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jazz and freedom and avenger

JAZZを聴きながら勝手気ままな戯事日記 暇つぶしに・・・・

「判官贔屓」の最右翼 ・・・・・ MINOR MOVE & THE WAITING GAME / TINA BROOKS

2025-04-11 | ジャズ・ts

 

不幸、不運の名が付くジャズ・マンは数多いるけれど「判官贔屓」という四字熟語がピッタリ嵌るとなれば、TINA BROOKSの右に出る者はいない。何せ4枚のリーダー作の内、3枚がリアルタイムでボツ(お蔵入り)、また、重度のヘロイン中毒が元で42歳の若さで亡くなり、生存中に発表されることも無かった。

その4枚とは、「マイナー・ムーヴ」(1958.3.16)、「トゥルー・ブルー」(1960.6.25)、「バック・トゥ・ザ・トラックス」(1960.10.10)、「ザ・ウェイティング・ゲーム」(1961.3.2)で当時リリースされたのは2作目の「トゥルー・ブルー」のみ。3作目の「バック・トゥ・ザ・トラックス」は2018年3月に既にUpしているので、今回は1stとラスト作をピック・アップ。

1980年に日の目を見た幻の初リーダー作、”MINOR MOVE”、メンバーが凄いです。モーガン、クラークは既にリーダー作をリリースしており、ワトキンスは兎も角、皆、格上の存在ばかりですね。

妙なことに同じ中毒同士のモーガンにしてもクラークにしても、この新人を前向きにサポートしようとする気配が希薄で、自分のミッションを淡々と熟し、ブレーキーにしても成り行き任せで、しらっとした空気の中、BROOKSが孤立している様子が浮かぶ。まるで辺りを警戒するカヴァの黒猫のようだ。一体感に欠けて散漫、と言うのが今までの本作に対する印象だった。それにスタンダードを3曲も入れたのも、ブルックスにはまだ荷が重たかったのではないか? ライオンはブルックスにリーダーとしての実力を果たして見い出していたのだろうか? 期待を込めてギャンブル的に出た可能性を排除できないなぁ(笑)。二作目の「トゥルー・ブルー」まで二年超(修業 or 治療期間? )を要している。

 

 

 

ラスト作になった”THE WAITING GAME”、この音源はモザイクのBOXセット”The Complete Blue Note Recording of The TINA BROOKS QUINTETS”で発売済み(1983年頃)でしたが、単体で初めて世に出たのは38年後の1999年にCDで。

ペイズリー柄のシャツ、そしてワインレッドの一色刷りが憎らしいほど決まっている。それにアングルが抜群ですね。撮影したのは勿論、F・ウルフです。6曲中、BROOKSのオリジナルが5曲を占め、スタンダードを1曲に絞っている。

 

ライオンがリリースを渋った理由は何だったのだろう? BLUE NOTEでは珍しいJ・コールズ(tp)はやや浮いている感じがするけれど、それは計算ずくで、問題はpのドリューではないかな? あの”BACK TO THE TRACKS”や 自己の”UNDERCURRENT”(4059)辺りでは良いpを聴かせているけれど、ここでは楽天的で饒舌なワンパターン・プレイがコールズ、ブルックスの持ち味をスポイルしている感がする。どうしたのだろう?

 

 

ブルックスの録音は本作が最後となる。二ヶ月前にサイドとして吹き込みに参加した“REDD’S BLUES / FREDDIE REDD”もボツになっており、この頃から、ティナ・ブルックスの名はジャズ・シーンの舞台から消えていった。1974年8月13日に亡くなっているが、もう数年間、tsを吹いていなかった、否、吹ける状態ではなかったそうだ。薄幸を絵に描いたような二流ts奏者だがネームバリュー、人気は一流に引けを取らない。

ライオンが三作もリリースに首を縦に振らなかった真意は、今となっては藪の中だが、辛い言い方だけれど歴史も嘘をつかなかった。その代わりに我が国では「判官贔屓」という特有の感情・同情論により、TINA BROOKSの名はビギナーでも知らぬ人はいないだろう。巷での高評は、皆、承知の上ですね。


思い違いのBLUE NOTE4249 ・・・・・ A NEW CONCEPTION / SAM RIVERS

2025-02-22 | ジャズ・ts

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DUのウォントリスト(先々回 Up)の中の”A NEW CONCEPTION / SAM RIVERS”の所有盤は掲載されている青白LIBERTYラベルのMONO盤BLP4249で、てっきりSTEREO盤と思い違いしていた。いつ頃、どこ(多分、東京)で購入したか、ハッキリした記憶がない。カヴァの右上にやや剝がれた個所があり、プライスも4~5千?が付いていたけれど、珍しかったので、割り切って購入した。でも、それが正解、その後、一度も見かけていない。そしてこのような形で現れるとは(笑)。

”FUCHSIA SWING SONG”、”CONTOURS”に続く三作目、意表を突きスタンダード・ナンバーばかりの構成。録音された1966.10.11辺り、リバティの傘下に入った時期と重なり、ライオンはプロデュースに参加していたのだろうか? アヴァンギャルド色の濃いリバースにしては飄々と演じている。ただ、一曲にts、ss、flの3本を入れ替り鳴らされたりすると、下手物のイメージが映り、メリットがあるとすれば、こうしてレア盤扱いに名を連ねるぐらいだろう 😢

前2作は、内容が濃く、特に”CONTOURS”は個人的にBLUE NOTEレーベル、最大の「隠れ名盤」の一枚と思うだけに、比較される運命は否めない。なお、4作目"DEMENTIONS & EXTENSIONS"はリアルタイムではリリースされず、後年、日の目を見ている。

 

改めて聴き直すと、予想外の展開が待っていた。「音」です。端から録音からカッティングまで全てGELDERが担っていると思い込んでいたけれど、聴き慣れている「音」とどこそこ違っていた。スカッとした混濁感のない、空に例えるならば「快晴・真っ青」に少なからず引っかかるものがあったのも事実。ギャルパーのpなんか、鼻詰まりせず快適に鳴っている。でも、100%思い込んでいるので「イャ~、ゲルダーも時代の変化に上手く合わせたのか、この音、いいね」なんて、呑気に納得していた。

1ミリの疑念を取り除くため最後の最後、レコードのラン・オフ部分を見て愕然とした。あるはずのVAN GELDERの刻印が無いではありませんか!慌ててウォントリストで確認するとVAN GELDER印と明記されている。という事は所有盤は再発盤となります。でも、なぁ、リバースには悪いけど、もうSTEREO時代にこのレコードのMONO盤をわざわざ、別の人がカッティングして再発するかな? いやいや、何事も決め付けはいけませんね、あるからレア盤としてリストに載っている、と考えるのがノーマルです。

屁理屈を言うつもりはないけれど、何も知らずに聴けば大半の人達が「BNのGELDERのMONO盤って、やはり良い音だね」と答えると思う。ゲルダー特有の 毒気は薄いけれど、この見通しの良い音、好きです(笑)。チャンスがあれば、刻印有り・無しを聴き比べたい。


歳の取り方 ・・・・・ DOUBLE RAINBOW / JOE HENDERSON

2025-01-31 | ジャズ・ts

 

30年も前の作品を初めて耳にした。ずっと気にはしていたけれど、避けていた理由は1990年代に入りVERVEからリリースされた一作目”LUSH LIFE”が世評の良さに反し、今一つピンと来なかった。それどころか”LUSH LIFE”、二作目の”SO NEAR, SO FAR”までもグラミー賞を受賞したとあっては、カルロス・ジョビンの作品にフォーカスを当てた一枚と雖も、本来ならばよだれが出そうですが、手に取ることはなかった。

ヘンダーソンとボサ・ノヴァとの組み合わせは意外と言う評、コメントをよく目にするが、MILESTONEからの一作目”THE KICKER”(1967年)に収録されているジョビン作”O Amor Em Paz”を聴いた時、自分の文脈に落し込み、自分の語法でしっかりと謳うヘンダーソンのボサ・ノヴァにグッと惹き込まれ、いつかボサ・ノヴァ集を出してくれないかなぁ、と密かに願ったほどです。先日、ひょんな所で目の前に輸入盤CD(VERVE)が、しかもワンコイン(500円)とは!、もう救出するしかないですね。

SuiteⅠはブラジルのミュージシャンとのボサ・ノヴァでメロディのフェイクが巧みです。SuiteⅡはハンコック、マクブライド、ディジョネットという黄金トリオを配した純ジャズと言ってよく、中でもかっての熱き血潮を彷彿させるガチな”No More Blues”は圧巻です。

本作を一言で表せば「マチュア」(円熟)ですが、素晴らしい出来映えで「良い歳の取り方をしましたね」と付け加えたいです。例えるならば、街で偶然見かけた昔の彼女がより綺麗になっていて、立ち尽くすイメージです。自分にとってこちらがグラミー賞受賞作。

 

BLUE NOTEからRIVERSIDEに移籍した第一作”THE KICKER”(1967年録音)。滅多に日が当たりませんが、結構、好きな一枚。

 

B・ストレイホーン作の”Chelsea Bridge”、M・ディビスの”Nardis”、そしてジョビンの”O Amor En Paz”の三曲が収録されていて、奇しくも晩年期のヘンダーソンの名声を高めたVERVEの作品群に絡んでいる。

最後に余計な事を、

グラミー賞を二年連続して受賞(VERVEの強力なお膳立て)したヘンダーソンは思い上がって「今の俺は昔のオレとは違うぞ!」とばかり、ライヴのポスターの一番上に自分の名が無い、とドタキャンしたり、録音をすっぽかしたりして顰蹙を買っている。演奏面とは真逆で両立は難しいかなぁ。心情的には兎も角、調子に乗り過ぎると碌なことはありません。


B面のTOPが決め手! ・・・・・C・HAWKINS ENCOUNTERS B・WEBSTER

2024-12-18 | ジャズ・ts

 

些か味気無いカヴァのせいか、それともメンバーから容易に推測できる演奏スタイル、内容なのか、巷での評価、人気はそれほど高くない。恐らくホーク、ベン、其々、単独で良い作品があり、エアポケット状態なのだろう。たまに覘く円盤屋のエサ箱にも安価で常時在庫(国内盤)としてよく見掛ける。

でも、この作品は「B面を聴く」と言うスタンスを取るとグッと価値が上がります。ピアノのイントロの後、サブトーンをたっぷりと染み込ませたベンのテナーが地を這う様に流れ、聴き慣れたメロディを歌い出すと、「あれ、”You’d Be So Nice ・・・・・”はペッパー一択(インストもの)のはずだが?」と怪訝に思う人は少なくないだろう。ピーターソンのブリッジ的なソロの後のベンのtsがまた、良いんだなぁ、ホント、「人誑し(ひとたらし)」ですね。このままでは「す〇こまし」になりかねない、と危惧した?(笑)ホークがマイクを取って換わる、と言った展開が目に浮かびます。

続く、”Prisoner Of Love”も良いし、3曲目”Tangerine”のバラード、二人のソロ、最高です。

 

日頃、モダンを中心に聴き、それ以前のスタイルのジャズをあまり注視していなく、ある時、あるジャズ・バーでこのアルバムが掛った時、タイトルが分からなかった。その時もA面ではなくB面だったので、知っている人は知っていますね。さすが二人の巨匠、この位、朝飯前の出来かもしれないが、時の審判に色褪せる事なく、未だに鮮度を保っている。

検事の耳で聴く類のジャズではなく、このB面をさり気なく、毎日流すジャズ喫茶、ジャズ・バーは自然と人が集まる気がする。


I REMEMBER GOLSON (そのⅡ)・・・・・ IMAGINATION / CURTIS FULLER & NEW YORK SCENE / BENNY GOLSON

2024-10-13 | ジャズ・ts

 

今では、メジャー・リーガーの大谷翔平選手を二刀流ではなく、「走る」を加えた三刀流と言った方が合っているのではないか。60年以上も前、ハード・バップ全盛期、ジャズ界にも三刀流がいた。「作曲・編曲・ts奏者」として三面六臂の活躍を見せたBENNY GOLSON。作曲、編曲の功績はエスタブリッシュされた評価を受けているが、以前、編曲(ゴルソン・ハーモニー)について若手のひよこジャズ・ライター達に「ダサい」等々、ネガティブな風評をネットで晒された。また、個人のサイトも風評のパクリに汚染され始め、他の要素も合わせて某雑誌の元編集長から「ネットはバカをあぶりだす」と迷言まで飛び出した。中には「自分のサイトもバカなのか?」と問い質した自信家サイトも出る始末であった。

そもそも、ゴルソン・ハーモニと言われる編曲は、主たるソロを最大限に生かすためのあくまで従の存在で、編曲を誇ったりせず、時には日陰の働きも辞さない関係である。重箱の隅を楊枝でほじくるような耳では、ゴルソン・ハーモニーを理解することは難しい。ま、炎上商法の走りだったかもしれない。

無駄口はさて置き、今回、追悼に選んだ一枚は、プレステージ、リバーサイドにリーダー作があるにもかかわらず、また、フラーのリーダー作の”IMAGINATION”。理由はSAVOYらしくソロに力点を置き、TOPの”Kachin”を始めゴルソンのtsが冴え、ts奏者としての力量が凝縮されている点と、編曲は必要最低限に抑えられ意外に思える人選、T・JONES(tp)とM・TYNER(p)がスパイシー役となり既成のイメージと異なる味が出ている。また、後にコルトレーンのグループの一員になるTYNERとGARRISONの組み合わせも興味深く、GARRISONのズンズンと背後で演奏をプッシュするbも聴きものです。B面の2曲の心地良いルーズさは厳しかった残暑の疲れを癒してくれます。それに説得力に乏しいシュール画のカヴァとスタンダード曲の”Imagination”を絡ませるSAVOYのセンスには畏怖さえ覚えますね(笑)。

 

 

〆はやはり、リーダー作で。N・ヘントフの肝煎りでコンテンポラリーに吹き込んだ初リーダー作”NEW YORK SCENE”(1957年録音)を。

 

柔やかなゴルソンの眼には既に「ゴルソン・ハーモニー」が映っていたのだろう。 R.I.P BENNY GOLSON


絶頂期の残像 ・・・STELLAR REGIONS / JOHN COLTRANE

2024-09-04 | ジャズ・ts

 

本作はコルトレーンが急逝(1967年7月14日、肝臓癌)する5ヶ月前に録音されながら、1995年に初めて(1曲を除き)日の目を見た音源(輸入盤CD)。久し振りにコルトレーンのIMPULSE後期の一枚を聴いた。

得体の知れない何かがこちらに向かってだんだん近づいて来るような不気味を雰囲気をアリのdsが醸し出し、左チャンネルから、コルトレーンの魂のかたまりのようなテナーが低く、深く響き亘る。横っ腹に強烈なボデー・ブロウを叩き込まれた感じを受け、明るかった部屋がたちまち暗くなり、まるで60年代後半、伝説の「あの頃のジャズ喫茶」と化す。一気に11曲(オルタネイト・3曲含む)を聴き通す。そして、もう一度、聴き直す。本作には、後期コルトレーン・シンドロームに悩むジャズ・ファンが恐れるラジカルなプレイはかなり退いているけれど、コルトレーンの音楽自体が持つ密度の濃さにテンションは張りっ放し。中でも2曲目の”Sun Star”が素晴らしい。
印象的なカヴァの写真は「クル・セ・ママ」と同時の別ヴァージョンで、Chuck Stewartが担当している。David  Wildが書いたライナー・ノーツに目を遣ると、本作に収録されている‘Offering(EXPESSIONで発表済)を除く新7曲は録音当時、タイトルを付けられず、リリースの際に付けられたそうです。読み流せば、何ともないが、チョット気になる。恐らく、この時点で、既にコルトレーンは死期を悟っていたのだろう。コルトレーンはインパルスと再契約した際、録音からリリースまでほぼ全権を得ているので録り溜めしていた可能性も高いです。

一休みをして更にもう一度、聴き通した。上手く表現出来ないがこのカヴァの様に深々とした前人未到の世界を粛々と突き進むコルトレーンの姿がはっきりと浮かび上がってくる。



 

当時「モダンジャズ界の黒い牽引車」と謳われた男の最後期の姿がここにある。こんな荘厳な演奏を耳にすると、しばらく他は何も聴けなくなる。この作品が録音された1967年2月15日はモダンジャズ・絶頂期の一日だった。そして、この種のJazzが当たり前の様にジャズ喫茶で流されていた「あの頃」は今振り返ると、もう二度と来ない凄い時代でした。


㊙愛聴盤 ・・・・・ QUARTET 1976 / RICHARD KAMUCA

2024-07-04 | ジャズ・ts

 

以前、亡くなる少し前にレコーディングされた”DROP ME OFF IN HARLEM”をUpした際、抱き合わせで紹介していますが、今回は単独でUpします。

KAMUCAと言えば、とうの昔からモード盤と相場が決まっていますが、相場ほど当てにならないものはありません。相場は思惑で動き客観性が希薄な場合もあり、コレがBESTです。同じ‘QUARTET’でも、こちらは、KAMUCAが癌で亡くなる前年、1976年に自費出版?に近い形でレコーディングされた作品で、恐らく、「遺作」となることを想定して録音したのだろう。何故ならば、‘RICHIE’ではなく正式な‘RICHARD’とクレジットされている。

もともとレスター系のテナー奏者だが、50年代後半、コルトレーンをかなり聴き込み、少なからず影響を受けている。だだ、カミュカは自分の奏法にしっかりと消化しているので、一聴しただけでは解らないかもしれません。M・ロウの味わい深いコード・ワークのよるサポートに乗って、カミュカはやや塩気を含んだ音色でそれは見事なソロを聴かせます。

KAMUCA自身が好きで録音したかった、と述べている作曲家C・ポーターの‘I Concentrate On You’から始まる本作は不思議な生命力に満ちている。でも、その生命力は若さ、或いは自信などから生まれるキラキラしたものとは違って、無我、無心といった精神から生ずるピュアなもの。「死期を悟った境地」など通り一遍の言葉では、到底、言い尽くせない何かが宿っている。とにかく、‘I Concentrate On You’のドライヴ感が利いたイマジネーション豊かなテナー、どうでしょう!「嵐が吹き荒れる運命に巻き込まれようと、トラブルの津波に襲われようと、私はあなたに夢中 ・・・・・」にグイグイと引き込まれてしまう。同曲の名演の一つではないでしょうか。H・マギーの”DUSTY BLUE”のヴァージョンと双璧ですね。

また、A-4の‘Say It Isn't So’ではテナーの澄んだ音色に心が奪われる。さりげなく吹くだけでこれだけの表現力はもう半端ではありません。「貴方がもう私を愛していないと皆が言うけれど、そんなことない、と言って・・・・・・」に対し、恰も「噂なんか気にしなくいいよ。オレはお前をずっと愛している、これからも・・・」と髪の毛を優しく愛撫するかのようなソロにゾクッとします。また、その後を受け、小躍りしたくなる喜びをグッと噛み締める乙女心を代弁するM・ロウのgも素晴らしい。ジャズという音楽しか表現できない展開です。


B面に移っても、KAMUCAのピュアなテナーは冴え渡り、ラスト・ナンバー、L・ヤングのフェイバリット・バラード(但し、レコーディングはしていないとの事)‘Tis Autumn’では、ハスキーなVocalまで聴かせます。最後に自分の肉声を記録しておきたかったかもしれません。ここでのKAMUCAのテナー、上手な表現ができませんが、俗ぽさがまったくなく、浮世離れした異端の世界を創出している。同曲のベスト・ヴァージョンです。

真のマニアから「不世出のテナーマン」と謳われる所以は、モード盤ではなく本作の存在があるからではないでしょうか。このアルバムは「知られざる名盤」の中でも横綱級だろう。

1977年7月22日、誕生日の前日にこの世を去った。享年46。大器晩成型(と思う)のKAMUCA、せめて、あと10年長生きしたら何枚も傑作を創ったでしょう。


なお、本作は後にコンコードから‘RICHIE’というタイトルで再発されています。ただ、ダサいカヴァが玉に瑕です。

 

 


無名盤 、されど個人的傑作・・・・・CANYON LADY / JOE HENDERSON

2024-02-16 | ジャズ・ts

 

もう一枚、ジョー・ヘンにお付き合いを。以前、拙HP”BLUE SPIRITS”で本作をUpした際、「TOPの‘Tres Palabras’を聴くと、こりゃ、演歌ですよ」と、頓珍漢なコメントをしている。つい最近、この曲がキューバの作曲家、オスヴァルド ・ファレスが書いた名曲と知りました。正に浅学の極みです。

本作の録音は73年ですが、リリースされたのは75年、この頃はもう「ジョー・ヘンは何処へ行ったの?」とジャズ・ファンの記憶から遠ざかっていた上に、軽目のカヴァが災いしたのか、関心度が薄い一枚だった。ただ、多重録音とかマルチ・リードで演奏するのではなく、本来のts、一本に絞っている所に好感が持て、ダメもとで拾った記憶があります。

 

 

当然のことながらパーカッションを利かせた有り触れたラテン・ジャズではなく、ファンクのスパイスを濃い目に絡ませ、時代性を確りと取り込んでている。ただ、そこにルイス・ガスカがアレンジする‘Tres Palabras’の演歌ブルース(テーマ部分)が入り込むと、多国籍・ごった煮を連想しますが、一本筋が通ったジョー・ヘンのtsが見事に吹き消している。
泣き節の後、テンポを速めたジョー・ヘンのtsが実に心地良く飛び出す。所々、ハッタリを効かせながら流動感を持たせ、「起・承・転・結」が見事に整ったソロは出色の出来です。それに音がイイ! CA、バークレーのファンタジー・スタジオで、Jim Sternというエンジニアの手で録音されていますが、ジョー・ヘンの「音色」が抜群。BNの重量感ある黒さと異なりタイトで澄み切り、それでいて密度が濃い黒さです。

B面の二曲も、J・Heardの鼓膜を強く刺激する図太いファンク・ベース、小気味よく煽るパーカッションとリズムに乗って、時折り、ダーティさを醸すジョー・ヘン節が炸裂する。それにしてもtsの鳴り具合は全キャリアの中でも指折りです。また、タイトル曲でのG・DUKEのエレピも、メリハリがあって聴かせます。
ただ、A-2のオリジナル‘Las Palmas’はやや考え過ぎ、消化不良で、B-2のラストのパーカッション・ソロは付け足し気味で長過ぎます。この辺りが上手く調整されていたならば、と思います。

このアルバムは当時の米国のジャズ・アルバムで27位にチャートインしたそうです。因みにショーターの”NATIVE DANCER”は16位とのこと。両作品の狙い所は異なるけれど、我が国の世評は月とスッポン以上の差がある。その点、本国は違和感がありませんね。個人的にも”CANYON LADY”が断然、月です。いい歳して、また、メデイァ、世間に楯を突いちゃいました(笑)。

田中禮助氏の言葉を借りれば「粗にして野だが卑ではない」ジョー・ヘンのtsが壮大に鳴り響く。

”Bluespirits20100608”


堅忍不抜・・・THE STANDARD JOE / JOE HENDERSON

2024-02-09 | ジャズ・ts

 

VILLAGE VANGUARDでのライブ録音Ⅰ、Ⅱは、少なからず「御祝儀」の香りがするものの、概ね絶賛を得た。問題はその後の二作目。ところが、何故かBLUE NOTEが二作目の録音を計画した形跡がない。正確には、しなかった、出来なかったのだろう。A・ライオンは亡くなる前、このⅠ、Ⅱをすごく気に入り「BLUE NOTE史上最高のセッション」とまで断言したそうです。ま、よくある話で仕事、人生の区切りを付ける称賛の一種で額面通りに受け取るか、どうかはともかく、言葉だけが独り歩きし、関係者には天の声に聞こえただろう。事実だけを言えば、ライオンは1987年2月2日に他界している。

ジェノバのライブ盤”AN EVENING WITH・・・”(1987年7月)から4年近くが経ち、本家本元のBLUE NOTEの動きを窺っていたREDは痺れを切らし(笑)、1991年3月26日、NYに出向きスタジオ録音した作品。

タイトルは、”THE STANDARD JOE”。このシンプルにしてストレートなタイトルはREDがジョー・ヘンの好調さをずっと把握していたことの証に他ならない。

 

定番スタンダードの”Body & Soul”の他はジャズ・スタンダードとジョー・ヘンのオリジナルの構成だが、REDは彼の特性を見抜いてる。もともと、スタンダードを始めバラード、ボサノバ、ラテン系等々、上手く料理する優れた才能を持っており、60年代のBLUE NOTE時代のゴリ押し新主流派のイメージが強いけれど、タイプとしては隠れGETZ派と勝手に思っている。

TOPに人気ナンバー”Blue Bossa”を、オリジナルを挟み真ん中に美味しい3曲を、最後に決め曲”Body & Soul”の別テイク、と配列も吟味している。中でも”Take The A Train”ではハーレムへ向う逸る気持ちを巧みにフェイクするスキルが聴き物。全7曲、69分53秒、期待を決して裏切らないモダン・テナーの最上級のパフォーマンス、髄が詰っている。また、録音(CD)も良く、ジョー・ヘンとREDは相性がいいですね。個人的な欲を言えば、”I Remember Cliffrod”、そして、彼はC・ポーターの曲が良く合うので、例えば”I Concentrate On You”あたりでも加わっていれば、もう、言う事なしです。

この作品をジョー・ヘンのキャリアと重ね合わせると、柄にもなく四字熟語で表せば「堅忍不抜」が浮かんでくる。本作も我が国のジャズ・メディア(ジャズ本も含め)はよそ者REDに冷たく、あまり知られていない。

噂を聞き付けたVERVEは透かさず、彼を迎い入れ、一作目はグラミー賞(1992年)に輝いたが、VERVEの資金力に物を言わせた出来レースに近く、あの”Naked”な ジョー・ヘンの姿は影も形も消えていた。不遇時代が一番、充実していたとは・・・・・・、よくあるケースですね。それにしても、本当の不遇時代のジョー・ヘンを裏で支えたREDの功績は大きい。


正真正銘の名演 ・・・・・ AN EVENING WITH JOE HENDERSON , HADEN , FOSTER

2024-02-02 | ジャズ・ts

 

 

ジョー・ヘンの後半のキャリアは1985年、新生BLUE NOTEにVillage Vanguardでのライヴものを録音し、それまでの不遇と言う長いトンネルを抜け、ジャズ・シーンの表舞台に舞い戻った、というが通説となっている。

「完全ブルーノート・ブック」にこのVillage Vanguardでのライヴもののレビューが載っている。「ロリンズの1581を約30年後に全く同じ趣向でそれを凌がんとする傑作を残したことに、言葉も出ないほど感動を憶えたファンも多いはず。彼にとってのマイルストーンであるばかりではなく、80年代ジャズをも代表する1枚」と、最上級の賛辞が送られている。新生BLUE NOTEの再スタートとジョー・ヘン復活への花束贈呈にいちゃもんを付けるつもりはさらさら無いけれど、腑に落ちなかった。名演、名盤を義務付けられたジョー・ヘンのtsは悲しいかな委縮していた。

本当の不遇時代は、むしろ、皮肉にもこの後、1992年にVERVEから新作”LUSH LIFE”をリリースまでの7年間ではないか。その不遇時代に手を差し伸べたのが、イタリアのRED。REDはBLUE NOTE盤を確りと分析し、ジャズ・クラブとは逆に開放的なジェノバ・ジャズ・フェスティバル(1987年7月)のステージを用意した。

”AN EVENING WITH JOE HENDERSON, CHARLE HADEN, AL FOSTER”、ジェノバの夏の夜空の下、ジョー・ヘン、会心のプレイを聴くことができる。それにしても、この夜のジョー・ヘン、余程、調子がよかったのでしょう、肩の力が抜け、自由自在にtsを鳴らし切っています。

収録曲はお馴染みの4曲。モンクの‘Ask Me Now’、オリジナルの‘Serenity’、S・リバースの‘Beatrice’、そしてジョー・ヘン、18番の‘Invitation’。
中でも‘Serenity’における一気に畳み掛けるようで、見事にコントロールされたソロ・ワークは圧巻! お得意の‘Invitation’では余裕あるアドリブを披露してくれます。

ただ、イタリア盤なのか、一部のファンを除き、広く知られなかった事が真に残念です。我が国のジャズ・メディアはもっとファンに伝えればよかったのに。

録音も良く、ライブというハンディをまったく感じさせず、ステレオ録音とクレジットされているが、ほぼモノラルに聴こえ三者が一丸となっている点がイイ。少しパワーを入れると、臨場感がすごく、ステージの真ん前でかぶりつき状態です。

 

”Bluespirits 20130310”