jazz and freedom and avenger

勝手気ままな戯事日記 暇つぶしに・・・・

BILL EVANS 晩年の三作から ・・・・・ YOU MUST BELIEVE IN SPRING (その二)

2020-07-30 |  Artistry of Bill Evans

 

米国盤の音の特長は、カッティング・レベルが高いと言うより、SPからの「音離れ」が良く、ボリュームを上げなくても音が確り前に出てくる。エヴァンスのpも音が煌めき、これ以上はケバイ、下種っぽくなる寸前で止まっている。

Warner Bros.の「音」の狙いは、オーディオ的見地よりも一般的な音響システム、環境でエヴァンスの魅力を最大にプレゼンテーション出来る「音造り」を優先したのではないかな。ゴメスのbも誇張気味な面も否めないが、音に色、表情が乗り、粘りも生まれエヴァンスとの呼応が以前より聴き取れるレベルに至っている。つまり、出来る限り多くのジャズ・ファンに本作の良さをダイレクトに伝えたいという方針からなのでしょう。加工臭が少ない自然なサウンド・クオリティを求めるならば、噂のドイツ・プレス盤等々が候補に挙がってくるでしょう。

Warner Bros.の作戦は大成功となったけれど、リリース後、すんなりと評価、人気が上がったワケではなく、一つの壁がたちはだかった。それは、A-4の”We Will Meet Again”がJ・グリフィン(ts)の十八番ナンバー”Hush A Bye”にソックリというパクリ疑惑が表立った。同曲はリリース上、前作となる同名のレコードにも収録されており、81年のグラミー賞受賞(前作)により公に不問が確定し、今では、一部から最高傑作とまで崇められるようになり、ファンのエヴァンス復権の願いが叶った「起死回生の一発」ですね。

その余波で今でも、歴としたレーベルから怪しげなブートまで発掘音源が賑やかですが、アタリ、スカを問わず、「聴いてみたい」と思わせる不動の人気を保っている。

好きな曲は、名もなき小品A-3”Gary's Theme”、エヴァンスの懐の広さ、深さを感じさせるリリシズムは無量無辺。

B-2”Sometime Ago”、ゴメスのメロディアスなプレイが聴きものですね。

 


BILL EVANS 晩年の三作から ・・・・・ YOU MUST BELIEVE IN SPRING(その一)

2020-07-25 |  Artistry of Bill Evans

 

「起死回生の一発」、又は「逆転満塁サヨナラホームラン」と称したら、「確かに!」と思うリスナーと「何それ?」と思うリスナーの割合はどうなんだろう?40年も経てば世代交代も含め、恐らく後者の比率が高いだろう。

もし、この作品が無かったならば、エヴァンスは「あの四部作と60年代限定」の伝説的ピアニストで終わったリスクも無きにしも非ず、と言ったら信じてもらえるかな(笑)。ま、この感覚はリアルタイムで体験しないと分からないかもしれない。

70年代、新しい試み、チャレンジとレコード・セールスの狭間で自分のスタイルに揺れ、晩年の評価、人気は苦しかった。

Warner Bros.に移って最初の録音(1977/8/23~25)にも拘わらずリリースは死後の81年まで先送りされた。そのワケはFantasyの最終録音盤”I WILL SAY GOODBYE”(1977/5/11~13)が1980年の初めまでリリースされず、同じトリオが続くことを避ける内にタイミングを逸していたとされる。リリース決定権がどちらにあるか契約条項で変わるけれど、それだけセールスに繊細だったのだろう。

しかし、結果的に幸運だった。Warner Bros.は追悼盤としてリリースに当り、ヒットさせる戦略を練り、Fantasy時代のウィーク・ポイントだった「音」に着目し、マスタリングをDoug Sax率いるマスタリング・ラボに依頼している。また、タイトル曲だけに?具体的な処理は分らないけれどAdditionaⅼ Remix and Editingとして他の3作、全て録音しているColumbiaレコードのFRANK LAICOを起用している点も興味深い。またカヴァも気を配り、Fantasyの追悼盤の酷さと雲泥の差ですね。

リリース当時、押しの効いた音が評判でした。

最近、ドイツ・プレス盤のナチュラルな音が巷で話題になっていますが、残念ながら未聴です。

久し振りに聴いてみましょう。

用意したカートリッジはSHURE V15 typeⅤ、スタイラスはMR、シェルはオーディオ・クラフトのAS-4PL。

 

 

上下2本のダブル・ピンに加えツメが2ヶ所設置されたパーフェクト・ロック・タイプです。リード線はシェル側が直付けで接点ロスを極力避けています。更にセラミックスのスペーサーを挿入し無駄な振動を抑え、音像をくっきりさせています。

 

 

ちょっと長くなりました、続きは次回に。

 

 


BILL EVANS 晩年の三作から ・・・・・ WE WILL MEET AGAIN

2020-07-22 |  Artistry of Bill Evans

 

前回の続きでupするアルバムを録音順かリリース順にするか、少し考えリリース順で”WE WILL MEET AGAIN”を。FantasyからWarner Brosに移り4作目(録音)、リリースすることを前提とした最後のスタジオ録音。

クインテットですが、tpが入るのは「インタープレイ」(1962年)のハバード以来ではないかな?

このレコードの特異な所は、収録時間の長さでA面約32分、B面約28分、計60分とCD並みです。凄い技術力ですね。CDはまだ実用化されていない。

興味深い点は、録音がColumbia(NY)のスタジオで行われ、エンジニアはFRANK LAICO。彼はColumbiaの録音担当社員(多分)なのでColumbiaのレコードにはクレジットされないが、他レーベルなのでクレジットされたのでしょう。好録音で知られるマイルスの”Someday My Prince ・・・・”等々の録音担当をしている知られざる優秀エンジニアですね。

Warner Brosの前2作も彼の手で録音されている。ひょっとしてFantasyの音に満足していなかったエヴァンスがLAICOをリクエストしたのかもしれません。本作の音は明らかにFantasyと異なり、粒立ちが良くなっている。

プライベートでは決して良い状況ではなかったけれど、未来に向け何か意を決したような明るいエヴァンスが聴けます。開き直ったと言ってもいい。ただ、ソロ2曲を除き、各曲の演奏時間を長くした分、ハレル(tp)、シュナイダー(ts、ss)の力量が問われる展開だが、エヴァンスは無頓着でロング・ソロを吹かせ、イマジネーションが尽きた二人が苦しそうな場面も散見される。

ハレルは良いトランペッターなので、実力を発揮するシチュエーションをちゃんと用意してあげれば、もっと貢献できたのでは?また、二人の力量に合わせ、ソロ構成を工夫すると良かったんじゃないかな。

でも、その大らかさがエヴァンスの場合、メンタル面良好のバロメーターに繋がっている反面、問題はフィジカル面か、残された時間は僅か1年だった。

 

 

 


BILL EVANS 晩年の三作から・・・・・ I WILL SAY GOODBYE

2020-07-19 |  Artistry of Bill Evans

 

J・マンデル絡みでエヴァンスの晩年作を取り出した。マンデルの曲を収録しているのは左の二枚ですが、この際、まとめて。

リアルタイムでこの時代のエヴァンスを聴いていた者にとって、当時を語るには辛いものがあり、なかなかキーボードが進まない。

この頃のエヴァンスの評価、人気は現在では信じられない位落ち込み、「もう、あかん」ならまだしも、公然と「カクテル・ピアニスト」と名指しする者も現れるほどで、もし、「起死回生」の一発となった真ん中の”YOU MUST BELIEVE IN SPRING”がなかったなら、「エヴァンス伝説・人気」今ほどではなかっただろう。”QUINTESSENCE”(1976年)辺りから自分の中でそろそろ「ヤバイ!」と思うようになっていた、のも事実です。

この3枚の裏事情からも、エヴァンスの微妙な立ち位置が朧気ながら掴める。

まず、録音日は、左から順に、

① ”I WILL SAY GOODBYE”(FANTASY)  1977/5/11~13

② ”YOU MUST BELIEVE IN SPRING”(Warner Bros) 1977/ 8/23~25

③ ”WE WILL MEAT AGAIN” (Warner Bros) 1979/8/6~9

そして、リリースは、

①は1980年1~3月ごろ

②は死後翌年の1981年

③は1980年3~6月ごろ(一説には1979年末)

つまり①、②は所謂「お蔵入り」状態になっている。なお、エヴァンスが亡くなったのは1980年9月15日。

 

①はFantasyでのラスト作。

 

最終作なので「立つ鳥跡を濁さず」とでも言うのでしょうか、思わせぶりなタイトルとカヴァの割に澄ましたプレイに専念している。エヴァンスとFantasyの音はあまり相性が良くないせいか、クリアだけど高域が薄く派手なのでプレイ自体が軽く感じられ、更にゴメスのピック・アップで増幅したbが相変わらず味気ないのも難点ですね。録音技術のせいかもしれない。

全体に及第点はクリアしているけれど、エヴァンスにしてはなにか物足りない、どこか気取っていて、もう少し深みが欲しかった。

リリースを先延ばししたのはエヴァンスの意向なのか、Fantasy側の事情なのかは兎も角、それなりの理由を孕んでいる。

今回はこの一枚で。辛口でゴメン。


SPIKE ROBINSONの名バラード ”THE SHADOW OF YOUR SMILE”

2020-07-11 | ジャズ・ts

 

先月末、”The Shadow Of Your Smile”の作曲で知られるJOHNNY MANDELが亡くなりました。

S・ロビンソンのテナー・バラードで追悼を。

ロビンソンは米国人ですが、イギリスに憧れ、移住し演奏活動を広げたため、ヨーロッパ・ジャズを聴いているファンには馴染みが有りますが、一般的にはマイナーな存在ですね。透明感あるサウンドと良い意味での保守派で、イメージとしてはGETZが一番近いスタイルと思います。

この作品は1985年7月17日にロンドンのクラブ”THE BASS CLEF”でライブ録音されたもので、同曲を含めLPのタイトルになっている”Spring Can Really ・・・・・・”を始め”Ghost Of A Chance”、”Talk Of The Town”等々、選曲が素晴らしくバラードを中心とした「大人のジャズ」を堪能できます。また、T・BEAMENT(p)、P・IND(b)、B・EYDEN(ds)リズム・セクションとの息もピッタリ合っています。

魅惑的なメロディを暗示するかのようなイントロが殊の外良く、徐々に盛り上げていく展開が絶品です。

 

ここまでくると、以前UPしたA・ペッパーの”The Shadow Of Your Smile”も載せないわけにはいかないですね。

1979年7月の来日公演、”LIVE IN TOKYO  BESAME MUCHO”です。

 

 

今日はじっくり、この二曲、二枚を聴きました。

J・マンデル、ありがとう。