アートの周辺 around the art

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引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

アーティストになれる人、なれない人(宮島達男・編)

2013-11-10 | 

アーティストになれる人、なれない人 (magazinehouse pocket)

デジタル数字のアート作品で知られる宮島達男さん、京都造形芸術大学で副学長をつとめられているということもあり、「日本の美術教育を考える」というシンポジウムを開催されました。そこに招かれた日本を代表する7名のアーティストと宮島さんの対談を記録した本。タイトルは「才能のある人、ない人を選別する」みたいに誤解されそうですが、そうではなく、小・中・高の美術教育の改革によって、もしくは大学という機関において、「トップアーティストを育てる教育は可能か?」ということがテーマになっています。

対談は4日にわたって行われ、メンバーは、①佐藤卓・杉本博司 ②大竹伸朗 ③茂木健一郎・やなぎみわ ④名和晃平・西沢立衛 という豪華な顔ぶれ。大学教育に関わっておられる方も多く含まれるメンバーに対し、宮島さんは非常に快活な様子で話を進められ、それぞれの専門分野や活動の状況が反映された、とても個性的な話が繰り広げられていて、大変興味深いです。

その中でも、唯一鼎談ではなかった大竹伸朗さんと宮島さんとの対話は、個別の作品とか絵画・彫刻といった専門分野を飛び越えた、「芸術」というものに向かっていく「芸術家」の生き方論が展開され、もっと言えば、「芸術家」をも超えた、人の生き方についての深い話であるようで、なんだかとても心に響くものがありました。

「意味がない、と思うことをやり続けることで、意味が出てくる」「人から何か言われてやめてしまうとしたらそこまでということ」…大した才能も持たない者にとって、時間を積み重ねることで才能を越えることができるというのは、耳が痛く考えさせられることであり、また勇気づけられる言葉でもあります。

大竹さんの芸術家への成り立ちを追うと、けっこう壮絶です。決して真ん中に安住することなく、常に辺境で、自分を追い込んでいる。それでもとっても意思が固いというか、強いというか、やはり芸術を強烈に信じているのでしょうね。それを、大竹さんの言葉で(直接ではないですが)聞けるってのがすごくイイです。

この4つの対談を通して、宮島さんは、「トップアーティストを教えることなどできない。ましてや、「教育メソッド」などで生まれるはずがない」という結論を得ました。しかしながら、優れたアーティストたちに共通して言えることは、「人」との出会いや「環境」がもたらす影響の大きさでした。せめてそれをうまくオーガナイズするのが、教育現場の仕事ではないか、と。

また、美術大学を出ても、トップアーティストになれるのは1%に過ぎない。そこで、宮島さんは、99%の社会に出ていく学生たちに対し、「芸術の持っている本来の力、社会への影響力をしっかり広め伝え、想像力と創造力を自分の人生や社会を切り開く武器にしてほしい」と願い、「それが本来のアートの役割だ」とおっしゃっているところには、とても共感しました。

メンバーの皆さんの作品をよく知っていることも、楽しめる要素ですね。きっとアーティストを目指す若い方が読んだら、全然違うものが感じられるのではないでしょうか。

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