、レーベルはBLACK LION。
こちらは直近に入手した一枚。”LIVE AT EMERSON'S / HOWARD McGHEE SEXTET”
1978年5月11日録音で、この種の音源には、マギーの活動空白期間、ライヴもの等、状態+音質が不安視されますが、全くの杞憂に終わりました。ヘロインの悪魔の手から開放されたかのような熱く、切れの良いマギーのtpが流れる。ビパップ寄りのものからハード・パップ、そしてジョビンの”Meditation”まで、ここには「漂流する陰影」の姿はなく、代わりにtpを思い切り吹ける喜びに満ちている。オーディエンスの反応も極、自然でF・ウエス、C・ラウズの好サポートも聴き逃せない。拾い物でしたね。
1987年7月17日、NYで死去、享年69。愛すべき無頼派トランペッターでした。