人間国宝である染織家、志村ふくみさんについて書きたいと思います。
志村さんは、現在85歳、滋賀県近江八幡のご出身で、そのうっとりするような作品を、わがホーム・ミュージアムである滋賀県立近代美術館では着物だけで90点ほど所蔵していて、常設展でも1年に1回はお目にかかることができます。
そもそも私が色に興味を持ったのも、志村さんの着物から。天然の植物染料で染められた色は、どれもやさしい色合いで、それでもはっとするほど強い主張をもっていたり。そしてまたその組み合わせの絶妙なこと!まさしく衣桁にかけられた着物の中に自然の美しい世界がおさまっているような、そんな作品です。
志村さんは、またすぐれた文章の書き手であり、たくさんの本を出され、数々の賞も受賞されています。
この『色を奏でる(ちくま文庫)』は、写真が豊富におさめられ、四季おりおりの自然の風景とともに、志村さんの染めた糸や織った布が載っているのですが、驚くのは、糸や布が自然の風景そのものに見えること。まさにそれは清らかな水の流れや、草が風に揺れる様子や、水面に光がきらめくさまや、夕日に染まった景色なのです。本当に美しい。
そして色についての興味深いお話がたくさん書かれています。
たとえば緑という色について。緑は草木の染液から直接染めることのできない色だそうです、この世界にはこんなに緑の植物があふれているというのに。志村さんはそれを「より深い真実を私たちに伝えるために、神の仕組まれた謎ではないだろうか」といいます。海や空の色である青と、光の色である黄があらゆる色彩の両極にあり、その中に無限に生まれる緑、それは移ろいゆく生命の象徴…。
志村さんの、織についてのお話もとってもおもしろいので、また次回紹介したいと思います。