そう簡単に気持ち良くスイングさせないぜ、と言わんばかりのHILL。
躓かされたり、けたぐられたり、或いは下りの坂道によくある居眠り防止装置、時にはオフ・ロードを運転させられているような、そんなピアノのイメージが・・・・・・・。
ただ、BNでサイドとしての初セッション、OUR THING / JOE HENDERSON”(1963.9.9)や2回目のセッション、”NO ROOM FOR SQUARES / HANK MOBLEY”(1963.10.3)を聴く限り、タイム感覚に多少の特異性を感ずるもののちゃんとスイングしている。それどころか、”NO ROOM FOR SQUARES / HANK MOBLEY”での“Carolyn”とタイトル曲では神秘性に富んだ素晴らしいソロを聴かせている。
だから、自分の中ではDB誌で最高の五つ星を獲得したHILLのBN初リーダー作、僅か一月後の”BLACK FIRE"(1963.11.8)となかなか結び付かない。
確かに演奏レベルは高いと思う、けれどもライオンの期待の現れとも言える造り込み感もそれ以上に強い。どこまでHILLの本心なのか?とさえ・・・・・
好みの尺度で言うと、あまり好きではない。もう一つ理由はR・ヘインズのds、この人は手数、おかずが多く、しかもパターン化され意外に引き出しの数が少なく、出来、不出来の差が激しいとの評判も。背後でちょっとゴソゴソ五月蠅いですね。
かって音楽評論家・黒田恭一氏は本作を「おもしろくない、それより‵Compulsion’の方が素晴らしい!」と論評している。理由は分からないけれど、自分はオフ・ロードをオフ・ロード仕様の車で走るより、ノーマルな車で走っ方が非日常的でスリリング、と勝手に推測している(分ったような分からない低次元の表現ですが・・・・・)。
もう一枚、“SMOKE STACK”
これも僅か一月後(12.3)の録音された2ベース(E・KHANと同じR・DAVIS)のカルテット。dsも同じR・ヘインズ。
”NO ROOM FOR SQUARES / HANK MOBLEY”で意外?にも抜群の相性の良さを見せたフィリーをどうして起用しなかったのか?このセッションのHILLは本当に生き生きしているのに。
最近になって当初はフィリーの予定だったが都合が付かなくなり、ヘインズが急遽、代役になった話を知り長年の疑問が氷解しました。もし、予定通りに進んだならば、傑作が誕生した確率は極めて高かく惜しい!これも運命のいたずらなのかな。
但し、ヘインズのピンチヒッターは”BLACK FIRE”の時だった可能性の方が高いようです。
因みに本作の発表は3年後の1966年になってから。
翌1964年1月8日録音のdsにE・ジョーンズが入った“JUDGEMENT”がリアル・タイムで先にリリースされている。