アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

坂本龍一 with 高谷史郎 設置音楽2 IS YOUR TIME

2018-03-11 | 展覧会

その展示空間に足を踏み入れるのは、ちょっと怖かった。なぜなら、目が慣れていなくて真っ暗だったから。中は広い長方形の空間、両側に背の高いモニターが5台ずつ並べられていて、音と光が瞬いている。そこに映るのは、具体的な映像ではなく、音に連動した電子の軌跡。そして、一番奥にぼんやり浮かび上がって見えてきたのが、小さなグランドピアノだった。

「何がなんだ」って全然わからないまま、この二人が協働してるなんて、絶対見に行かなければ…!と思って新宿までやって来た。音と映像のコラボレーションが展示空間に設置される「設置音楽2」は、昨年、坂本龍一が8年振りに発表したアルバム「async」を携え、ワタリウム美術館で行った展覧会の続編だ。

音と映像のコラボレーションは、約70分ほどでワンサイクルとのこと、水の流れる音や鳥の声など自然の音や人の声や電子音、そしてピアノの音…。緻密に組み立てられたであろう、さまざまな音が映像の光とともに空間を満たす。あちらこちらと音の出るスピーカーも変化するので、自分の立ち位置を変えると、音の聞こえ方も変わる、映像の見え方も変わる。オモシロイ!

ピアノにそっと近づいていって「あっ」と声をあげそうになった。汚れて泥をかぶったYAMAHAのベビーグランド。中を覗くと、高音のピアノ線が切れている。これは、東日本大震災の津波で被災した宮城県名取市の高校のピアノだそうだ。線は一部切れ、躯体は傷ついているけど、フレームがすごくしっかりしていることに、むしろ驚いた。自動で鍵盤を押すことができるよう、がっしりとピストンのような機械に覆われている。スピーカーから流れる、さまざまな音の中で、このピアノが時にかすかに、時にダーンと強く、ナマの音を発するのだ。

例えば、全体の音が止んで静寂が訪れた時、ピアノの低音がダーンダーンと鳴ったり、そのタイミングが絶妙すぎて、てっきりプログラムに組み入れられていると思ったら、それは全くの偶然だった。このピアノの音は、世界中で起こっている地震の揺れを音に置き換えたもの、ひっきりなし発せられるピアノの音に、地球の奥にうごめくエネルギーを感じる。

どうも、ピアノが怪我をしてギプスをつけられている子に見えて、何だか傍を離れがたかった。先のブログに書いたように、ピアノについての本を読んでいたから、ある意味「無残」な姿が悲しくもあり、それでも音を発することのできる強さに胸が締めつけられるようでもあり…。何とも言えない気持ちになった。坂本さんは、このピアノは「自然によって調律された」とおっしゃっている。

五感が揺さぶられる、素晴らしい空間を味わい、ホントに感動しました。ちょうど京都で坂本龍一のドキュメンタリー「CODA」が始まるので、それを見て記事を書こうと思っていて遅くなりました。結局、家の事情で見に行けなかったのですが、3月10日夜にNHKで坂本さんとこの津波ピアノをめぐるドキュメンタリーが放映されます。それを待ってると、展覧会が終わっちゃうからネ。ぜひ、この稀有な体験を多くの人に味わっていただきたい!

展覧会は3月11日(日)まで。絶対、行くべし!!

※坂本龍一さんと津波ピアノのドキュメンタリーを見て、訂正と追記。

会場に並んでいたモニターは両側5台ずつの計10台、スピーカーが14台でした。訂正します。また、津波で被災したピアノとは、私は流されたと思い込んでいましたが、体育館で水に浸かり、あれほどの重量が水に浮かんだということです。被災直後に体育館で坂本さんが奏でたピアノの音は、殊の外美しかった。高校の音楽の先生が、体育館と一緒に壊されなくて本当に良かった、と言われていたのが印象的でした。

津波ピアノは、この後、世界中で展示されるということです。東京展は3/11で終了、お見逃しなく!

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